2013年の仕事始めである1月7日、巨人のボス(渡辺恒雄会長)がぶち上げた。「原の後は松井だ」と。原辰徳監督の後継監督に、昨年暮れに現役引退を発表した松井秀喜を充てるというのである。この爆弾発言は大きな影響を与えるだろう。

後継者候補筆頭を自認する桑田の心中やいかに?

リップサービスとは思えない生々しいナベツネの言葉だ。静かに新年を迎えたプロ野球界に落とした強烈な爆弾だった。

「松井は早く巨人に戻ってきたらいい。コーチでもやってから原の後を継いだらいい。大監督になってもらいたい」

この言葉に、フロントは飛び上がったことだろうし、現場を預かる原監督はじめ首脳陣はびっくりしたことだろう。ナベツネ発言は、こと巨人に関してはその通りになることが多い。周囲が「天の声」として動くからである。

ナベツネ氏、ついでに「松井の後は高橋由伸」とまで口走った。つまり10年から15年先までの監督人事を披露したことになる。

ナベツネ発言に反応したOBは多い。とりわけ監督の座を狙っている者にとっては一大事だ。その筆頭は桑田真澄だろう。

ドラフト1位でPL学園から入団した桑田は、巨人の生え抜きとしてのプライドがある。大リーグで投げたものの、日本では巨人で現役を全うしている。巨人は「監督は巨人生え抜き」が不文律になっているから、桑田は有資格者だし、本人もやる気十分の言動が目立つ。

「現役を退いた後、早大の大学院に通って『学歴』をつけている。巨人監督を念頭に置いての行動だったはず」との関係者の声もある。

これまで江川卓が原の後任に名前が挙がっていたが、いわゆる首脳陣人事でナベツネに刃向かった「清武の乱」で巻き添えを食い、その線は消えた。以来、桑田は、自分が最短距離に躍り出たと確信したのではないか。

そんな桑田にとって松井の登場は予想外のことだったことだろう。

松井にとっては最高の「後ろ盾」

問題は松井の意思である。巨人を去って大リーグに行ったとき、松井は「巨人との縁は切れた」と思っていたに違いない。背番号55はすぐ後輩が付けたし、巨人OBの王貞治と原が監督を務めたWBCにも参加しなかった。とても巨人には戻れないし、自分も戻らないと腹を決めたことだろう。

しかし、現役を辞めたものの、野球界で仕事があるのか、というと疑問符が付く。せいぜい評論家か解説者でしかない。それも最初の1、2年が注目されるだけだ。野球を離れてほかの仕事に就くとは考えにくい。まさか故郷の松井記念館の館長に収まることはないだろう。

先のことを考えたとき、後ろ盾が必要である。巨人なら文句はあるまい。天下の長嶋茂雄でさえ巨人にワラジを脱いで「終身名誉監督」になっている。

(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)