変質した「セルフブランディング」-2-

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■TOPIC-2 「本当の自分」からブランドを立ち上げる

前回(http://president.jp/articles/-/8296)も述べたように、書籍のタイトルもしくはサブタイトルに、自分をブランドとみなす文言が初めて用いられたのは、2003年の杉山勝行さんによる『10人の達人に学ぶ――セルフブランドの創り方』でした。

今回のテーマからすると気になるのは、いかにして「セルフブランド」が創られるのかということです。しかし同書は体系だってそのハウツーを示すものではなく、タイトルにもあるような「10人の達人」、あるいは「10人のスーパービジネスパーソン」(3p)のこれまでの働き方が紹介されるという著作でした。つまりセルフブランドという新しい用語が掲げられているものの、同書の内容としては特に他のビジネス書と異なる内容を含むものではなかったのです。

とはいえ、冒頭にはこの用語のもつ新奇性が少しだけですが説明されています。具体的には、個々人がもつブランド(セルフブランド)と企業のブランド(コーポレートブランド)の共通点が示されています。それは「マーケットへの商品投入」、つまり「市場分析に始まり、商品設計・商品開発・販売戦略・市場開拓、そして商品の品質向上を図るというプロセスが同じ」ということでした(4p)。

同じく2003年に刊行された佐藤修さんの『パーソナルブランド』は、日本企業が直面しているグローバル化についての説明、パーソナルブランドの作り方、キャリア開発の仕方、ブランドを作るために必要な能力、ワークライフバランスをとることの意義がそれぞれ論じられている著作です。杉山さんの著作に比べると、かなりハウツーが前面に出ていますが、ブランドという観点の導入の意義についてはほぼ同様の説明がなされていました。

つまり、「自社と他社をはっきり区別させ、圧倒的な存在感と信頼感を確立することで、そのブランドでなければ味わえない体験を約束する」(65p)コーポレートブランドの考え方を参照したうえで、「『彼とだったら安心して仕事ができる』といった情緒的なバリューをまわりの人たちに与え」ることが「その人しかもち得ないパーソナルブランドの正体」だと説明されているのです(70p)。

■「自分らしさ」と「他人がみるあなた」を結ぶ

翌2004年、自分をブランドとみなす考えを体系的に示した書籍が翻訳刊行されます。作家のデビッド・マクナリーさんとコンサルタントのカ−ル・D.スピークさんによる『人生に成功する「自分ブランド」――強いイメ−ジで人を引きつけ、人を動かす』です。同書では、2009年までのブランド論の構成要素が全て出揃っており、また最も体系的に解説がなされています。そこで 少し多めに紙幅をとって、同書の主張を紐解いてみましょう。

同書は「現実と認識、つまり『真のあなた』と他の人々が感じ接しているあなたの像の間にギャップがあるということ」(14p)の問題化から始められています。つまり、自分にはそれなりに能力があるはずなのに、認められないのはなぜなのか――。そのような「本来の自分や自分の信じることが十分認められていない」状況を打開するために、ブランドという概念への着目が促されています(14p)。

同書では、「あなたというブランドとは、他者があなたと関わりをもったときにいだく体験のすべてを表わす認識や感情が、その人の中に維持されたもの」(17-18p)と定義されています。しかし、これだと少し分かりづらいので、他の言及を参照してみると、概してブランドという言葉は、他者がもつ自らへのイメージの総体だと考えられていることが理解できます。

「あなたのブランドイメージとは、あなた以外の人のマインドの中につくられた認識なのです」(18p)
「あなたがどう考えるかなどはほぼどうでもよいのです。他の人がどう思うかが重要なのです」(28p)

では、他者によく思われるように、自分自身のイメージを変えていくことが同書の主張なのかというと、そうではありません。以下にあるように、自分自身の価値観、先の引用箇所の言葉を用いて言えば「真のあなた」「本来の自分」をまず大事にすることが主張されるのです。

「自分らしさ」を大事にせよとされる一方で、「あなたがどう考えるかなどはほぼどうでもよい」ともされるということ。これは一見すると矛盾のように見えるのですが、同書ではこの相反するように見える二つのメッセージを結びつけることが目論まれます。そしてこの結びつけを重要視することこそが、マクナリーさんらの考える「自分ブランド」の中核にある志向であり、また2009年までのブランド論の基本的主張だと考えられるのです。以下、それを見ていきましょう。

同書では、強いブランドは「際立っている」「適切である」「一貫性がある」(32p)という三つの要素が一つになることで作り上げられるとされます。一つめの要素、「際立っている」とは、「自分が何を信じるかを決め、その信念にもとづいて行動すると決めるとき、あなたというブランドが強化され始めます。そしてその瞬間、あなたは他から自分を切り離すことになります」(32p)という言葉で説明されます。「あなたが真実だと信じること」(33p)を明確にすることが自分を他人と異なる存在にする、つまり自分ブランドを作り上げる第一歩になるというのです。

