東京大学 大学総合教育研究センター准教授 中原 淳氏

写真拡大

■角が立たないように上司にモノを申す

【TECHNIQUE】移動中の電車や車の中で

そもそも「モノを申す」ことは憎まれ役を買って出ること。従来のオペレーションを脅かす行為にほかなりません。新しいことをなすときは、必ず葛藤や矛盾を伴います。ある程度憎まれることは織り込み済みで挑むべきなのです。

もっとも物事には上手なやり方があります。どうせ波風が立つのなら、たとえ生意気だと思われても、最終的に上司に納得してもらえて、その結果、うまく仕事が進むようになれば目的は果たせます。

ここでポイントになるのが、上司をうまく動かす術を持つことです。上司が何を求めているのか、上司にとって何がメリットになるのかを見極めるのです。

ハナから問答無用の上司は別として上司にも聞く耳はある。ところが部下は提案の選択肢がA、B、CとあってA案を通したいときに、上司にAだけを見せて通そうとする。B案やC案を見せなければ、話が早いと思い込んでの作戦でしょうが、これは誤りではないでしょうか。

実は上司としては判断材料が欲しいのです。余計なものを隠せば隠すほどジャッジはしにくくなります。上司とて、その案を上層部に説明するわけですから、最終的にA案にたどりつくような材料が欲しいのです。となれば、部下は何を用意すべきか見えてくるでしょう。

不平不満をぶつけて一方的に上司を悪者にしてしまうのも建設的ではありません。仕事と人格を分離して、ことをなしたいものです。「一緒にやりましょう」とか「協力させてください」というスタンスを見せることも大切です。

内容もさることながら、モノ申すタイミングや状況も工夫できます。同じことを訴えるにしても、上司がイライラしているときには、いい結果は望めません。また話すときの立ち位置も権力関係から逃れられるポイントになります。

上司との関係づくりがうまい人が、モノ申すきっかけにしているのが、移動中の電車や車の中です。電車や車では、横に並んで座るので威圧感がありません。

また、移動中は時間も限られるので延々と叱責されないし、他の客の目もあり、上司もあまり怒れません。そこで、モノを申すさぐりを入れるのです。いけると思うのであれば、自社に帰って本格的に案をまとめればいい。

電車の移動時間などの細切れ時間を使えば、人間関係の構築や仕事の振り返りなどを効果的に行うことができるのです。

忘れてはいけないのが、モノ申すことは目的でなく、手段だということ。上司にモノ申してまで変えたいことは何か。それを明確にしておくことが肝要です。

■査定の低い部下のモチベーションをあげる

【TECHNIQUE】仕事の割り振りがポイントに

まず査定が低い理由をきちんと説明すべきです。そのうえでモチベーションがあがるよう工夫して仕事を割り振ります。

査定が低い部下に「仕事ができない」という負のラベルをつけて、重要な仕事を与えない上司も少なくありません。しかし能力が100の部下に80の仕事を与えると、残り20の能力は活用されずに腐っていきます。すると能力が80になり、そこで60くらいの仕事しか与えなければ、また余剰能力は朽ち果てる……。悪循環が始まるのです。

部下の能力をあげるためには、少し背伸びが必要で“挑戦”しがいのある業務を与えモチベーションを維持し、指導やアドバイスのフィードバック(振り返り)を繰り返すことが大切。そのために上司がすべきことはたくさんあります。

まず部下の仕事の内容を把握すること。上司は部下の仕事を正確に把握していないことが意外と多く、上司が思うよりも負荷が大きかったり複雑だったりする。仕事の内容を把握し、どの程度の負荷がかかるのか、部下に説明する必要があります。そして部下の能力と仕事の負荷の関係から適正な期限を設定するのです。

そして権限委譲されたという実感を部下に持たせることが大切です。やっつけ仕事ではなく、まとまった仕事を任されたという実感、自分の仕事に対するオーナーシップを持たせることです。

