取材・文・写真: 編集部

アパレルからリテール、家電、自動車、インテリアまで、ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『Worth Global Style Network (WGSN)』。ロンドンに本社をかまえ、パリ、ニューヨーク、香港、上海、メルボルン、サンパウロ、そして東京に支局を設け、クリエイティブ産業にたずさわるあらゆる職種に有益な情報を提供している。WGSN東京支局にてアカウント・マネジャー兼WGSNインサイト・プレゼンターを務める浅沼小優氏に、トレンドが決まるプロセスから、SNSがファッションの消費行動に与える影響、今後のリテールビジネス・ブランドビジネスの行方、 いま世界的注目の新興アパレル市場、2013年に消費者が求めるもの、Eコーマスなど、いろいろと話を聞いた。

 (第2回/全3回) ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『WGSN』のインサイト・プレゼンター、浅沼小優氏インタビュー

(第3回/全3回) ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『WGSN』のインサイト・プレゼンター、浅沼小優氏インタビュー

- まず WGSN (ダブル・ジー・エス・エヌ) について簡単に教えてください。

WGSN は、もともとその上に Top Right Group (トップライトグループ) というグループ会社がありまして、そこが3つのグループを持っているんです。そのうちのひとつが、“予測”という意味の“foresee”とかけて 4C Group と呼ばれるグループ。WGSNはそこに属しています。1998年にロンドンで立ち上がり、15年間、ファッションのみならず社会的なトレンドも含めて発信してきました。そういったプロダクト・ライフ・サイクルの起点から、アパレルでいえば、アイテムの絵型やグラフィックを出すといった、実務に直接かかわるような情報まで提供しています。また、GLOBAL FASHION AWARDS (グローバル・ファッション・アワード) というファッション業界に貢献した人、ブランド、企業を称える授与式を主催しています。Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン) のメンズ・ディレクター、Kim Jones (キム・ジョーンズ) もこれまでWGSNを使ってきたことをGLOBAL FASHION AWARDSのビデオで語っていますが、お客様は、ラグジュアリーブランドはもちろん、TOPMAN (トップマン) や PUMA (プーマ)、H&M (エイチ・アンド・エム)、DIESEL (ディーゼル) まで、非常に幅広くいらっしゃいます。

©WGSN

- WGSNは約2年先のトレンドまで予測を行い、顧客に情報をお届けするということなのですが、そのトレンドを決めるプロセスについてお聞きしたいです。

WGSN は87カ国で展開していますが、シーズン毎に約40人のスタッフがロンドンに集まり、それぞれのローカルのトレンド情報を報告しあいます。いまローカルでなにが起きているのか、各地域の情報を精査します。そしてモダンアートや社会的なムーブメント、影響力を持つ人物たちの考え方をそこと照らし合わせて、一体なにが世界で共通して起きているのかを探っていくわけです。反対にいまのストリートの状態がこうだから、半年後、1年先、2年先はこうなっているだろうという話ももちろんあります。

 

- 毎シーズンのコレクションで、このカラーがキーカラーだとか、どのブランドも結構同じカラーや同じプリントを発表するなど、似通っているケースが結構あると思うのですが、そういうファッショントレンドの生まれる構造というのは、みんな裏で口合わせをしているというわけではないんですよね?

予測の仕方には主に3つ要素があるんです。ひとつは、トップダウンという上からやってくる要素。ボトムアップで下から (ストリートから) 上がってくる要素。そして、震災などもそうですが、社会が一変してしまうような大きな背景の変化というのもあります。通常はボトムアップとは言いながら、ストリートレベルで起きていることが一度上のほうに吸い上げられるというように、ラグジュアリーブランドをはじめ、そういうトレンドを発信しているところに一回吸い上げられることで、それが全体に広がっていくというような動きをしているように思います。したがってストリートは大事なのですが、そこにあるだけでは発信力は限られてしまいます。やはり一度どこかに吸い取られないと、全体的なトレンドにはなかなかなりません。私どもが、2年先の予測を出すということも、ある意味、トレンドの一本化に良くも悪くもじゃっかん貢献してしまっている。もしかすると、もっと多様だったはずのトレンドが、私たちのようなトレンド予測会社が普及することで幅が狭まってしまう可能性もあります。ある程度確実に売りたいというのがビジネスの基本ですので、どうしてもそこに収斂せざるをえないというのはあると思いますけど。自戒も込めて、私たちがきちんと発信しなければいけないということと、できるだけダイバーシティーというか、さまざまなトレンドがあるということをきちんと伝えていかなければならないと思っています。

2/3ページ: グローバル化やIT化の影響を受けた今後のリテールビジネスとブランドビジネスの行方とは?