この自己明確化のための作業として同書では以下のような「道しるべ」が示されています。
「人生の目的『あなたの人生とは何なのか?』」(80p)
「ビジョン『私は何を創造したいのか?』」(83p)
「価値観『私にとっての真実は何なのか?』」(87p)

二つめの要素「適切である」とは、「自分の世界から抜け出して相手の世界に入り込」むこと、「相手の興味やニーズが何かを決定すること」を考えることだとされます。「相手は何を望んでいるのだろうか。何を必要としているのだろうか。何に価値を置くのか。何を期待しているのか」といった、相手の「興味やニーズを自分のもつ強みや能力と結びつけ」ること、これが二番目の要素です(35-36p)。

これに関しては、どのような関係性において自らのブランドが試されるのかという「あなたの能力が大切となる分野を見極める」、どのように他者との違いを表わすことができるのかという「あなたの基準と価値観を吟味する」、どのように行動すれば他の人々に大きなインパクトを与えることができるのかという「あなたのスタイルを定義する」、の3ステップの作業が示されています(100-104p)。こうして、「自分の強みを人々の期待に合わせる」(108p)ことが促されています。

三つめの要素「一貫性がある」とは、自分自身の信念と、それを相手のニーズに結びつける方向性を一貫させるということです。「すべての断片が一つにつながり、他に見せているあなたという写真は焦点が合い、ぼやけたり不完全だったりしません」(45p)という、時と場所、相手によって自分の態度が変わらないことが求められるのです。

これに関しては「あなたが他者のためにこうあろうと決めていることを言葉で表現」(117p)したものとしての「ブランド・プロミス」という言葉を中核とした、「ブランドの内部一致」(116p)が図られます。状況や相手によって変わることのない一貫性を自らに打ち立てることが求められるのです。ここでは、簡潔な一文で表現できる、際立った、他者に提供できるものを反映するような「ブランド・プロミス」を書くといった作業が課されています(122-123p)。

整理します。まず、自分自身にとって大切なこと、やりたいことを明確化する。次いで、それらがどのような経路をたどれば他人に受け入れられるのかを考える。そして、自らが提供するサービスの見せ方、自分がどう見られたいかという一貫したポリシーを定める。他人の評価は重要だけれども、それに自分を合わせるのではなく、自分自身の価値観をまずしっかりもって、それにもとづいてよりよく受け入れられる方法を考えていくこと。マクナリーさんらはこのようにして、「自分らしさ」を損なうことなく、他人に受け入れてもらうための方法を体系的に説明していました。

■ブランド論は何が新しいのか

2009年以前の他の著作でもこうした主張は同様です。ポイントを改めて整理しながら見ていきたいと思います。ここでは再び、マクナリーさんらが示した「際立っている」「適切である」「一貫性がある」という3要素を整理の基本線とします。ただ、この表現だと少し回りくどいので、それぞれ「ブランド確立」「ニーズ照合」「スタイル設定」と以降は表現することにします。

まず「ブランド確立」についてです。マクナリーさんらに限らず、2009年までの著作においては、「自分らしさ」によって他人との差別化を行う(際立たせる)という態度が共通して見られます。自己ブランディングとは、「なりたかった自分になること。つまり、成功とは本当の自分になることも意味する」(カピュタ、12p)のだ、「内側からほとばしるような自分の輝き」(藤巻、7p)にもとづくものだ 、といった説明が行われるのです。

そして、「自分ブランドを手に入れたいなら、『そもそも自分とはどんな人間か?』を知ることが大切」(藤巻、24p)として、各著作では「自分らしさ」「本当の自分」を明確化する作業がまず課されることになります。課されるのは、「わたしは」の後にあてはまることがらを20個書き出すこと(遠山、79p)、学生時代の思い出や自分自身の得意なことや自慢できることなどの「現在と過去の棚卸し」(遠山、97-98p)、将来の「あなたのなりたい理想像」(遠山、84p)を明確化すること、「自分がどういう人間なのか、今はどんな状況にいるのか、人生や仕事で何を成しとげたいのか、そうした質問を自分にぶつけ」(カピュタ、16p)ることなどです。

自己の明確化作業の次に課されるのは、「自分の強み・自分の弱み」(遠山、103p)について考えることです。より端的に、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を検討するマーケティング手法「SWOT分析」を自らに用いてみよう、とする議論もあります(カピュタ、39-44p)。こうして、「自分らしさ」「本当の自分」を際立たせる作業は終了です。

こうして「自分らしさ」「本当の自分」の発見・明確化によってブランドが確立され、他者との差別化が可能になるのだとされます。著作のなかでは次のようにも言及されています。

「ブランディングは競争です。あなたが表すものと、誰かほかの人が表すものとの競争であり、アイデアの競争です。(中略)自分を差別化して本物になることを忘れないようにしてください。本物の自分こそが、世に送り出すべき最高のものなのです」(カピュタ、47p)

「自分ブランドとは、あなた自身のブランドのこと。『あなた』をほかの誰でもない、『あなた』にしているもののことだ」(藤巻、6p)

