金融市場で運用される顧客の資産を確実に管理する

WOMAN’S CAREER Vol.102

日本マスタートラスト信託銀行株式会社 橋本有貴さん

【活躍する女性社員】外国証券にかかわる事務を担当するワーキングマザーの橋本さん


■外国証券に関する知識を深く、広く身につけていきたい

株式や債券などへの投資によって運用されている個人や法人、国の資産。運用時には売買の取り決めやモノ(有価証券など)とお金の受け渡し、残高管理、配当金の受け入れ、資産の所有者に対する運用状況報告などの「資産管理業務」が生じるが、これらを専門に行っているのが日本マスタートラスト信託銀行だ。年金をはじめ国や企業が同社に管理を委託(信託)している資産はおよそ344兆円。市場の拡大により金融商品が多様化する中、商品によって異なる管理方法や各国の法制度、取引慣行などに関する知識が求められる仕事だ。

橋本さんが担当しているのは、外国政府が発行する国債や外国企業が発行する社債などの外国債券を保有しているファンドに対して支払われる利金や償還金(元本)をファンドに入金する業務。加えて、信託契約が終了したファンド(「終了ファンド」と呼ばれる)に入金される外国証券の配当金や還付金などに関する業務も担当している。どちらも、顧客の資産を管理する業務の一つだ。
「利金業務においては、お客さまが保有している外国債券の利払日に支払われる利金が予定の金額どおりに入金されているかを確認し、帳簿に記載する処理を行っています。また、終了ファンド業務は、信託契約が終了しているため、お客さまに入金する口座等を都度確認しながら事務処理を進めることになります。お客さまの大事な資産を管理していますので、ミスをしないことが大前提。そのために、忙しさや体調にかかわらず決められた手順を決して省かずに確実に処理を進めるようにしています」

1日に処理する件数は数百件。多い日で1000件を超えることもあり、それらを約10人のチームメンバーで分担し、決められた期限までに入力・照合を行う。一見、日々同じ事務を繰り返しているようだが、事務処理が効率的になるようシステム化を進めたり、各国の税制度の変更等外部環境の変化に対応した事務フローの変更が求められるという。
「例えば、2013年から始まる復興特別所得税の導入に伴うシステム変更を行っており、システム変更の影響範囲の調査や、システム変更後の税額計算結果の検証など、関係部署と協力しながら、間違いなく事務処理を進める仕組みを作っています。国内外を問わず、税率変更やこれまで非課税だった銘柄が課税対象になるような制度変更が起こると、その都度、事務に与える影響や新たな事務を主体的に考え、行動することが求められます。2010年に起こったギリシャ経済危機の際には、それまではユーロ建てで入金を希望していたお客さまが、ユーロ以外の通貨に入金を変更される可能性を考え、あらかじめ入金する通貨を変更した場合の事務フローを確認・整理しました。『変化』や『変更』が発生しなければ、現行事務に影響することはありませんが、世界の経済情勢や制度変更に機敏に反応しなければいけないことに刺激を感じています」

とはいえ、入社当初の知識はゼロ。「1年目は、複数あるデータや端末の処理方法を覚えて使いこなすことに精一杯だった」と振り返る。仕事の勘所がわかってきたのは入社2年目ごろ。新入社員のOJT(on the job training。実地研修)の指導を任されたのがきっかけだった。
「1年目は一つひとつの処理の必要性や背景の理解があいまいなまま処理していたものもありましたが、2年目に後輩の質問に答えるために調べたり先輩に聞いたりしたことであいまいな点が明らかになり、処理のつながりを整理することができました」

さらに仕事への意識を変化させる機会となったのが、3年目に自らの発案で着手することになった終了ファンドの事務フローに関するプロジェクトだ。これは、業務の特性から紙のまま保管せざるをえなかった帳票や書類を電子化して管理できる仕組みを導入するというもの。橋本さんはプロジェクトの主担当として外部の協力会社選びから契約書の締結、社内の予算繰り、保存されたファイルを検索するソフトの導入などをとりまとめた。
「入社2年目に終了ファンド業務の担当になって以来、必要なときは過去の書類を保管場所まで見に行かなければならない状況をどうにかしたいと考え、周りの人にも相談していたのです。しかし、電子化できる業者さんのつてがなく悩んでいたところ、上司の助言により実現に向けて動くことになりました。経験のなかった外部の方との調整や社内の関係部署への報告、予算繰りに必要な書類の作成方法などを学ぶ機会になったとともに、課題に思っていても悩んでいるだけでは意味がなく、上司や先輩に相談しながら行動していくことの重要さを実感。日ごろから課題を見つけて提案することの大切さを学びました」

それからは、日々、より効率的かつ堅確な事務フローを作る意識が高まったという。
「日々の事務をこなすだけでなく、今使っているシステムに使いにくさはないか?今確認している帳票は本当に必要な帳票か?などを日々考えるようになりました。また、後輩を指導していて『これはなぜ必要なのですか?』と聞かれた際、必要に応じてすぐに一緒に解決策を考えるようにもなりました」

3年目以降はチーム運営に果たす役割も増し、業務効率化のためのプロジェクトや後輩の育成などにかかわる比重が高まった。「上司や先輩、後輩とのコミュニケーションからより効率的で正確・確実な事務を目指すことができることにもやりがいを感じる」と話す橋本さん。今後は、より専門性の幅を広げていきたいと考えている。
「これまで外国債券の残高管理に関する知識を身につけてきましたが、今後は株式などの支払管理も担当してみたいと思っています。債券の中でも商品によって事務処理のスケジュールやフロー、注意点が異なりますが、株式においてはさらに異なる知識が求められます。それらを理解し、外国証券に関する知識をより深く、幅広く得たいと思います」

プライベートでは3年目に結婚し、5年目に長女を出産。産休・育休からの復帰後は短時間勤務を選択し、仕事への臨み方も変化したという。
「退社時刻から逆算して分単位で時間を意識するようになりました。例えば、私が退社したあとにほかのチームからの照会や対応の依頼が来た際、ほかのメンバーが判断・対応できるよう日ごろから判断基準を伝えておいたり、退社前の30〜40分はチームメンバーへの情報共有の時間に充てたりしています」