第148回直木賞は、朝井リョウさんの『何者』と安部龍太郎さんの『等伯』に決まりました。朝井さんは、戦後最年少・23歳での受賞となり、受賞作『何者』は今後注目を集めることとなるでしょう。

 そんななか、同じく直木賞候補にあがった有川浩さんの『空飛ぶ広報室』。惜しくも受賞を逃してしまいましたが、昨年は多くのメディアで紹介されたこともあり、馴染みある作品だったのでは。「職業、広報官。取り扱い商品は、『航空自衛隊』」。同作は、自衛隊ものを書き続けている有川さんだからこそ書けた、深く丁寧な作品だといえます。

 ある日、歩道で信号待ちをしていたところに、突如、突っ込んできた大型トラック。総勢十数人をはね飛ばし、大型トラックは逃走。ローカルニュースのトップを飾るほどの事故でした。被害者は重傷一名、軽傷八名。事故の規模からすると、奇跡としか表現のしようがない被害でした。重傷者も負傷は右足の骨折のみ。確かに幸運だったかもしれません。しかし、この骨折が、戦闘機パイロットだった29歳・空井大祐の希望を奪ったのです。「P免」、つまりパイロットの資格剥奪。パイロットの適性は最も厳しいもの。日常生活に支障がないほど回復したとはいえ、パイロット復帰は叶わなかったのです。その後、空井は防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室に転勤。しかし、ミーハー室長・鷺坂(またの名を詐欺師鷺坂)をはじめ、尻を掻く紅一点のべらんめえ美人・柚木や、鷺坂ファンクラブの1号と2号など、癖のある先輩たちに囲まれることになるのです......。

 当初は2011年夏刊行予定だった同作。しかし、当時は東日本大震災の対応待った只中。「航空自衛隊の広報を題材にした作品で、松島基地の、そして空自広報の3.11に触れないまま本を出すことはできない」と、有川氏は出版社に刊行延期を相談。その結果、2012年7月に刊行されることとなったのです。

 その分、最終章「あの日の松島」が書き下ろされることに。印象的なのは、空井の「自衛官をヒーローにしてほしくないな、と思います」という言葉。プライドを持って広報業務を全うする者だけが言える重みある言葉が、最終章に添えられています。

 航空自衛隊の広報室は、なかなか一般人には馴染みのない空間。しかし、同作を通じて、この特異な空間を垣間見ることができるでしょう。多くの取材を重ねた有川氏も、普段はごく普通で楽しい人たちだと言いながらも、「平時と有事の彼らの落差を思い知らされた」とあとがきで残しています。自衛隊という、「覚悟ある」人たちの仕事ぶりにふれてみてはいかがでしょうか。



『空飛ぶ広報室』
 著者:有川 浩
 出版社:幻冬舎
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