積水ハウス会長兼CEO 和田 勇氏

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■電話帳をめくって耐えた孤独の日々

ビジネスマンは孤立を恐れず新しいことに積極的に挑戦すべきだ。人がやらないことに挑戦すれば足を引っ張る人が必ず現れる。それを気にしていても仕方がない。出る杭は打たれるが、まずは打たれるくらいに出ないと始まらない。

じつは私も出る杭だった。名古屋で営業所長をしていた1970年代、都市部で地価が上昇してマイホームが入手困難になり、賃貸のニーズが高まった。そこでプレハブの集合住宅をつくることを考え、営業所レベルで勝手に開発した。社内で物議を醸したが、結果的にこのとき開発したものがもとになり、現在のわが社の賃貸住宅ブランドの商品「シャーメゾン」へと発展した。

攻めの姿勢はいまも変わらない。住宅はドメスティックな産業と思われがちだが、いつまでも内向きではいけない。そこで私自身が先頭に立ち海外4カ国で新しい事業をスタートさせた。国内の限られたパイを取り合うだけでは企業は成長しない。リスクを取りパイを広げる勝負をしてこそ成長がある。

これは人の成長も同じだ。孤立を恐れて自主規制してはいけない。まわりの目を気にしていたらスピードは鈍る。タイム・イズ・マネーと考えて前に進むのみだ。

孤立に耐えられるほど精神的に強くないという人もいるだろう。かくいう私も、最初からタフなわけではなかった。65年に入社した私は、同期の中で1人だけ名古屋の営業所に配属された。

ところが本社から連絡が入っていなかったらしく、所長からは「(配属について)何も聞いてない」と突き放された。新人に手も回らないようで、仕方なく電話帳をめくって時間を潰す日々が続いたが、孤立というより孤独。あのときの心細さは、いまでも昨日のことのように覚えている。

心が折れそうになったときに救ってくれたのは実績だった。誰も何も教えてくれないので、見よう見まねで営業を始めたところ5月に1件の契約が取れた。それを心の支えに頑張ったら2年目に販売数は全社一になった。こうした実績は不安や迷いを消してくれる。孤立に苛まれそうになったら、まずは実績づくりに専念すること。それが自信になり、新しい挑戦をする意欲へとつながっていく。

誤解してほしくないが、孤立を恐れずに前に進むといっても、仲間を大事にしないという意味ではない。むしろ、まわりへの気遣いは大切だ。

実績をつくって自信をつけた私は順調に契約を積み上げていった。しかし当時は建築ラッシュで人手が足りず契約を取ってきても職人さんに動いてもらえなかった。だからといって無理強いはできない。職人さんが横を向いたら、おかしな家ができあがる。お客様のためには一軒一軒、真心をこめてつくってもらう必要がある。

どうすれば職人さんたちは動いてくれるのか。それを左右するのは普段からの人間関係だ。私は地場の工務店を回り、関係づくりに奔走した。話を聞いてもらえるまで何度も足を運んだし、酒を酌み交わした夜も数えきれない。

そうした積み重ねで信頼を得て協力してもらえるようになった。いま弊社には「積水ハウス会」という協力会社組織があるが、原型はこの時期にできあがっていた。

もちろん単に会って話せば信頼関係を築けるものではない。あのころ意識していたのは地べたに座って同じ目線で話すことだ。上司からの評価を気にしている人が多いが上ばかり向いている人にまわりは心を許さない。まわりが支えたくなるのは、自己保身に走らず本音でぶつかってきてくれる人だ。

本音のコミュニケーションにノウハウはない。あえて1つアドバイスするなら自分から弱みを見せることだろう。上司の立場なら格好つけずに自分の失敗談を語る。そうやって弱さを晒してこそ相手も心を開いてくれる。

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積水ハウス会長兼CEO 和田 勇
1941年、和歌山県生まれ。関西学院大学法学部卒業後、積水ハウス入社。西日本営業統括本部長などを経て、98年社長、2008年より現職。

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(積水ハウス会長兼CEO 和田 勇 構成=村上敬 撮影=浮田輝雄)