郡山での取材時のスナップ。

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■父の職場と円高ウォン安

日本大学東北高2年生の丸山大介さん。将来は「建築関係の仕事か、観光関係の仕事、どちらかがしたい」。建築の仕事に就くためには、何が要ると考えていますか。

「建築士の資格を手に入れるためには、まず、その学部がある大学へ。専門学校っていうのもあるんですけど、やっぱり大学のほうがいいかなと。なんていうか、学歴もちょっとはほしいかなと思って。そこらへんはどうなんでしょうね。専門学校だと、資格取りやすいのかな? めざすところですか? 建築関係へ行くなら横浜国立大学かなと。私立はまだ調べてないんですけど、高1の頃から建築系に行くなら横浜国立にしようって決めてたんで」

横浜国立大学理工学部には建築都市・環境系がある。妹島和世(せじまかずよ)との建築家ユニット「SANAA(サナア)」で、金沢21世紀美術館を手がけた西沢立衛(りゅうえ)など、先鋭的な作品をつくる卒業生が多い。SANAAは昨年、ルーヴル美術館ランス別館も手がけた。丸山さん、仕事の舞台として福島県境を越えることは構わない?

「はい。最初は人の建築事務所で働くことになると思うんですけど、チャンスがあるところなら、どこへでも行きたいです。親も反対してませんし。むしろ遊びに行けるから、そっちのほうがいいって(笑)」

丸山さんの親御さんは何屋さんですか。

「父はエンジニアです。ソニーに勤めていて、パソコンのバッテリーとか、そういう系のエンジニア。三瓶くんのお父さんと同じ職場です。ぼくが生まれてすぐのころに、アメリカのどこだっけ、下のほうの州に、1年間ぐらい行く機会があったらしいんです。でも、お母さんが、やっぱり慣れないところへ行くのは嫌だって言って行かなかったんです。もし行ってたら、もっと英語とか、グローバル系の進路の選択とかもできたのかな」

郡山に本社を置くソニーエナジー・デバイスは、ソニーのリチウムイオン二次電池の基幹事業所だ。従業員数約2800名、福島県有数の雇用を生んでいる企業だ。郡山市の北にある本宮市にも工場がある。取材時(2012年10月末)は、日本の家電メーカーの業績悪化が繰り返し報じられているときだったので、こちらは丸山さんにこんな質問もしている。お父さんの会社が潰れてしまうかもしれない、潰れなかったとしても、リストラされるんじゃないかという恐怖感はありますか。

「ありますよ。今、あります。考えること、ありますよ」

ここで前出の三瓶さんが言った「なんか大企業に就職することイコール幸せじゃなくなってるような気がして」ということばを再度書くのは恣意的かもしれない。だが、父がソニーの関連会社で働く2人の高校生のことばの中に、「大企業に勤める」という選択への揺らぎを感じたのも事実だ。取材から約1カ月後、11月30日付けの「福島民報」は「電池事業の売却検討 郡山のソニーエナジー軸」と題した記事を掲載している。

《ソニーが経営再建策の一環として、スマートフォン(多機能携帯電話)やパソコンなど幅広い用途を持つリチウムイオン電池を中心とする電池事業の売却を検討していることが二十九日、分かった。ソニーの電池事業は、全額出資子会社のソニーエナジー・デバイス(郡山市)が軸。同社の株式を全てまたは一部売却する案などが浮上している。関係者によると台湾の鴻海精密工業や、国内外の投資ファンドなどが関心を示しているという。(中略)ソニー広報センターは福島民報社の取材に対し、電池事業の売却について「現時点で正式には何も決まっていない」としている》

年が明けた時点で、この件に関する続報はない。三瓶さんに今の心境をメールで訊いてみた。

「少し不安を感じています。去年は、円高ウォン安やリストラ問題に苦しめられたみたいですが、売却などせずに頑張ってもらいたいと思っています。伝統あるソニーの電池部門をなくしてほしくないというのがわたしの願いです。また父もそう思っていると思います。最近は円安ウォン高になってきているので、今年は頑張ってもらいたいです」

丸山さんが志望する建築分野は、この連載で初めて登場した職業だったが、郡山編の最後に登場する高校生の「将来の志望」も、この連載で初めて登場するものだ。声優になりたい、と高校生は語った。

■「ない者はまったく仕事がない」世界

嶋田亮(しまだ・りょう)さんは福島県立須賀川桐陽高等学校3年生。昭和38年に県立須賀川女子高等学校として開校し、平成7年から男女共学化、現在の校名となった高校だ。嶋田君は何屋さんになりたいですか?

「俺は、いま1番なりたいのは声優。小学校のころから普通にアニメとかをいっぱい見ていて、中学校に入って、友だちに『声優になりたい』っていう人がいて。そのときに初めて、アニメの声をやってる声優の人っていうのを、ちゃんと認識したというか——初めて、そういう仕事ってあるんだって思って。なんか、おもしろいなって思ったのが最初ですね」

好きな声優はだれですか。

「いちばん好きな人が下野紘(しもの・ひろ)さん。知らないですよね」

知りませんでした。調べてみて、去年だけでも12本のテレビアニメ作品に出演している人気声優だとわかった。「この作品で、この役をやっている人」と書いてみようとしたが、作品の中にサザエさんやドラえもんのように「だれもが知っているアニメ」というものがないので、説明を断念する。さて、嶋田さん、声優という職業は、どうやってなるんですか。

「資格とかはないです。技術一本。だから、ない者はまったく仕事がないですし、ある人はいっぱいもらえます。ただそれだけなんで」

大学に行かなくても、なれる人はなれちゃうわけですね。

「なれちゃいます。けど、俺は大学へ行って、専門学校へ行って、レッスンを受けて、その上でなりたいです」

専門学校は、大学に通いながらのダブルスクール?

「卒業したあとです。大学から専門学校の間に、1年間ぐらいバイトしながら。『いつまでになりたい』っていうのがないんです。声優って定年もないですし。声さえ使えれば、どんな年齢の人でもできる。だから、早めになっておかないと駄目ということもないですし。年齢を増していって、声がいいかんじになってきて、それで役がもらえるとなれば、それはそれで俺としてはプラスになりますから」

厳しい世界なのだということを、嶋田さんは気負うでもなく自覚している。

「どんなに大御所でも、オーディションを受けなきゃいけない。ほんとうに実力主義。しかも、男のほうが不利なんですよ。女性は、女性のキャラもいけるし、男の子のキャラもいける。でも、男は女性キャラの声って基本的にできないんです。そうするとやっぱり幅が狭まってくる」

食いっぱぐれたらどうするんですか。

「そのための大学です」

嶋田さんにとっての大学というものは、何を学ぶところなんですか。

(明日に続く)

(文=オンライン編集部・石井伸介)