岩崎夏海氏

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■「取引を整理されない」特別な関係を築く

【TECHNIQUE】相手にイニシアチブを握らせよ

取引先と特別な関係を築くためには、相手に「自分がイニシアチブを握っている」と思わせることが重要です。

たとえばテレビ番組の企画を提案するとき、あえて企画にウイークポイントをつくっておくと、相手のプロデューサーやディレクターは「もっとこうしたほうがいいんじゃない?」と意見を言ってきます。そうしたら「それいいですね。ちょっと書き直します」と言って修正する。すると、相手にとって提案されたはずの企画書が、いつの間にか自分がつくった企画書になっているわけです。

他人からの企画提案に対し、「何でおまえの企画を通さなきゃいけないの?」と思うプロデューサーも多い。しかし、自分の企画になると「俺も頑張るよ」とやる気を出してくれるようになるのです。

もし自分の企画に絶対の自信があり、どうしてもそれを通したいのであれば、万全の準備を整えたうえで向こうから依頼されるのを待ちましょう。

私は30歳のとき、自分の小説を本にできないかと出版社をさんざん回ったあげく、すべて断られた経験があります。

作品を持ち込んだ出版社から「こうしてくれ」と意見が出るのですが、とうていのめない話ばかり。それを断ると「だったら結構です」という形で交渉が決裂したのです。

そのときにわかったのは、「向こうから依頼されないとダメだ」ということです。だから『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(以下、もしドラ)の企画は自分のブログに書いて、出版社から声がかかるのを待ちました。

それも「書籍化したい出版社募集中」というもの欲しそうな気持ちではなく、「この企画に賛同する出版社が現れるなら出版する」という気持ちで書きました。

その結果、たまたまブログを見てくれた編集者から「ぜひやりましょう」と連絡があり、書籍化が実現したのです。

編集者は私の企画を面白いと思ってくれているわけですから、話も早い。お互いの波長も合う。「私が見つけたこの企画をなんとか売れるものにしたい」という当事者意識を持って取り組んでくれました。今では売り上げは150万部を超え、編集者との間に強固な信頼関係が生まれたのです。

このように、取引相手が当事者となるよう巻き込んでいくことが大切です。

■会食の席で、もっと仕事をしたいと思わせる

【TECHNIQUE】「いい店」を選び、最高の演出を!

このポイントは2つあります。

1つめは、お店の選択です。誰でもみんな、「この人はいい店を知っている」と思われたい。したがって接待する立場であれば、取引先の人が自分でデートや接待に使ったとき、「この店いいでしょう」と自慢できる店を選択するのです。

お店のリサーチには地道な努力が必要です。私の場合、師事していた作詞家の秋元康さんが最高の教科書でした。秋元さんは常に新しいお店を開拓しています。その知識を盗んでいました。

もう1つのポイントは演出です。会食を最高のもてなしの場と位置づけて、自分はリッツ・カールトンのホテルマンのように最高のもてなしができる人間であると演出するのです。

芸能界では演出ができる奴は人を動かすことができるという判断をされます。会食で無粋な仕事の話なんかしてもしょうがありません。そこで見られるのは「いかに自分を楽しませてくれるか」という演出の部分だけなのです。

たとえば、うんちくを語って会話が盛り上がるような料理を選んだり、あるいはシェフの人柄がいいお店を選んで会話を楽しんでもらう、といったことに気を配っていきます。

会食中は常に相手の先の行動を読み、至れり尽くせり感を与えましょう。飲み物がなくなりそうになったら「何を注文しましょうか」と声をかけるのは当たり前。お酒が進んでいれば、頼まれなくても「お水を1杯いただけますか」とウエーターに言うと「こいつ、気が利くな」と思われます。これをチェイサーテクニックといい、女の子はワーッと喜びます。

会食が終わった後は、こちら側が接待した場合、基本的に相手から連絡が来るのを待ちましょう。

「接待をしたからビジネスの話をさせてください」と言っても、うまくいきません。逆に、接待が「貸し」になっていることもわからない相手とは、ビジネスをする意味がないでしょう。

■断られた提案を再検討してもらう

【TECHNIQUE】他社に提案し、実績をあげるしかない

このご質問に対する答えは1つだけです。他社に提案を持っていき、他社で実績をあげる。これしかありません。『もしドラ』が150万部売れたいま、私は「行列のできる出版相談所」状態になっています。「売れないから」という理由で断られた小説も出版が決まりました。かつて出版を断った編集者たちも、「うちで本を出してくれないか」とお願いに来ています。

このように他社で実績をあげ、自分の正しさを証明するのです。

10年前に小説の出版を断られたとき、私はいつか必ずぎゃふんと言わせてやろうと思いました。そもそも「この恨み晴らさでおくべきか」が私の1つのキーワードです。

ダイヤモンド社から本を出さないか、それも小説を出さないかと言われたとき、真っ先に浮かんだ言葉が「ここで会ったが100年目」。ここが私の恨みを晴らすところだと、これまでに蓄積してきたあらゆる知識やテクニックを総動員して書きました。『もしドラ』を出版する前から、私は修業のために大量の文章をブログに書いていました。習慣化が大事というのが私の持論で、呼吸をするように書く間合いをつかもうとしていました。

平均すると原稿用紙で1回10枚くらい、仕事が終わってから書きました。一番大変だったのは仕事でもブログでも文章を書き、なおかつ『もしドラ』も書いていた時期で、三重苦みたいになって「いったいどこまで書けばいいんだ……」と思ったこともあります。

そんな生活を送った2008年から09年にかけて、俺が一番たくさん日本語を書いたという自信が生まれました。最も量を書いた人間が、少なくとも下手なはずがない。

実際、私のブログは、はてなダイアリーというブログサービスの中で、1年で最もたくさんブックマークを付けられ、前述の通り『もしドラ』出版のきっかけも生まれたのです。

昔、秋元康さんが「俺は壁を乗り越えたことはない。壁に突き当たったら横にずれていく」と言っていて、なるほどと思ったことがあります。ずれていけばどこかで壁がなくなるから、そこを突破していけばいいと。

断られた相手を深追いするのは時間のムダで、それより別の道を探したほうがいい。私にとっては、それがブログだったといえます。

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岩崎夏海
作詞家・秋元康氏に師事し、放送作家として活躍。著書『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』が150万部を超える大ヒット。

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(岩崎夏海 構成=宮内 健 撮影=上飯坂 真)