SBI HD CEO 北尾吉孝 1951年、兵庫県生まれ。県立神戸高校、慶應義塾大学経済学部卒業。ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村証券、ソフトバンクを経て、99年よりソフトバンク・インベストメント(現SBI HD)CEO。

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「叱る」と「怒る」は違うと思います。先に善悪の判断が働いて、それが悪であれば善に導こうとするのが「叱る」。他方、一時的感情の吐露にすぎないのが「怒る」です。これを区別しない人がいるのは問題です。

従業員3000人の総合金融グループを率いる北尾吉孝氏は「叱り上手」としても知られている。北尾氏にとって、叱ることはあくまでも部下を教育するプロセスの一環である。

叱るときに大切なのは、部下を少しでもよき方向に指導するという姿勢です。ですから根底には必ず愛情がなければいけません。それと同時に、なぜ叱るのかを懇切丁寧に説明します。部下自身が間違ったことはしていないと思い込んでいるケースがあるからです。

しかし「できないことをやれと言われても無理ですよ」「どうやってやればいいんですか」と反論されることもあるでしょう。そこで「教える」という行為が必要になってきます。ただ単に叱るだけでは不足なのです。

「やってみせ 言って聞かせて させてみせ ほめてやらねば 人は動かじ」

これは連合艦隊司令長官だった山本五十六元帥の語録にある有名な言葉ですが、説明をし、実際にやってみせ、十分に納得させる。そのうえで、教えたとおりにできたら褒めてあげる。そこまでやらないと、人を動かすことはできません。その際、最も大事なことは褒めることだと思います。

言葉を換えれば、相手の自尊心を尊重するということだ。叱るときも同じである。

人を動かすには、叱り方にも配慮が必要です。たとえば「これは違うじゃないか!」と、頭ごなしにがんがん責め立てるのは良策とはいえません。僕の場合、たとえば「君ほどの人が」と一言付け加えます。

「君ほどの人が、どうしてこれくらいのことに気がつかなかったのか」

つまり相手を評価しているというメッセージをはさむのです。すると、叱られるほうも嫌な気持ちにならずに話の内容を聞くでしょう。

■部下を褒め、叱れない組織は崩壊する

「しょうがないな。これはみんながやる間違いなんだ。僕も昔、やったことがあるよ」

これも「一言」のバリエーションです。実際にそのとおりの失敗をしていなくても構いません。こういった言葉を付け加えることで、相手の受け取り方が違ってくるのです。

一方で、相手の心情を考えれば「大勢の前で叱ってはいけない」というセオリーがあります。これは、間違いだと思います。

問題が起こったときは、即時、公開の場で叱らなくてはいけません。ただし、そのときには失策を犯した当人(ヒト)ではなく、失策そのもの(コト)を叱るというスタンスが必要です。

「彼がやったミスはありがちなことだから、みんなも気をつけるように」

こう一言付け加えることで「ヒトではなくコトを叱っているんだな」ということがわかります。

大事なのは、その場の全員が失敗の情報を共有するということです。だからこそあえて公開の場で叱るのです。反対に密室へ呼び出したりすると、コトではなくヒトを叱っているような印象を与えてしまい逆効果です。

では北尾氏は、どのような場面で雷を落とすのか。

たとえば部下たちの姿勢に対して叱ります。最近は、こんなことがありました。

奥村綱雄さんが野村証券社長だったころに打ち出したのが「ダイヤモンド経営」です。さまざまな人材が多面的に集まり、輝きを増していくという意味でした。僕はある会議の場で、このことを引き合いに出して、SBIグループの今後3カ年の方針を打ち出しましたが、これはその翌日のことです。

「きのう僕は奥村さんのダイヤモンド経営に触れ、ダイヤを美しく輝かせるブリリアントカットについても言及した。これについて誰かインターネットで調べた者はいるか?」

すると、出席者は15人いたのに誰ひとり手を挙げません。それを知って僕は叱りました。

「自分の知らないことを上司が会議の場で口にした。ということは、それなりの意味があるはずだ。僕があなたたちなら、すぐに調べる。それをしなかったのはけしからん。君たちには知識欲、好奇心がないのか!」

そうやって調べるから、知識が頭に残るのであって、人の話を聞き流しているようでは身に付くことはない。こう言ったのです。

もちろん、頭ごなしに叱りつけたわけではありません。こういうとき、いつも口にしているのが次の言葉です。

「そんなことでは、いつまで経っても僕を抜けないぞ。出藍の誉れで、僕を抜いてもらわないかんのに」

最近は叱り下手、叱られ下手が増えたと北尾氏は言う。

いまの中間管理職を見ていると、部下とのコミュニケーションの量が減っていると思います。叱ることもせず、一緒に酒を飲みにいくでもなく、単にじーっと見ていて人事考課だけは低くつける。そういう上司は、愛情が一かけらもないと断じていいでしょう。

本来なら課長クラスこそ、部下の指導をしなければいけない。たしかに上層部と部下との板ばさみになって、大変な立場です。しかし、だからこそ鍛えられるときだと考えるべきです。

積極的に下の連中と食事にいき、自分自身の反省点や部下の教育で欠けていたところを認識する。あるいは会社に対する若手の意識を収集する。そういうことが必要です。

そして部下の悩みを親身になって聞いてやる。たとえば僕が野村証券の事業法人部長だったころ、「どうしてもお客さんに食い込めないんです」と相談されることがよくありました。そういうときは、僕自身が徹底して営業に同行し、応援したものです。

逆に部下たちは板ばさみの大変さを見ています。役員からは怒られたけれど、大勢の部下が一生懸命ついてきてくれるじゃないか。それを知って、よし、もういっぺん頑張ろうという気持ちになれたらいい。昔から、部下の支えがなくて上にいった人はいませんよ。部下をきちんと褒め、そして叱る。そういった気概のあるきちんとした上司がいない組織はダメになります。

(プレジデント編集部 面澤淳市=構成・文 大沢尚芳=撮影)