次は2つめの要素、「ニーズ照合」です。ここでは、自分ブランドが自らの内に確立されたとしても、その続きがあるのだ、他者に届けるところまでがブランディングなのだと念押しがなされます。例えば以下の通りです。

「自己をブランド化するとは何か、と聞かれたら、『確固たる一定のイメージを人の心に抱かせること』 では、確固たる一定のイメージを人の心に抱かせるために必要なことは何か、と聞かれたら、『常にブレないイメージを一貫性をもってアピールし続けること』」(遠山、73p)

「あなたが成功できるかどうかは、ブランディングがうまく行く場合と同様、ほかの人があなたに抱くイメージで決まります。(中略)『客観的に』正しいかどうかではなく、認識が現実となるわけです。ほかの人の心にポジティブな印象を植えつける。それが自己ブランディングの働きです」(カピュタ、11p)

このような観点にもとづいて、「誰のために何ができるのか」(藤巻、18p)を考え、「マーケットを絞」(カピュタ、13p)り、「良いアイデアと、あなたが満たせるマーケットのニーズがぴったり重なる部分、つまり『スイートスポット』」(カピュタ、50p)を探し、「ターゲットとするマーケットの人たちに頻繁に名前を売り込む」(遠山、60p)といった作業課題が各著作では示されています。

これらを経て、第3の要素「スタイル設定」に議論は移ります。スタイルの設定にあたって各著作では、「自己キャッチフレーズ」(遠山、118-125p)の案出、「自分のキーワードを持つ」(カピュタ、166p)ことがマクナリーさんらの著作と同様に推奨されていました。

より細かいスタイルについては、たとえば遠山さんの場合、名刺、自己パンフレット、自己絵はがき、お礼状、誕生祝、感動ギフト、自分の名前が入ったグッズ、外見の演出、異業種交流会、SNSの活用といった事柄が挙げられています。「幸せな成功者」プロデューサー・経営コンサルタントの中井隆栄さんによる『「幸せな成功」を引き寄せる 自分ブランド構築術』でも、名刺、メールの署名、ホームページやブログ、SNSのプロフィールに自分自身のセルフ・イメージや「独自のウリ」について書く等の方法が示されていました(中井、106、147p)。

さて、かなり駆け足で詰め込みましたが、2009年までの、自らをブランドとしてみなす著作群の傾向を見てきました。マクナリーさんらが述べたような「ブランド確立」「ニーズ照合」「スタイル設定」という3つの要素は、他の著作でもほぼ同様に見られるものだったと言えます。

ところで、ここまで見てきたようなブランド論は、どこが新しいのでしょうか。率直に言えば、新しいところはありません。自分自身の「強み」を見つけ出し、それがどのように他人に受け入れられるかを考え、自己アピールの明確なスタイルをもつこと。こうしたブランド論の3要素、何かに似ていると思いませんか。

そう、大学生の就職活動(のマニュアル本)とそっくりですよね。自己分析で自らを掘り下げ、自分の「強み」が企業でどう活かせるかを考え、それをできる限り端的にアピールする。このような就職活動のスタイルは1990年代半ば以来のものですが、言ってみれば、ブランド論はそれを既に就職した人々に拡大適用したに過ぎません。このような意味で、ブランド論はまったく新しくないわけです。

就職対策書に限らず、1990年代半ば以降の自己啓発書の多くが求めているのは、「一貫した自己」を自ら作り上げることでした。これが正しいという「定番」の生き方や働き方が見えづらくなった現代において、自分自身が「心から望むこと」を見つけ出し、それにしたがって仕事や私生活を一つ芯の通ったものに作り直そう――ブランド論は、このような啓発書の系譜をそのまま引き継ぐ、いわば啓発書の「王道」を行くジャンルとして生まれたのです。

しかし、「自分らしさ」を見つけることと、それを表現・発信することを一貫・調和させようとするブランド論の基本姿勢は、2010年以後に失われることになります。ではその喪失はいかにして起こったのでしょうか。それが次回のテーマです。

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『10人の達人に学ぶ セルフブランドの創り方』
 杉山勝行/三修社/2003年

『パーソナルブランド』
 佐藤 修/日経BP企画/2003年

『人生に成功する「自分ブランド」 −強いイメ−ジで人を引きつけ、人を動かす』
 デビッド・マクナリー、カール・D.スピーク/ダイヤモンド社/2004年

『自己ブランド戦略12の秘密』
 キャサリン・カピュタ/センゲージラーニング/2009年

『自分ブランドの教科書 −フジマキ流至上最強のあなたをつくる』
 藤巻幸夫/インデックス・コミュニケーションズ/2007年

『できる人は「自己ブランド」を持っている! −自分を売り出す成功法則』
 遠山善英/中経出版/2006年

『自分ブランド構築術 −「幸せな成功」を引き寄せる』
 中井隆栄/インフォトップ出版/2009年

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(牧野 智和=文)