『フリーランスの教科書』見田村元宣、内海正人/星海社新書
サラリーマンは年収、フリーランスは年商。わずか一字の違いで意味が大きく異なるって知ってました? ピクンときたら本書をチェック!

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他の人はわかんないですが、僕はゲームレビューをするときに、ルールを細かく説明しません。読んでいて退屈だからです。

それよりも、「それって、どういうことなのか」。ひらたくいえば、おもしろいか否か。そして、そのおもしろさが、なぜ生まれてくるのか、に注力しています。だって、みんな知りたいのは、そっちの方ですよね?

でもってゲームも社会も、ルールの積み重ねでできています。でも、個々のシステムを解説するような内容ではなく、「それって、どういうことなの?」に焦点を当てた本は少ないんですよね。それこそが教養の形成に必要だと思うんですが......

そんな中で本書『フリーランスの教科書』は、会社勤めを辞めて個人事業主、すなわちフリーランスになるって、どういうことなのかを、税金・保険・年金・契約という4つの側面から掘り下げた、すぐれた入門書になっています。ぶっちゃけ僕もフリーランスになって13年目ですが、会社を辞める前に読みたかったですよ、はい。

著者は税理士の三田村元宣さんと、社会保険労務士の内海正人さんの共著による、フリーランス一年生と、その予備軍に向けた入門書。「ノマドスタイルで自由に生きよう」「これからは会社員よりフリーランスだ」などの甘言が溢れる中、「それって、どういうことなのか」が、ポイントをかいつまんで紹介されています。

結論から言うと、フリーランスになるということは「自由になることじゃなくて、全部を引き受けること」。具体的には会社が負担してくれていた、税金・保険・年金・契約のすべてを、自分で処理することなんです。その上で「契約とギャラ交渉」「税金と確定申告」「保険と年金」「法人化」の4章にわたって、ポイントが解説されています。

はい、そこで「会社を辞めても、数字が追いかけてくるのね......」と思った皆さん。本書では同じように、はじめての確定申告でへとへとになった、フリーランス一年生の編集者が主人公です。彼が税理士と社会保険労務士に疑問点を投げかける設定で、テンポ良く進んでいきます。早ければ小一時間もあれば読了できるんじゃないでしょうか。

でも、わずか820円&小一時間でこれだけの情報が得られれば、お買い得というもの。フリーランスになって初めて見えてくる「それって、どういうことなのか」。つまり「社会の本質」みたいなことが、わかってくるんです。なにしろ、働くって社会と係わることですからね。そして税金・保険・年金・契約って、そのために必要なルールですから。

たとえばフリーランスにとって、一番最初にこうしたルールを実感するのが、確定申告ではないでしょうか。売上から経費類を引いて、一年間の利益を計算して、それにかかる税金を申告する。平たく言えば、税金を正しく計算するための作業なんです。これ、会社員なら会社が自動的にやってくれます。そういうめんどくさいことは会社が担当するから、純粋に業務に集中してくれってことですね。

でも、これを自分でやることで、会社って人を雇うだけで、いろんな目に見えない経費を負担しているんだなーってことが、うっすら見えてきます。そして最近では、そうした経費を削減するために、姑息な手段をとる会社も増えてきてるんだなあと、実感できるんですよ。本書にもこんな例が紹介されていました。

「ゲーム関連の(フリーランス)プログラマーです。あるクライアントから発注された仕事はいつも納期がタイトなうえに修正に次ぐ修正で作業量が非常に多く困っています。(中略)労働基準監督署に訴えたいのですが、どうでしょうか?」

うーん、最近よく耳にしますよね。答えはというと......残念ながら門前払い。なぜならフリーランスは労働者ではないからです。契約形態も労使関係ではなくて業務委託契約。企業での常駐作業ならまだしも、自分のオフィスや在宅であればアウト。契約を受けるも受けないも、自分で決めることですから。フリーランスって小さな法人なんです。

そうはいっても、クライアントの指示って、一回断ったら、そのまま仕事がなくなっちゃいそうで、なかなか断れませんよね。いやー、厳しいなーって思いませんか?

そう、厳しいんです。その一方で最近、フリーランスに業務委託契約のまま、社員なみの仕事をさせてる企業って、増えてませんか? それって企業側からすると、雇用時に必要な福利厚生関連の経費を、ちゃんと払ってないということ。「給料ポッキリみたいな金額で、人1人拘束するのはおかしい、その点を知っておいて欲しいんです」(本書より)。読んでいて、背中がしゃんとしました。恥ずかしながら知りませんでした!

「正社員も契約社員もパートもアルバイトも、契約条件が違っているだけで、すべてサラリーマンであり、法律的には『労働者』」。「しかし、フリーランス、すなわち個人事業主は労働者ではありません。会社に勤めている時には気づかないこれらのセーフティネットを、いったん離れてしまうと失ってしまう。まず、このことを自覚して、将来まで見越した対策を取ってください」(本書より)。本書の内容は、この二点に集約されます。

でも、繰り返しますが会社に勤めていると、こうしたことに気づかないんですよ。一方で企業の側は、こうした諸々の知識は織り込み済み(そのために人事という専門部署があるんですから)。つまり労使関係に於いて前提となる知識レベルが異なるんです。その一方でノマドライフなんてバズワードだけは一人歩きしています。フリーランスはもちろん、「フリーランスになりたいなあ」なんて人がいたら、ぜひ一読をお勧めします。

もっとも最後になりましたが、本書はフリーランスになることを否定してはいません。「条件面だけで考えると、不利なことも少なくないフリーランスですが、束縛されず、自分の意志で自由に活動できるのが、何よりの魅力でしょう」と記されています。

ちなみに僕がフリーランスになって一番良かったのも、クライアントすなわち「上司」が自由に選べること。会社だと嫌な上司から逃れる術が限られますが、フリーランスならサクッと仕事を片付けて、二度と付き合わなければ良いんです。おかげで仕事はいつも、ノーストレス。ぜひ本書で正しい知識を身につけて、飛び込んでみてください。
(小野憲史)