人材教育は「底上げ」より「屋根上げ」が効果的

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シンクロナイズドスイミング日本代表コーチを務めていた井村雅代さんは、指導していた子どもの親から「ほかの子ばかり贔屓している」とクレームがきたとき、次の言葉をのみ込んだそうです。

「うまい子どもが贔屓されるのはあたりまえ。悔しければ、贔屓されるくらいの子に育てなさい」

この話を聞いて、私は大いにうなずきました。職場も基本は同じで、優秀な部下が厚遇されるのは当然です。上司は全員を平等に処遇するのではなく、むしろ成果を出した部下がきちんと評価される環境づくりに心を砕くべきです。

できる人を厚遇するのは、給料だけに限りません。人材教育にかけるお金も、上位の人に集中させたほうがいい。下位の人を引き上げて全体の質を高めることを“底上げ”といいますが、実はこれはあまり効果が期待できません。たとえば新人にマナー研修で挨拶の仕方を教えても、先輩社員が「ドウモー」とやっていたら、それを真似てしまいます。教育は“屋根上げ”が基本。同じコストをかけるなら、まず上の人にお金を使い、そのお金をかけた人から、下に教育をさせるほうがいいのです。

では、ついてこれない部下は放置してもいいのか。たとえとして適切かわかりませんが、私は部下とお金のマネジメントはよく似ていると考えています。お金はそれを守り、上手に使い、貯めて、増やす人のところに集まるように、人も自分を守り、上手に使い、実績を積ませ、能力を増やしてくれる人(組織)のところに自然に集まります。ついてこられないからといって簡単にあきらめると、ほかの人も離れていきます。そこは十分なケアが必要です。

ただし、飼い殺しにならないように注意してください。部下の成績がふるわないのは、その仕事に適性がないからかもしれません。にもかかわらず「自分が面倒を見る」といって囲い込むのはよくない。一見部下思いに見えますが、脱落者を出すと自分の評価に傷がつくという上司側のエゴで言っているだけのケースも少なくない。飼い殺すより、活躍できる余地がある他の部署や会社に行ってもらったほうが本人のためです。

部下が不満を感じるのは、処遇の差より、機会の差でしょう。結果で差がつくのは仕方ないが、実力を発揮するチャンスは平等に与えてほしいというわけです。

たしかに2・6・2の、下の2の人には、最後通牒を送る前にチャンスを与えるべきです。また真ん中の人にも、上位に上がれるチャンスを与える仕組みは必要です。このとき意識してほしいのは透明感です。上司の気分しだいでチャンスの中身が変わったり、上に上がるための基準が変わると、不公平感につながってしまいます。

■適材適所の結果の不平等は仕方ない

チームとして成果を出そうとすれば、適材適所で、それぞれの強みが活きるように仕事をふっていく必要があります。その結果として、優秀な部下ほど重要な案件を手がけることになるのは仕方がない。実績のなかなか上がらない部下にもチャンスを与えて成長を促しつつ、チームとして最高の成果が出せるように仕事をうまく割り当てていく。矛盾する二つの課題をバランスよくコントロールしていくのが上司の役目です。

適材適所で仕事を与えるときには、「WHAT」と「WHY」の説明が大切です。何をやってもらいたいのか。それはなぜ必要か。部下にそれらを伝えて、自分で「やってみよう」と決断させると、納得して仕事をするはずです。

いろいろ工夫をしても、不公平だと文句を言う部下が出てくるかもしれません。やるべきことをやっているならば、そうした声を気にする必要はありません。上司が意識の低い部下と一緒に地を這っていたら、チームは機能しない。上司は高い意識を持ってマネジメントにあたるべきです。

極論すれば、贔屓して部下に嫌われてもいいのです。重要なのは、贔屓の裏側に正しさがあるかどうかです。能力や結果でなく好き嫌いで部下を選り好みしたり、自分の手柄のために部下の扱いに差をつけるのは、正しいといえません。部下のため、あるいはチームのために贔屓していると胸を張って言えるかどうか。そこにブレがなければ、いずれ部下もわかってくれるのではないでしょうか。

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リーダーズアカデミー学長 嶋津良智
1965年、東京都生まれ。日本唯一の上司学コンサルタントとして、講演・企業研修・コンサルティングを行う。著書に累計55万部のベストセラー『怒らない技術』や『だから、部下がついてこない!』など。

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(リーダーズアカデミー学長 嶋津良智 構成=村上 敬)