女の子ってわかんない。殺人犯とかストーカーとか吸血とか、みんなそうなんだろ? 『危ノーマル系女子』は『ヒャッコ』の作者が描く、アブノーマルをノーマルにしてしまった、非日常を日常にしてしまった作品。読んだらころっと感覚が狂ってしまうこと間違いなし。

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「女っていうヤツは、まったくロクなものじゃない。わからない。少なくとも俺には理解できない」
あーいいね。若いね。青春だね。
青春期じゃなくても異性っていう存在は、理解のできないイキモノだけどね。一生わかんないよね。
とまあ、異性の謎を描くのはマンガの持つ普遍的テーマの一つ。わからないから面白いし、わからないからむずがゆい。

けど『危ノーマル系女子』に出てくる女子はちょっとどころじゃなく違うぞ。
本気でわからない。
このマンガに出てくる女の子を理解できる人がいたら、病院に行った方がいい。
いわゆる一般的価値観でいうところの「ノーマル」が一人もいないのです。
主人公の少年シンヤはこう言います。
「本当に同じ人間だっていうのか……とてもそうは思えない」
いやいや大げさでしょう。だって出てくる女の子みんなかわいいよ? ハーレムなんじゃないの?
しかしこのマンガ読んで欲しい。こりゃ「理解できない」と言って当然なんだ。

一巻はキャラ初登場の側面が強いので、少し紹介してみます。

まず幼なじみのさつき。フラフラぼんやり歩く、目の虚ろな少女です。
マイペースながらも学校でも友人が多い子ですが、連続通り魔殺人犯です。
……なんだかよくわからないけど、いや、それはアウトだろ!
なんちゃってなんじゃないの、虚言癖じゃないの、と思ったら、シンヤを殺人現場に連れて行って死体を見せる有様。「えー?だってぇ?シンちゃんに一番に見てもらいたかったんだもーん」
あまりにいつものことなのでシンヤも慣れてしまっています。
でも一周して陳腐な感じがするんですよ。そういうフィクション作品多いですし。

次に友達が一人もおらず、無駄なおしゃべりも一切しない読書少女の夜子。
ちょっとしたきっかけでシンヤが話しかけただけだったのですが、ある日から饒舌に前世だの騎士だのの設定を高らかに語り出す妄想電波少女であることが判明。
どうやら彼女は前世でシンヤの騎士、らしく、常に影にそっと寄り添って行動します。騎士として。
シンヤは毎度のことなので慣れてきており、彼女をあえて騎士としてあしらっています。
こちらも極度におかしいですが、最近そういう作品多くて、どこかで見たデジャヴ。

中学で知り合った雅美。真面目に勉学に励む優等生。
彼女はちょっと度が外れたドM。ちょっとやそっとではなく、ムチでひっぱたかれて、腹にパンチされて、やっと満足できるほどの重度のドMです。
シンヤはSMには一切興味が無いのですが、それに付き合ってくれる遊び相手として彼女に駆り出され、酷い目に黙々とあわせます。
腹パン。

もうこの時点でかなりお腹いっぱいになります。さつきの殺人だけで物語的には大事件ですよ。
でもこのマンガ、そのへんはさらっと流しちゃうんです。
その他にも、起きていることの出来ない「眠り姫」の夢路、本当か嘘かわからないけど血をすする「吸血鬼」赤鐘と奇人変人大集合。
こうも変な女の子ばかりでてくると、読んでいて感覚が狂います。
女の子ってみんなこうなんじゃないの?

特に重度に病んでいるのが、かわいくやさしく、みんなに見た目で好かれているけれども、各所に盗撮カメラを用意して、なにもかもを見ているストーカーの十華。
そして兄に強烈に依存しており、嫉妬で暴力的行動に出る妹の迷。
この二人はシンヤを好いているのか、単に依存しているのか、その自分の行動そのものに酔っているのかすら、読んでいてわかりません。
女の子って……みんなこうなの?

もちろん出てくる少女たちは全員アブノーマル。一般常識的に言われるところの「ノーマル」ではありません。
この作品の面白いところは、その「アブノーマル」の方が「ノーマル」になってしまっているところ。
他の「ノーマル」な女の子が一切出てこないので、シンヤにしてみたら「女の子はみんなこういうふうになんかおかしい、理解できない」となっちゃうんです。
読者もその視点で読まされるので、「女の子は理解できない」感を味わわされることになります。

作品の本質としては、実際は逆なんでしょう。
「女の子って思春期の男子から見たら不思議」。
この感覚を形にすると「女の子は奇異な行動を取る」「女の子の考えていることがわからない」「女の子の嫉妬って理解できない」になっていく。
つまり、思春期の女性への違和感が、この作品のキャラクターのアブノーマルな行動で描写されているんです。
「眠り姫」と「殺人鬼」だと程度の差が激しい気もしますが、それらが一緒くたにして「わからん」でまとめちゃう「感覚」を描いた作品なんです。

現時点ではファンタジー要素はありません。
殺人や吸血がどこまで本当なのかさっぱりわかりません。
ただ、シンヤは理解できないながらも、一歩間違えば命を落としかねない環境の中でうまく女の子たちとのコミュニケーションをさばいています。
自分の命だけじゃない。騎士を気取る夜子と吸血少女赤瞳が対立すると、ハサミやカッターで本気で傷つけあいになりかねない。
ストーカーの十華と妹の迷が接触したら嫉妬でどうなるのか想像すらできない。
ちなみにイライラは全部雅美にぶつけます。喜ぶし。

これだけキテレツな世界なのに、張り詰めた緊迫感がないのはすごい。
よくわかんねーなという、男子のけだるい日々に徹し描ききっています。
うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと。
江戸川乱歩が奇人変人のアブノーマルの世界を、彼らにとってはノーマルとして描いたように、この作品は女の子たちの不明な行動を描き綴ります。
ストーカー少女の行動ははたからみたら狂っていますが、本人からしたら「普通」なんです。

まあ、このまま続くわけないでしょう。
ちょっとでも道をそれたら全部崩壊する世界なのに、一番気になるテーマは「女の子ってわからない」。
男の子にとっては、そのくらい重大なことです。
ほんと、女の子ってわからない。

ちなみに作者は『ヒャッコ』のカトウハルアキ。
女の子のかわいさは通じるものがありますが、あんまりにも極端に内容が違います注意。
ただ、学生の「日常」と「非日常」は案外背中合わせなのかもしれません。

真田ジューイチ 『危ノーマル系女子』

(たまごまご)