パナソニックは今期、7650億円の赤字となる見通しだ。前期と合わせて2年で1兆5000億円超が吹き飛んだ計算になる。一方、サムスン電子の前期純利益は約9000億円。今期の最高益更新も堅い。(※雑誌掲載当時)なぜ、この差がついたのか。両国企業の「人材力」を徹底検証する。

 韓国では、1997年の「IMF危機」で財閥を整理統合した。その後、財務基盤の弱い会社は衰退し、結果としてふたたび力のある会社にカネも人材も集中する構造が生まれている。

サムスン電子の社員数は19万人を数える。それでも組織が一丸となれるのは、強力なリーダーシップに加えて、上、下層を繋ぐ「分厚い中間層」がうまく機能しているからにほかならない。

「韓国企業の中間管理層には主体性があり、実は下意上達の側面も大きい。人材で比較した場合、日韓でもっとも差があるのは中間管理職かもしれません」

こう話すのは、富士通総研の金氏だ。IMF危機当時、オーナー独裁経営への批判も高まり、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の整備が進められた。経営企画室を中心とする中間層が実力をつけ始めたのも、この時期以降である。

同時に、人事考課制度や給与体系の改革も行われた。九州産業大学教授の安熙卓氏は、日韓の中間管理職層の差を、韓国企業の雇用慣行に言及しながら解説する。

「韓国では、ホワイトカラーを中心に出世欲が顕著です。IMF危機を境に、日本的な職能等級制から、米国型の職務等級制に移行したことが背景にあります」

職能等級制とは能力や経験などをベースに人事考課を行うこと。年功序列の賃金体系とセットで運用されることが多い。一方、職務等級制とは担当する仕事の内容の難易度や重要度にもとづき人事考課を行う制度で、多くの場合、成果主義の賃金体系が採用される。

安氏の調査によると、職務等級制を実施するうえで欠かせない職務調査や職務分析を実施した韓国企業の割合は56.6%だった。対する日本はわずか19.7%。米国が61%であるから、韓国企業の人事考課制度は限りなく米国型に近いといえよう。右図に示したように、年俸制を導入している韓国企業の比率も、IMF危機以降、右肩上がりで伸び続けている。

サムスン電子元常務の吉川氏は、韓国の中間管理職層の「気概」を見習うべきだと説いた。

「サムスンでは課長昇進段階で厳しく振り分けられます。だから、彼らは命を懸けている。昇進に漏れれば、自尊心が傷ついて辞める者もいます」

もちろん、健全な環境という意味では、「韓国式」が正しいとは言い切れない。前出の安氏は言う。

「サムスン電子などのR&D部門だと、40代で年収1億円を超すこともあります。一方、韓国では非正規社員も多く、賃金格差は日本よりはるかに大きい。政府も雇用安定化へ動き始めています」

ソウルで話を聞いた40代前半の「サムスンマン」( http://president.jp/articles/-/8179 )も、「定年まで勤めたいが、いさせてもらえるとは限らない」と漏らした。サムスン電子の定年は韓国では一般的な55歳だが、平均在職年数はたった8年程度。日本はリストラをしにくい法環境にあるのに対し、韓国ではIMF危機以降、法的に許容されるようにもなっている。

私の新聞記者時代の同僚で、現在はソウルの大学で日本語講師を務める50代男性は、「一流企業に勤める中年受講生の中には、『田舎に帰って飲食店を開こうかな』なんて弱音を吐く人も多い」と明かした。それだけ過酷な現実がある。こうした背景もあり、12月の大統領選を前に、拡大を続ける財閥への批判も高まっている。

それでもやはり、世界市場で結果を出している韓国のほうが優勢に見える。だが、仮に韓国の財閥の力が弱まったとしても、日本企業の人材が成長するわけではない。

孫子の兵法ではないが、日本企業は今、「相手を知り、己を知る」ことこそが求められている。隣国のライバルに「負けている」現実に向き合って初めて、新たな地平も開けるのだ。

(ジャーナリスト 菊地正憲=文)