惜しくも直木賞受賞を逃した西加奈子さん。候補作となった『ふくわらい』は、朝井リョウさんの『何者』・安部龍太郎さんの『等伯』と同様に高く評価されましたが、決選投票にて他二作品に負けてしまいました。西加奈子さんをはじめ、熱烈ファンには残念な結果となってしまいました。

 『ふくわらい』は、出版社で働く編集者で、ふくわらいが趣味の「鳴木戸定(なるきど さだ)」の物語。定は、フランス革命期の貴族・小説家であるマルキ・ド・サドをもじって名づけられており、その名前のように、とても風変わりな個性を持つ25歳の女性です。紀行作家だった父に連れられていった旅先で特異な体験をすると、定は「世間」と「自分」を強く意識するように。人付き合いは上手くなく、日常を機械的に送っていた定。しかし、定同様に個性的なキャラクターを持つ人たちと出会うことで、心の壁が崩壊。衝撃のラストを迎えます。

 『週刊朝日』での瀧井朝世氏の言葉を借りると、「祝福に満ちたラストシーンには、正直度肝を抜かれた。著者はついに、この境地まで達した」とのこと。

 同作には、目の見えない人が数多く登場します。定の乳母である悦子をはじめ、定の担当作家の水森、そして、定に一目惚れをしてしまう武智次郎です。なによりも、ふくわらいをしている定は、目の前が見えていません。しかし、武智は「目が見えませんが一目ぼれです」といい、定も完璧に目、鼻、口、眉毛を置くことができるようになったのです。

「見えないものを見る」

 私たちの生活では、多くのものを見た目で判断しがちです。テヘラン生まれの西加奈子さんも、日本に住み慣れていくうちに、いつの間にかあらゆるものに迎合するようになってしまったと言います。

 社会が決めたルールや価値観について、「本当にそうなのか?」「自分はどう考える?」と、一つひとつ自分と重ねながら、丁寧に生きたいと思う人は多いはず。そんな「真っ直ぐな生き方」を表現しているのが、同作に登場する定なのです。

「先入観にとらわれがちだったな」と、反省しがちな人ほどハッとする、感動小説です。



『ふくわらい』
 著者:西 加奈子
 出版社:朝日新聞出版
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