- トップから降りてくるトレンドというのは、具体的にはどういうものですか?

例えば、社会的な活動をするというひとつのトレンドがありますよね?それを、いままでみんな草の根レベルでやってきたわけです。しかし、例えばそれが一度ラグジュアリーブランドなどに吸収され、彼らが発信することによって、お洒落なモノ、ファッショナブルなモノだという認識に変わっていく。そして今度また社会的活動が普及していくというような形があるわけです。これはひとつの例ですが、デザインの話だけではなく、表現の仕方や、なにをそれぞれの人生の中に取り込んでいくかについても、やはりラグジュアリーブランドがある程度の影響力を持つ発信者になっているのではないでしょうか。

  
©THE FASHION POST


- 『Facebook (フェイスブック)』や『Twitter (ツイッター)』といったソーシャルメディアがかなりの勢いで普及していきていますが、このことはファッションの消費行動、消費者の趣向などに変化を与えたりしていますでしょうか?

意思決定のプロセスがある程度、可視化されたのではと思っています。というのは、いままでなにか洋服を選ぶときや、消費材を選ぶというとき、雑誌などを見て自分の意志で決定しているという思いが消費者に強くあったのですが、こういうネットワークで「これでいいよ」と言われて、「なるほどいいかも」と思ったりするようになってきています。他者からの影響を避けるのはなかなかむずかしいのですが、それをいままでできるだけ意識しないようにしてきたのが消費社会の構造だと思うんです。それが割とドラスティックに変わってきた。消費者がこの点を意識しているかはわからないですけど、確実に気持ちの中にはだれかの影響を受けて消費をしているということを、潜在意識の中に取り込むようになってきたのでは思っています。それは、他者との関係性を意識する機会になりますし、自らがすべて自分の意思によってものごとを決定している/しなければならない、という呪縛からの解放にもつながります。

 

- グローバル化やIT化の影響で今後のリテールビジネスとブランドビジネスはどのように変化していくとお考えですか?

いくつかあるのですが、先ほどブランドが発信者であるという話はしましたが、最近のブログや『Twitter』などの影響を考えると、発信者がブランドから人に戻ってきていると思います。そもそもトレンドの発信者というのは、マリー・アントワネットのような上流階級の特定の人がいて、その人が「いいよ」と言ったものについてみんなで「それいいかも」と言って、フォローしていったわけですよね。しかし、そういう体制が崩壊して、今度はブランドがトレンドの発信元になりました。上流階級にいる人たちは、こういった身の回り品で生活を整えるべきだということで、ブランド側がアイコンはいても、特定の人の輪郭をぼかした形で要素だけを発信していった。それが、今度また具体的な個人が実際のライフスタイルを構成するモノを発信することで、主導権が個人に戻ってきているのかなと思います。ブロガーが発信するとか、『Twitter』でみんなが「いいね」と思ったものがトレンドになっていくというように。

あとブランドの手法というか、今後どんどん発展していくのだろうと思われるのはパーソナライズです。IT化が進んで、消費者がインプットしたデータがフィードバックされ、その情報を使って、この人にはなにが必要かを分析する。Amazon (アマゾン) も商品を勧めるようなことをやっていますが、あれがもっともっと深化していくのではと考えています。

3/3 ページ: 一般的な西洋社会と日本の美の基軸の違いをしっかりと理解することがキーポイント


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- 日本のリテールやブランドが苦戦している話が多くあがっていますが、WGSNのマーケティングの専門的な視点から見て、今後はどのようにしていくのがいいのでしょうか?

