『岩手県立久慈高等学校30年史』(1973[昭和48]年刊)より。

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■ハブ獲り名人の話が聞きたい

久慈高校2年生の桜庭実紀さん、関口ゆかりさん、小室好さん。桜庭さんは臨床検査技師志望。関口さんは薬学研究者志望。2人は将来、県外で働くことを考えているが、教職志望の小室さんは、県内で働くことを考えている。彼女たちに「仕事をしている大人から、どんなことを聞きたいですか」と訊いてみると、じつに具体的な答えが返ってきた。

関口「わたしはきっと矢継ぎ早に質問バーッってやりますね、きっと。どうしてその仕事を目指したのとか、今それをやってていちばん楽しいなと思うのは何かとか、充実してますか、とか。いちばん聞きたいのは、やっぱり嫌なこともあるんだろうから、そういうときはどうやってるんですかとか。いっぱい、ほんとに聞けたら、すごい嬉しいです」

桜庭「まず聞きたいのは、どうしてその職業になったんですか、ということ。医者は医者といっても、わたしがやりたい仕事は遺体を診るわけなので、輪切りとかにもするわけで(笑)、そういうときに何を考えてるのかとか聞きたいです。あと、事件とかに巻き込まれて亡くなった人も診るわけなので、運ばれて来た遺体に対して、どういう気持ちなのか。感情移入はするのかとか。あとは、どういう勉強、どういう進学をすればいいのか。あと、司法解剖だったら、日本に仕事少ないんで、ちゃんとお金が入ってくるのかとか、就職先は安定してるのかとか。勤め先で切られるなら、いちばん最初に切られると思うんで、そういう不安定なかんじなのかとか聞きたいです」

小室「やり甲斐は何ですかということが、いちばん訊きたいことなんですけれど、わたしは今、いろんな職業を知らないわけで、よく『こういう職業がある』みたいな本はあるんですけど、そういうのってうわべしか載ってなくて、どういう人がどういうことを思ってるのかがわからない。わたしは小学校の先生になりたいんですけど、他の職業のことも知りたいんです。子どもたちが興味を持つような仕事のことも知っておきたいんです。小っちゃい子には『大きくなったら○○になりたい』っていうブームが来たりするんです。そのとき、たとえば男の子が『俺は消防士になるんだ』と言ったときに、自分もその仕事のことを知っておきたいんです」

なるほど。たとえば小室さんが先生になったとします。そのときに小学校6年生の女の子が「先生、わたし将来『科捜研の女』になりたい」と言ったとして、小室さんは「それはちょうどいい、わたしの友達にいるんだよ」と言える先生というわけですね。

小室「はい(笑)。 お医者さんだと、本にもけっこう書かれているけれど、 マイナーな職業の人の話とか、いろんな仕事のことを知っておきたいんです」

桜庭「ああ、医者はけっこう本とか出すからねえ。うん、わたしも雑誌のイラストレーターの人の話とか、メッチャ聞きたい」

小室「あと、何とか士みたいな、漢字が5文字並んだ職業の人の話とか、樹木のお医者さんとかも知りたい」

桜庭「うち、ハブ獲り名人、聞きたい」

関口「えー、何それ(笑)?」

桜庭「ハブ獲り名人の話、すごい聞きたいです」

関口「わたしは文系の仕事の話が聞きたい。理系だと、医療だとか、看護だとか、工業系とか、わかるんですけど、文系って何するんだろう」

桜庭「うん、文系って具体的な仕事がパッと出てこないようなかんじする」

関口「文系男子何やるんだろう。『とりあえず俺は頭悪いから文系』みたいな人」

桜庭「すごい多いんだよね」

小室「高校生で、将来を迷ってる人は、かなり多いと思うんです。わたしも小学校の先生とは言っているんですけど、もしかして、これしか見えてないんじゃないかっていう点もあって……。高校になると、ちゃんと自分の道を見なきゃいけなくて、そのときに『こういう仕事もある』って勧められると『ああ、きっとわたしにはそれが合ってるんだ』と思って、そういうのしか見なくなる人も多いんですけど、それでも職業の話を聞くっていうのは、やっぱりいいことだなと」

桜庭「じゃあ、ハブ獲り名人もいいじゃん(笑)」

ええと、ハブ獲り名人のことが頭から離れなくなりました。試験勉強のときに、絶対試験に関係ないことばが頭から消えないような感覚です——こちらがつられて言った軽口に、桜庭さんが即応した。

■大人は知らないサーミ人

桜庭さんが話を聞いてみたいといった「ハブ獲り名人」のことが頭に残ってしまいました。試験勉強のときに、試験に関係ないことばが頭から消えないような感覚です。

桜庭「あっ、わかります。うち、サーミ人それだった。トナカイ放牧するサーミ人」

大人たちが「ラップ人」の名で学んだ北欧民族のことだ。「ジプシー」と呼ばれた者たちが自らを「ロマ」と名乗るように、蔑称のニュアンスを持つ「ラップ人」という呼称は、今の教科書では使われていない。教科書の中身——親子の間での常識や前提となる情報は、たったひと世代で変わる。

小室「親の代が知らない仕事って、子どもに話してあげれないじゃん。だからうちらの代でそういう仕事を知って、次の代に『あんな仕事がいいんじゃない』とか言えるといいんだよね。親が知らないと、子どもが『こういう仕事に就きたい』って言っても『?』ってかんじじゃないですか」

桜庭「うちの両親はどっちも大学行ってないんで、大学のことは、ほんとにわかんないから、学校を頼りにやっていくしかないんです。姉ちゃんのときとか、ほんとうに大変だったみたいで。『センター試験って何?』みたいなところから(話が)始まるから」

関口「うちの母ちゃんもAO、わかんなかった(笑)」

桜庭「子どものほうが、進路については詳しいみたいなかんじですよ」

最後に訊かせてください。大人の仕事の話を何歳ぐらいで聞くと、いい進路選択ができると思いますか。

桜庭「高校生がいちばんベストだと思います」

関口「わたしもそうだと思う」

小室「中学生のときは、あんまりまだ進路とか考えてないから。わたしも中学2、3年生ぐらいまで漫画家になるとか言ってましたから(笑)。高校入りたてのころがいいのかなあ。2年生の後半とかになっちゃうと、もう文理選択が決まってるから……」

桜庭「(進路選択の幅が)キツキツになっちゃってるよね」

小室「だから1年生の後半あたりがいいのかも」

桜庭「大学に入っちゃうと、学科がもう決まっちゃってるから、遅いってわけじゃないけど……」

もう、ハンドルが切れない?

桜庭「そう、そんなかんじがします。やっぱり高校生のときがいちばんいいのかな」

「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」参加者への取材をここまで続けてきて、プログラムの「一番人気」が、現地で働く日本人から仕事の話を聞くものであったことを、こちらは確信している。「TOMODACHI〜」に参加していない関口さんと小室さんからも、仕事をしている大人の話を聞きたいという具体的な思いがあることを確認できた。それは、いよいよ進路を自ら決めなくてはならない、ハンドルを切る直前の端境期にいる高校生たちの渇望と言ってよいだろう。学校側も外から人を招き、高校生たちが「職業の実際」を知る機会をつくっている。だが、「TOMODACHI〜」参加者が、一番人気のプログラムで得た興奮を語る表情を思い出すとき、こちらはこう思わざるを得ない。仕事をしている大人と高校生たちが直接語りあう「場」は、危険なほどに不足しているのだ、と。

次回は福島県いわき市に、6人の高校生を訪ねる。

(明日に続く)

(文=オンライン編集部・石井伸介)