なぜ、モンハンはゲームオタク以外も熱狂するのか

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■PSPで460万本超の記録的大ヒット

ゲームソフト大手、カプコンの2011年3月期連結決算は、売上高が前期比46.2%増の977億円と、過去最高を記録した。その原動力が「モンスターハンター」(以下モンハン)シリーズだ。

特に、10年12月に発売されたプレイステーション・ポータブル(PSP)向けのシリーズ最新作「モンスターハンターポータブル 3rd」(希望小売価格5800円)は460万本以上の売れ行きを見せている。100万本売れれば大ヒットといわれる昨今のゲーム市場では、まさに記録的なヒットである。(※雑誌掲載当時)

モンハンは、山や海など大自然を舞台に巨大なモンスターを“ハント”するアクションゲーム。同ゲームを450時間プレーした男性(33歳)は魅力を語る。

「友達と一緒に協力してプレーするのが一番面白いですね。初心者でも、うまい人にカバーしてもらえるから十分楽しめる。こんなゲームはなかなかないですよ」

1人でも遊べるが、通信機能を使い、友人などと協力して狩りを進めるマルチプレーが醍醐味。学生はもちろん、30代を中心とした社会人が会社帰りに同僚と居酒屋でプレーすることも珍しくない。

ここまでのヒットになったのは、ゲーム性の高さも当然ながら、何重もの仕掛けがあったからだ。同ゲームのプロデューサー、辻本良三氏は「口コミ」をキーワードに挙げる。

「まず考えたのは、いかにマルチプレーをしてくれる環境をつくれるかということ。友人に『一緒にモンハンやろうよ』と声をかけるためのきっかけや話題のネタをたくさんつくろうと思ったんです。それでモンスターハンターフェスタというイベントから始めました。一番うまい人を決めるという目的も当然ありますが、それ以上に、来てくれれば必ずマルチプレーができる環境をつくったんです」

ネットでゲームをすることが当たり前になった時代、一緒にプレーするならオンラインでいいのではとも思わされる。だが辻本氏は「直接会った人同士でプレーすること」にこだわった。

「デジタルなコミュニケーションはすでに世の中に氾濫している。それなら、逆にアナログなコミュニケーションを追求してやろうと思ったんです。一緒にゲームをするには、『やりましょう』とか『いまどんな感じですか』とか、実際に言葉が必要になってくる。アナログなコミュニケーションをとることで、より盛り上がると考えたんです。イベントは、ただゲームをするだけでなく、屋台を出したり、巨大モンスターの展示をしたり、初心者やゲームを知らない人でも楽しめるものにしました。イメージは、モンハンを題材にしたテーマパーク。ゲームマニアだけでなく、いろんな人を巻き込めるよう敷居を下げたといってもいいですね」

ツイッターなどデジタルなマーケティングにはそれほど注力しなかったという。

「誰でもやれる、ターゲットを決めない、というゲームのコンセプトに反すると思ったからです。3年ほど前はツイッターも今ほど普及しておらず、慣れていない人が離れてしまうことを避けたかった」

そこからモンハンを広めるための企画がどんどん生まれていく。たとえばゲーム中に登場しイベント会場にも置かれる、モンスターやマスコットキャラクターのぬいぐるみのグッズ。これは女性ファンを取り込むことが目的で、「ゲームを知らない人でも可愛いと思ってもらえるよう」(辻本氏)にデザインにこだわった。

さらにカラオケチェーンのシダックスと連携し、カラオケルームで複数人がゲームをプレーできる「モンハンパック」などのイベントを開催。食事のセットなども用意し、2カ月の期間中に3万人以上が利用、1億円超を売り上げた。カジュアル衣料販売のユニクロとも提携して、ゲームのキャラクターがプリントされたTシャツを売り出した。好評を博し、11年7月には第2弾が発売された。

■コラボ先の温泉も客足アップで大満足

そのなかでも特筆すべきなのが、10年12月23日から11年1月10日まで行われた、信州渋温泉とのコラボイベントだ。辻本氏が言う。

「渋温泉は雰囲気がゲーム中の『ユクモ村』という温泉地によく似ていた。そこで温泉街そのものをモンハンの世界に模したんです。ゲームの世界観がリアルに味わえ、しかもプレーヤーが集まるのでゲームを通じて話題も合い、一緒にプレーできる。プレーヤーにとって楽園のような空間になると思ったんです」

