もしも科学シリーズ(35):もしも毒性植物を食べたら


山海の恵みを楽しめる冬。喜びの反面、毒草や毒キノコによる食中毒も多く、厚生労働省も注意を呼びかけている。触っただけでも炎症を起こすカエンダケ、青酸カリの200倍以上も強力なトウゴマなど、自然界は毒に満ちあふれているのだ。



もし毒性植物を食べたらどうなるのか?たった数グラムの植物が幻覚や精神錯乱を引き起こし、内臓や脳へダメージを与え、細胞を破壊する。たとえ生き延びられても後遺症に苦しみながら残りの人生を過ごすことになりそうだ。





■1/1000gの脅威



植物の毒は大別して(1)消化器障害型、(2)神経障害型、(3)原形質(げんけいしつ)毒性型の3つがあり、症状や発症するまでの潜伏期間が異なる。消化器障害型は20分から2時間ほどで発症し、吐き気、下痢、内臓の炎症、全身の倦怠(けんたい)感などがあらわれる。



シイタケやヒラタケと間違えやすいツキヨタケ、ホンシメジに似たカサウラベニタケなど、食用と紛らわしい毒キノコが多い。



神経障害型は、副交感神経や中枢神経など作用する部位によって特徴が異なり、早いもので10〜30分、遅いものは数日と幅広い。軽傷なら顔や首の紅潮、頭痛、不快感程度で済むが、重症になると瞳孔縮小、血圧低下、精神錯乱が起きる。



さらに重くなると、言語障害、筋肉の弛緩(しかん)、意識不明の重篤な状態に陥る。その名が症状を示すシビレタケやオオワライタケなどもこのグループだ。赤地に白の水玉を施したハデなベニテングタケは強い興奮作用があり、幻覚を見せるため古代の宗教儀式に使われたという。





口ヒゲとオーバーオールの兄弟はこれに似たキノコを食べてパワーアップするが、もしかすると巨大化した幻覚を見ているだけで、実は意識不明に陥っているのかもしれない。



原形質毒性型は細胞内のRNAに作用し、タンパク質の合成を阻害する。対象は細胞だから消化器や神経など限定はなく、人間をくまなく破壊する。

潜伏期間は数時間以上と長めが多く、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)から始まり、粘膜のただれ、肝細胞の壊死(えし)、腎不全、心機能障害など深刻なダメージを与える。



もし助かっても、肝不全や脳障害などの後遺症につながるケースが多い。

毒キノコの御三家とも呼ばれるドクツルタケ、タマゴテングタケ、シロタマゴテングタケに含まれる毒・アマトキシン群は、嘔吐(おうと)や下痢などコレラに似た症状が特徴的で、12〜24時間後には治ったような落ち着きを見せるが、その後48時間で肝臓や腎臓の機能障害が起き、7日程度で死亡する場合が多い。



毒キノコによる死亡例の9割はアマトキシン群が原因で、標準サイズ3〜4個食べるとオダブツだから、ガイドブック片手のキノコ狩りなど自殺行為にすぎない。



毒の強さは半数致死量(LD50)、つまり死ぬ率50%の量であらわされる。体重1kg当たりに与えた毒の量(mg/kg)で示され、値が小さいほど毒性が強い。植物に限らずLD50の代表例を挙げると、



・ボツリヌス菌 … 0.0005mg/kg



・フグ … 0.01mg/kg



・トウゴマ … 0.03mg/kg



・毒キノコ御三家 … 0.1mg/kg



・トリカブト … 0.3mg/kg



・青酸カリ … 7mg/kg



となる。美容整形にも使われるボツリヌス菌は不動の1位だ。子供のころ、安っぽいスパイ映画に最強の毒=青酸カリと仕込まれたが、トウゴマの方が233倍も強い。



トウゴマはヒマとも呼ばれ、古くから種子からとれる油が利用されている植物だ。その油は「ヒマ」の種「子」から「ひまし油」と呼ばれる。主に塗料や潤滑油のような工業製品に利用され、下剤に使われるほど人間には適さない。



猛毒のタンパク質・リシンが含まれているからだ。リシンが体内に入ると細胞のリボソームRNAが破壊され、タンパク質が合成できなくなり細胞死を起こす。最初は発熱、せき、吐き気から始まり、次第に呼吸困難や身体硬直を経て、36〜72時間で死亡する。植物界最強の毒だ。



トリカブトはキンポウゲ科の多年草で、観賞用として入手可能な植物だが、アコニチンという毒が神経伝達を阻害する。附子(ぶし)の名で漢方薬としても知られ、古来から神経痛や心不全の薬として用いられているが、多量に摂取するとしびれやけいれんが起き、知覚神経が麻痺(まひ)し呼吸ができず窒息死する。



LD50から逆算すると葉1グラムでこと切れる。花粉が含まれたハチミツでも中毒を起こすというから、身を守る以上に攻撃的な毒だ。



残念ながら、どちらも実用的な解毒剤はないと聞くから、取り扱いには十分すぎる注意が必要だ。ちなみにトウゴマは「いつもそばに」、トリカブトは「騎士道」の花言葉を持つ。おととい来やがれ、と言いたい。



■毒の変わり種



たとえ口に入れなくても危険な毒がある。色/形が鶏のトサカに似たカエンタケは、火炎の名の通り触っただけでも炎症を起こす。毒の成分マイコトキシンは熱で分解されにくく煮焼きしても毒性が残り、食べると全身の皮膚がただれ、肝不全や腎不全を起こす。



生き延びても脱毛や皮膚がはがれ落ちるなどの後遺症が付きまとう。



条件付きの毒もある。酒と一緒に食べると中毒を起こすヒトヨタケ、ホテイシメジ、スギタケなどだ。中毒とはいえ原因は酒だから、ジュースやノン・アルコール飲料のさかなならおいしく頂ける。

ただしいったん酒類が混ざると、体内のアルコール分解を邪魔し、排ガスや接着剤に含まれるアセトアルデヒドにとどめてしまうので、強烈な二日酔い状態となる。



「一夜」タケと記されるのも今夜限りの意味だろうか。食べ終わらないうちに二日酔いでは、二度と食べるものかと思うのも合点のいく話だ。



■まとめ



自然界の毒は、どうやって効果測定するのだろうか?毒で武装しても結果が出るのは喰われた後だから、効くのか効かないのか知るすべもない。



最も簡単なのは、喰う側と喰われる側の両方を体験することだ。シマウマのシマが保護色なのかも、両者を味わわなければ分かるまい。そう思うと、年々酒に弱くなる自分の前世は、ヒトヨタケのような気がしてきた。



(関口 寿/ガリレオワークス)