管理職のほうが一般社員より「速さ」を評価/上司は「この仕事で評価するのはここ」と示して、枠からハミ出ている部下を徹底指導すべし!

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『孫子』に「巧遅は拙速に如かず」という言葉がある。どんなに上手でも完成まで時間がかかりすぎるよりは、下手でも速いほうがいいという意味だ。

現代のビジネスでは、スピードはますます重要性を増している。質がどうでもいいわけではないが、締め切りがある仕事においては、それを守れなければ何もしないのと同じであり、そして締め切りのない仕事などないといっていい。

プレジデント編集部がとったアンケートの結果を見てみると(図)、一般社員では「丁寧さも速さも並がいい」という人が多いが、管理職以上になると、「丁寧さよりもスピードを重視する」という人が多くなる。これは管理職ほどスピードの重要性を理解しているからだろう。また現実問題として、たとえミスだらけだろうと期限前に提出さえしてくれれば、周囲がフォローすることもできる。だから「巧遅の部下よりは、拙速の部下のほうがマシだ」と考える管理職が多いのかもしれない。

しかし本当は拙速と巧遅のどちらがいいかという議論は、問題設定のしかたによって、まったく答えが変わってくる。

時間はあまり問題でないとき、人間は基本的に質が高いほうを選ぶものだ。

「30分後に届くけれどまずいピザ」と、「完成するのは3時間後だが、有名シェフによる垂涎もののフランス料理」のどちらかを選ばなくてはいけないとしたら、ほとんどの人が後者を選ぶのではないだろうか。

しかし待たされるのが3時間ではなく3日で、それまで何も食べられないとしたら、状況は一変する。「どんなにまずくてもいいからピザをくれ」となるはずだ。つまり「速い・遅い」も、「丁寧・雑」も、すべて程度の問題。何か突出して優れている部分があっても、突出してダメな部分があれば台なしになってしまうのだ。

それではなぜ同じ組織に極端に遅い人や雑な人がいるかといえば、管理職が「ここまではOK、これ以上はNG」という規準をはっきり示さないからである。「速い・遅い」「丁寧・雑」という評価軸を立てて4象限のマトリックスで表すと(図)、「この職場で許容範囲とされるゾーン」がわかりやすくなるだろう。ところが多くの職場では、この規準が明確に示されていない。

■上司が「評価基準」を明確に示すべき

あたりまえだが、職場にはいろいろな人がいるし、自分にとって快適なリズムは人それぞれ違う。何も言わずに放っておけば、みんな好きなようにやるに決まっているのだ。しかし、こと仕事に関しては、あまりにも極端なマイペースは直してもらう必要がある。ところがそれをせずに、仕事は丁寧だがいつも期限に間に合わない人や、仕事は速いがミスを連発する人を黙認し続けることは、組織全体に「質さえ高ければ(スピードさえ速ければ)、遅れても(雑でも)いいんだよ」というメッセージを送っていることにほかならない。これはあまりいい影響を与えないだろう。

この状態を改善するには、多少独断でもいいから、上司が望ましい速さや丁寧さの規準を定め、それを繰り返し周知徹底することだ。

質を重視する職場であれば、「少しくらい期日に遅れてもなんとかなる。その代わり、絶対に他社に負けない素晴らしいものをつくれ」。スピードが命の部署なら、「ある程度のレベルを超えたらその時点で提出しろ」というように、わかりやすい規準を示すことである。

仕事が遅いけれど丁寧な人は、「丁寧にやる」ということに対するこだわりが強すぎる。結局、スピードを出すかどうかは意欲の問題である。それをしないのは単にスピードアップしようという意欲がないだけだ。本当は走れば間に合う能力があるのに、点滅する黄信号を走って渡らないのは、走ったら疲れるし、息が切れるというだけの理由だ。たいていの場合、急げばスピードアップするのである。

このようなタイプは、「スピードを出すことに対する意欲の足りなさ」を、仕事の質の高さや正確さで補っているともいえる。しかしそれは決して褒められた話ではなく、そうするのが自分にとって一番楽だから、そのスタイルを貫いているだけだ。このような、遅くなったせいで周囲に迷惑をかけている自覚がないタイプには、上司がはっきりと、「いくら完成度が高くても、期日に間に合わなければ無意味だよ」と言わなければならない。

■理想は質を保ちつつ「ちょい速め」

その一方で、仕事が速いけれど雑なタイプは、1週間後でも間に合うものを、ろくに見直しもせずすぐに出してしまう。それは、「早く出すのが優れている」と勘違いしているからだ。こういうタイプは、質を高めるために粘るのが面倒で仕方がない。だから早く提出することでごまかそうとする。こういうタイプには、「いくらすぐに出てくる牛丼屋でも、ものすごくまずかったら客は入らないだろう。一定のクオリティを担保するためには、期日までたっぷり時間を使って、じっくりやれ」と言うしかない。

しかし多くの人にとっては、自分のリズムが規準になっている。本音を言えば、私自身も例外ではない。それを強制的に「ダメだ」と言われるとカチンとくるに決まっている。そこで先ほどのマトリックスを示しながら、「この部署で望ましいのはこのゾーンで、ほかの人はみんなここに入っている。あなたももう少しこちらのゾーンに近づくよう努力してほしい」というように、穏便に話し合ってはどうだろう。しかしそれでも改まらない場合は、この仕事には不向きと判断して、異動してもらったほうがお互いのためかもしれない。

スピードと質の関係は、どちらか一方を取ったらもう一方を捨てなければいけないというものではない。一番理想的なのは、一定のクオリティは保ちながらも、スピードは「ちょっと速め」を心がけることだ。その結果、平均より正確だとか、平均より優れているという人は能力が高いし、どこの職場でも重用されるだろう。

職種や環境によって、求められる仕事の速さや質は異なる。管理職は常に最適な速さと質のさじ加減を見極め、そのうえで部下に仕事を振り、それを評価する必要があるだろう。

(東京海洋大学特任教授 小松俊明 構成=長山清子 写真=PIXTA)