しかし、当初は理解を得るのに苦労した。辻本氏らカプコンのスタッフが渋温泉の旅館組合に行って話をしたが、組合の役員には高齢の人が多く、ゲームそのものを知らない人が大半で、信用してもらえなかったのだ。そんななか、助け舟を出してくれたのが、組合の青年部にいた関宗陽氏だった。関氏は語る。

「実は私もモンハンのプレーヤーだったんです(笑)。最初、話を聞いたときはウソだと思いましたが、本当にやる気だとわかり、絶対やったほうがいいと、宿はもちろん、おみやげ屋さんや一般家庭まで説得してまわりました」(関氏)

発売前に東京・帝国ホテルで開いた発表会に渋温泉関係者を招き、ゲームについての理解を深めてもらった。そして実現へとこぎつけたのだ。

「そこからは渋温泉の人たちが本当に協力的になってくれて、ゲームをプレーする集会所の用意やゲームの世界観を再現するグッズ、食べ物のアイデアもいろいろ出していただきました」(辻本氏)

すると、宿泊、日帰りを含めて1万人以上が渋温泉を訪れた。カップルが対象の「狩ップルプラン」は2人で1泊7万5000円という高額にもかかわらず、予約開始から10分で完売したという。

「私の感覚では、客足が通常の6割から7割はアップした印象です。なかでも、家族連れや女性だけのグループが多いのが意外でした。6割以上は女性だったんじゃないでしょうか。終了後の反響もすごくて、渋温泉のリピーターになってくれたお客さんが何組もいます。宿泊客の増加、おみやげなどの売り上げ、宣伝効果などを考えれば、渋温泉にとって、ものすごくプラスでしたね」(関氏)

2011年夏は大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンともコラボ、そして渋温泉とも再びコラボすることが決まった。

「このゲームでは、企業としてユーザーに話題を提供することに注力しました。ただ、イベントなどを連発して“盛り上げすぎる”ことには注意しています。テンションが上がりっぱなしだと、疲れて飽きられてしまうかもしれませんから」

多彩な仕掛けを用意しながらも、一過性のブームになることを避けるためにバランスも調整する。この絶妙さが、モンハン躍進の秘密かもしれない。

■イベントがユーザーをつなぐ架け橋に!
●慶應義塾大学商学部教授 小野晃典

「モンスターハンター」をプレーするときのキーワードは「協力」だ。1人のプレーヤーの能力はそれほど高く設定されていないため、最初は複数で協力しないとなかなかモンスターを倒せない。つまり、皆で力を合わせて初めて爽快感が得られるようデザインされている。

私のゼミの学生にもモンハンのプレーヤーは多い。「研究のために集まったけれど、気晴らしに……」と仲間でプレーすることもあるそうだ。一緒に戦う仲間を茶化してみたり、逆に真剣に助け合ったり、いろいろな遊び方をしているという。そこにはゲーム上のコミュニケーションを通じてリアルな友人関係を深めていく様子がうかがえる。

キャラクターに惹かれ、初めてモンハンをプレーした女性がまったく歯が立たず、「どうすれば倒せるの?」と周囲に聞き、誰かが「僕が助けてあげるよ」といった会話が生み出される状況は容易に想像がつく。

このようなコミュニケーションが生み出されるのは、メーカーがそれを意図してプロダクトデザインを行った結果であろう。

基本的に人間のコミュニティは狭い範囲で成立している。自分の周りに親しい人が何人いるか数えてみればそれは明らかだ。したがって世の中に口コミを広げようとするなら、ひとつひとつの小さなコミュニティの間に橋を架けていく努力が必要になる。モンハンの場合、複数プレーを前提とするという特性に加え、リアルなイベントが架け橋の役割を果たしたのだろう。

ユニクロやシダックス、渋温泉など、モンハンのコラボイベントの話題を知らない人は、仲間の話についていけない。コミュニティ内の話題に追いつこうとして、リアルなイベントに参加すれば、他のコミュニティとの接触も図られ、モンハンユーザーの輪が広がる。このような動きがこのゲームソフトの人気を支えているのかもしれない。

※すべて雑誌掲載当時

(田中裕康=文 石橋素幸=撮影)