仕事の途中で部下に精神的な支援を行うことも効果的です。「見てくれている」という安心感が支えになります。特に上司からのちょっとした一言は大きい。同僚からの「大丈夫だよ」という言葉は実は効果は薄いのですが、上司からの励ましは少しの量でも絶大な効果があります。

ただし、持ち上げて調子に乗せたり、おもねったりしてはダメ。学校では、子供におもねり、玩具になってしまった教師は二度と教師に戻れない。最初の7日間で教師と子供の関係が決まるのです。会社でも最初の段階で部下から逆査定されていると思うべきでしょう。

仕事が終わったら、フィードバックの機会を与え、なぜこの仕事がうまくいったのか、どういう気持ちだったのかを意識させます。

モチベーションをあげることは手段であって目的ではない。大切なのは仕事にいい影響が出ることです。モチベーションをあげようと飲み会をして、その場は盛り上がったとしても仕事が停滞しては意味がありません。モチベーションアップは仕事が当人にとって面白くなるよう、仕事そのものを通して行うべきです。

上司の役割とは、仕事の割り振り、フィードバック、職場の雰囲気づくりの3つにつきます。これを徹底してつきつめれば、査定の低い部下のモチベーションをあげることもできるでしょう。

■中身のない若手部下を戦力化する

【TECHNIQUE】世代の違いを認識し文章を書かせよ

動画ありBGMありの演出に期待が高まったのに中身が薄っぺら……。若手部下のプレゼンに肩透かしを食らわされる上司も多いのではないでしょうか。

パソコンやインターネットが玩具代わりで、小学校から情報教育を受けてきた20代の情報スキルは上司から見ると格段に高い。彼らのプレゼンの演出はスティーブ・ジョブズ並みに見事です。しかし肝心の中身が乏しいことも多い。私の授業でも、見事なプレゼンをする若い大学院生にA4用紙2枚に研究内容を書かせると、まるで書けないことがあります。

全員とは言いませんが、論理思考など、中身をつくる訓練ができていないのに、それを入れる器の技術に長けているのは、この世代の特性と言えるかもしれません。

中身のないプレゼンを目にすると「おまえ、○△大学出たんだろう?」と嫌みの1つも言いたくなるかもしれません。しかし大学に関しても40代が思い浮かべる大学と今の大学は異なります。

現在の大学入試ではAO(アドミッションズ・オフィス)入試や推薦入試が広まりました。結果、一般入試を経て入ってくる学生が減少し、1、2割という学校も珍しくありません。また卒論を課す大学も減っている。学生時代に論理が問われるまともな文章を書いていないのですから、プレゼンの内容をA4用紙にまとめられなくても仕方がありません。

「○○大学出身ならこれだけできて当たり前」という前提は崩壊しています。「○○大学出身」という看板はシグナルとして機能しない。同じ大学出身でも何を学んだかで、大きな個人差があるのです。

しかし、だからといって、彼らをあまり能力が伸びそうもない、重要でない業務に従事させてはいけません。

若い世代は小・中・高校と職場訪問や企業人による出前授業などのキャリア教育を受けています。このため自分の成長や専門性を伸ばすこと、プロフェッショナルな領域を伸ばすことへの意識が強い。ですから、能力が低いからといって、彼らが重要でないと認識する業務に従事させると、やる気を失うことがあるのです。

これまで何を学んできたか、これから何をやりたいかを意識してコミュニケーションを取る。そして、仕事の意義を説明したうえで、技術を駆使したプレゼンを禁止し、ひたすら書く練習をさせて考える力を伸ばす。それが論理思考ができない若手を育てる道になるのです。

----------

東京大学 大学総合教育研究センター准教授 中原 淳
1975年生まれ。東京大学教育学部卒業。大阪大学博士。企業・組織における学習・成長・コミュニケーションについて研究。共著に『企業内人材育成入門』、近著に『職場学習論』など。

----------

(東京大学 大学総合教育研究センター准教授 中原 淳 構成=斎藤栄一郎 撮影=石橋素幸)