日本と海外という言い方はすこし極端すぎますが、一般的な西洋社会と日本の美の基軸というのは違いますよね。そこは大事な点で、おそらく海外のブランドが日本でやるにしても、日本のブランドが海外でやるにしても、それが違うということを把握し、念頭におく必要があると思います。もっとはっきり言ってしまうと、日本だと「カワイイ」的な視点で物事が動いていて、海外だともっとセンシュアルなものが理想的なうつくしさとしてとらえられています。そこは大きく違いますし、身体の表出の仕方=ファッションが変わってきますので、その辺をはっきり意識せずに海外に出て行ってしまったら、むずかしいと思います。あとは震災を経て、これからどんな風に私たちが生きていくのかというのをしっかりと表現できるかどうか。日本のモノ作りというのはすばらしいのですが、どうしてもテクニックに集中してしまうというか。このようなモノができるとか、このようなすばらしい技術があるとか。でも実際はそれを使ってなにをするかというところの方が大事なところで、その部分が日本はなかなか表現できていないと思います。私がいつも良い例として取り上げるのが、プリウスですね。プリウスは技術があって、しかもその技術を使ってどんな風に生きていくのかというライフスタイル提案を含めた商品で、だからこそやはりグローバルで成功したのだと思います。でも、そういうしっかり意思表示をしている商品はなかなかまだ少ない。そういう意味では、今後そういうものを作って出していく必要があるではと。あとはリアリティ・チェックですよね。グローバルでなにが起こっているのかということに対して、耳を塞ぐ傾向が日本の人にはあるかなと正直なところ思ったりもします。海外で展開していくのであれば、グローバルでなにが起こっているのか、それこそ社会的な背景はファッショントレンドと無縁ではありません。いま、どのような考え方にスポットがあたっているのかということも、ある程度は知っておく必要があるのかなと思います。

 

- 日本の市場が大きいので進出したいという海外ブランドもたくさんあると思うのですが、日本市場に参入したい場合の注意点はありますでしょうか?

繰り返しになってしまいますが、やはり美の基軸が違うということを知った上で展開するということですね。もともと、私たちはライフスタイルの提案が得意ではない国なので、逆にスタイル提案をされると弱いというか、ついていきたくなるというのはあるかもしれないですね。

 

- 逆に日本のブランドが海外で展開する際の注意点も聞きたいです。

スタイルにもよると思いますが、私たちが戦後築いてきた生活様式で世界があこがれるような魅力的なモノというのがあまり想像できません。それ以前のやり方や生き方については、まだまだアピールできるモノがあると思います。私たちは意外に素朴に生きてきたと思うし、手仕事を大事にしてきたし、モノも大事にしてきました。そういうものに関しては、日本的なやり方、「こういうのもありますよ」というように、生き方の提案を含めてできるのであれば、日本の技術と一緒にしっかり打ち出していって良いと思います。ただ「良いものなんですこれ」というだけであれば、それを出しても全体的な世界観としてはそれほどアピールできないのかと。パーツとしては重宝されると思いますが。

 

- 説明不足ということでしょうか?

説明不足というか、「いま日本には世界があこがれるようなライフスタイルはあるのだろうか」と言う社会学者もいますが、ライフスタイルがないからアパレルが苦戦しているという状況はあると思います。だから、パーツだけ持ってきてなんとなくそれらしく見せるというのは上手は上手なんですけれど、それがサステナブルかというと少し疑問ですよね。だからその部分をもう一度、これからどう生きていくのかということも含めて真剣に考えるべきだと思います。

(第2回/全3回) ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『WGSN』のインサイト・プレゼンター、浅沼小優氏インタビュー

(第3回/全3回) ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『WGSN』のインサイト・プレゼンター、浅沼小優氏インタビュー

浅沼小優 (あさぬまこゆう)
WGSN (ワース・グローバル・スタイル・ネットワーク・リミテッド)
アカウント・マネジャー & WGSNインサイト・プレゼンター

積水ハウス勤務後、渡米。インテリア業界にてVMDとバイイングに従事。帰国後LVMHグループ、ロエベ、伊シューズブランドなどにてMD、マーケティングを担当。2010年より現職、各企業にてクリエイティブ・マクロ・トレンドの解説を行う。立教大学大学院修了、主に消費論、アイデンティティ論、欲望論などを研究。社会デザイン学MBA。

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