私は今日、憤るという純粋さを失い、怒るべきときに怒らないころによって、すくみ合い、妥協し、堕落している一般的なずるさと倦怠が腹立たしい。世の中が怒りを失っていることに、憤りを感じるのだ。

 岡本太郎はこう語ります。大阪万博で制作された「太陽の塔」は彼の作品として万人に知られ、東京・渋谷駅構内にも彼の描いた壁画「明日への神話」があります。書籍『美しく怒れ』は日常の鬱憤を超えた、彼の人間に対する怒りに焦点が当たっており、教育、芸術、日本の行く末、現代日本人のゆがみについてと、その内容は多岐にわたります。大人気ない、ものわかりが悪い...非道徳の括りに入れられがちな「怒る」という行為ですが、この本を読むとその行動が純粋さに起因するものであることがわかります。

 教育の無力・学校の荒廃を例に挙げて、子どもに対する大人の優越的な態度にも彼は憤りを示しています。しかし、ぶつかり合うことが減っているのは子どもに対してだけではありません。大人同士でもムキにならず、一線を越えず、本音での付き合いが少なくなってきています。人と上手くやる技術、相手を傷つけずに自分を守りながら生きていく術をテーマとした本も沢山あります。もちろん、譲り合いの精神で事を荒立てず、調和を目指すことは日本人の美徳の一つです。しかし、それは同時に他人への無関心、分かり合えないという気持ちに根差しているのではないでしょうか。もっと切実に相互のぶつかり合いをするべきなのです。

 岡本太郎は一生、子どもの眼を持っていました。だからこそ、無防備と思えるほどにあけっぴろげに発言を続け、「本当の事を言うなんて生意気だ!」と言われてしまうこともあります。しかし、編者・岡本敏子は言います。

 今日の日本社会、みんな行方が見定められないような呆けた顔をして、どうしていいか解らない。誰も「こうだ!」と言う人がいない。こういう世の中に、「これが人間だ」と、すくっとと立つ岡本太郎の声を響かせたい。
(岡本敏子さん)

 身を挺するということがなければ、人間の尊厳、高貴さ、神聖感は輝きません。岡本太郎は一生をかけて真剣に社会の諸問題に立ち向かっていたからこそ、時間が経っても彼の言葉は生々しい憤りに満ちているのでしょう。



『美しく怒れ (角川oneテーマ21)』
 著者:岡本 太郎
 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)
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