壱番屋 相談役 宗次直美 1950年、愛知県名古屋市生まれ。69年、一宮女子高校(現・修文女子高校)卒。大和ハウス工業勤務を経て、74年、夫とともに喫茶店を開業。78年に「カレーハウスCoCo壱番屋」を創業。98年社長、2002年会長、2010年相談役。

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数年前のことである。愛知県一宮市の壱番屋本社に、宗次直美会長(※雑誌掲載当時)の怒声が響き渡った。

「ぐずぐずするな! 四の五の言わずに東京へ行って、現場を見てこい!」

そのころ、東京にあるカレーハウス「CoCo壱番屋」の加盟店がクレーム対応に苦慮していた。ところが報告を受けた本社サイドは、少ない情報をもとに再三協議を重ねるばかり。異変を感じた宗次会長が事情を聞き取り、当時責任者だった浅井佳会氏を一喝したのである。

あのときはね、この子(浅井氏)が職務怠慢だったのよ。現場を見て実態を把握しないと、どうしても社内だけで自分の都合いいように処理してしまうでしょ。そうならないように、自分の目で確かめていらっしゃいよと言ったわけ。

浅井さんと担当役員が2階(事務フロア)で話し合っていたので、とりあえず5階の会長室へ呼びました。すると、あれこれ言い訳を始めたものだから、むかついてきましてね(笑)。ちょっとこのあたり(テーブルの脚)を蹴って、「いまから東京へ行け。泥の橋が壊れる前に渡れ!」と命じたのです。答えはすべて現場にあるからです。

私は「ノー」という答えが一番嫌いです。「できる方法を考えろ、人間なんだから知恵を使え」と指導します。

それが昼ごろのこと。浅井氏はその足で名古屋駅へ向かい、東京行きの新幹線に乗り込んだ。現地では短い時間だったが店長と話をし、問題点を把握した。その日の夜遅くのことだ。

「疲れ果てて、東京駅で帰りの新幹線を待っていたところへ、会長から携帯に電話が入ったんです。絶妙のタイミングでした。それで、疲れも吹き飛びました」と浅井氏は笑う。

■公明正大だから厳しく言える

「偉かったね。子どもは誰が見とるの?」

そう言ったと思います。浅井さんはお子さんがまだ小さいんですよ。その日は違ったようですけど、急な出張が入ると、お父さんに見てもらうことがあると聞いていました。そういうときは「お父さんにお礼を言っといてな」と付け加えるようにしています。

部下たちが自分の職責をきちっとまっとうしない、いつまでもやらないでいる。そういうときに私は怒り狂い、「月給泥棒」と言うこともあります。

私は勘が鋭いから、相手の人間性を見透かします。最近は自信と傲慢とをはき違えている子が増えたように思います。本当の自信を持っている子はむしろ謙虚です。目の動きとか、話す内容でわかります。大げさに言っている、飾っているなということはすぐにバレますよ。そういう子を叱るのです。

もちろん相手によって強弱をつけますよ。十人十色です。この子にはここまでやったらいかんな、この子にはあとでフォローをしとかんと……。それをどこまで見分けられるかがポイントです。でも、自分で言うのはなんですが、どういうわけか社内では慕われていますよ(笑)。それは愛情を持って接しているからだと思います。

私にとって、従業員は“子ども”なんです。いろんな分野で私の代わりに仕事をしてくれる子どもたちです。大切にしなければいけません。だから全身全霊で叱ります。むしろダメだと思ったら叱らずに、徹底的に無視します。

うちは一般的な加盟店(フランチャイジー)募集はしていません。独立希望者はいったん社員になってもらい、のれん分けの形で加盟店を任せます。そのためには、壱番屋マインドをしっかり身につけてもらいます。髪の先からつま先まで学んだ子、理屈ではなく体で覚えた子が独立できるのです。

教え込むのは、私たちが飲食業を始めたときに何をしたか、どのように気配りしたかということです。私は宇宙人ではなく人間。だから、私にできたことはあなたにもできる。それを継続できるかできないかが問題なのです。

彼らを叱るのはこういうときです。うちの店は狭いので、どこからでもお客様の視線を感じていなければいけません。背中に目がついていないようなときは、背中を1つピターンと張りますよ(笑)。

顧問(※雑誌掲載当時:夫で創業者の宗次徳二氏)と2人で立ち上げた会社ですから、壱番屋も“子ども”のようなものだと思っています。私は、会社の交際費は一切使いません。交際費名目で支出するのは、加盟店さんのオープン記念に贈る花輪くらいで、海外に行くときも自腹です。なぜかといえば、子どもからお金を取りたくないからですよ。

そして率先垂範で働きます。脱サラして喫茶店を始め、カレーチェーンを創業したのも自分たちが決めてやったこと。誰に強制されたわけでもありません。だったら、徹底的に死に物狂いでやるのが当たり前です。1000店舗を達成したときには、半年間、制服を着てカウンターの中に立ちました。

でも、世の中には現場にも出ないで、会社の接待費や交際費を使って楽をしている経営者がいるようですね。つまり公明正大ではないということです。これは、管理職でも同じです。そんな状態が続けばどうなりますか。

脛に傷を持つ上司は、ストレートに部下を叱れません。正論を返されたら痛いからです。うちも管理職は30〜40人いますが、それはあくまでも社長(浜島俊哉氏)が決めた組織です。私が認めているのは、そのうち10人未満で、あとは認めない(笑)。

いつも「へえ、駒が足りんなあ。人を育てられんのか?」と憎まれ口をきいていますよ。とくに男の管理職はいけません。男同士だと、見栄の張り合いなのか、言いたいこともよう言わんところがありますよね。私は女性ですから、ズバズバ言います。

一般に女性管理職にはそういうところがあると思います。経費の使い方にしても、男と比べて公明正大です。脛に傷を持たないから強く言える。

世の中の男は全体にだらしないと思います。何かにつけて一緒にお酒を飲んだり、食事に行ったり。団らん気分では仕事はできませんよ。部下を叱るには、まず自分の身辺から見直すことが大切だと思います。

(※本文内肩書きはすべて雑誌掲載当時)

(プレジデント編集部 面澤淳市=構成・文 山口典利=撮影)