デビュー作の「風待ちのひと」、続く「四十九日のレシピ」と、あたたかな読後感のある作風が魅力の作家・伊吹有喜さん。「四十九日のレシピ」は2作目にしてNHKでドラマ化され、今年映画化されるほどの話題作となりました。そんな注目の伊吹さんの新刊「なでし子物語」が出版されました。

 舞台は静岡県の天竜川の近く、峰生(みねお)に建つ「常夏(とこなつ)荘」。豊かな自然と昔ながらの風習が残るこの地で、夫を若くして亡くし、息子や舅との関係に悩む照子、学校でいじめに遭う小学4年生の耀子、そして照子の舅が愛人に産ませた小学1年生の男の子・立海(たつみ)の三人が出会う。ともに常夏荘で暮らす中で、互いの関係は少しずつ変化を見せ始めていきます。

 この作品で描きたかったことについて、伊吹さんは次のように話します。

伊吹:描きたいテーマはいろいろあってひとつには絞りにくいんですが...ただ、何となく疎外感があり、居づらい場所にいた一人ひとりが、ひょっとしたら手を伸ばしたら誰かとつながることができて、そこに誰かがいるという「確かさ」ですとか、その手が離れてもどこかで繋がっていられるという「温かさ」ですとか...そういうことは作品の中で大事にしたいなと思いました。また、境遇が思うようにならなくても、うつむいてしまうような状況であっても、顔を上げて新しい自分を作っていこうという、そういう気持ちを大切にしていこうと思いました。

 今回の作品には小学生の2人など、今までの伊吹さんの作品にはなかった年齢層の人物が登場しています。作中ではそうした子どもたちの世界もリアルに描かれているのですが、実はそれには伊吹さんのこれまでの仕事の経験が役立ったのだとか。

伊吹:実は作家になる前はライターをしていて、幼稚園などの学校紹介や育児関連の雑誌の仕事をしていたときがあるんです。お子さんたちに取材していると、答えが本当にさまざまで興味深かったです。突拍子もないようなことや、大人が困るようなことを言ったり。そういうことを天真爛漫に話してくる、一筋縄でいかないお子さんもいるし、純粋な子もいるし、それからこちらの質問に誠意をこめて返そうとするあまり、ずーっと考え込んじゃうお子さんもいたり(笑)。

 「困ったこともありましたけど」と笑顔で振り返った伊吹さん。そうした経験は今になると大きかったといいます。また立海たちに勉強を教えている、家庭教師の青井を描くうえでも、ライター時代の経験が活きているそうです。

伊吹:ライター時代、大学の先生に話を聞く機会が多かった時期もあったんですが、その時に学生に対して強い信念をもっている先生が大勢いらっしゃって。ただ、先生は一生懸命でも学生に伝わってないこともあるんですね。でもある先生がおっしゃっていたのですが「今は学生たちにそれが伝わらなくても、それが何年、何十年と経って、彼らが人生の岐路に立った時に自分の言葉が思い出されて、その時に役に立つかもしれないから。だからその遠くの事を考えて、いま僕は全力を尽くすんだよ」って。そういう先生方にいっぱい出会ってお話をうかがったりした経験が、青井をつくる上では活きたと思います。

 そんな伊吹さん、作品を書くうえで「こんな作品であれば」ということを心がけているそうです。

伊吹:手持無沙汰だったり、何か気が晴れないなというときに手を伸ばしていただければなと思います。そして手に取って頂いたとき、ここではないどこかに行けて、本を読んでいる間はこの本の中に入って、その間は浮世の事は忘れられて、気持ちが和んだりできる作品であったらいいな、と。そして長くお手元に置いておいていただけたら、ありがたいです。

 最後に今後書きたいテーマなどはありますか?と尋ねたところ、「やりたいことはたくさんあるんです。何でもやってみたいです」と楽しそうに話してくれた伊吹さん。新刊が出たばかりですが、今後どんな作品が生まれるのか、早くも楽しみになってしまいます。


≪プロフィール≫
伊吹 有喜(いぶき ゆき)
1969年三重県出身。三重県立四日市高等学校を経て、中央大学法学部法律学科卒業。出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2008年「風待ちのひと」(改題 夏の終わりのトラヴィアータ)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。次作の「四十九日のレシピ」はドラマ化され、2013年には映画化も予定されている。



『なでし子物語 (一般書)』
 著者:伊吹 有喜
 出版社:ポプラ社
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