【レトロ少女漫画を語る】第1回 ニーチェの君(きみ)なんていう時代もあった『となりの住人』

連載コラムでは初めてお目にかかります。川上竜之介と申します。
名作は時代を超えます。それは、小説でも絵画でも映画でも音楽でも建築でも、巷にあふれる日用品のデザインだって同じです。

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懐古主義的になるかもしれませんが、デジタルがなく、スクリーントーンが珍しかった、70年代や80年代の少女漫画は、レトロという意味でアート性が強く感じられます。バブル期の、まるで欧米の映画のような豊かな町のデザインやファッションがあるのにも関わらず、少女や男性の登場人物にどことなく影や悩みがあるという、もちろん少女漫画ですので恋愛が話の中心ではあるのですが、それだけでは語れないストーリィや個性があったように思うのです。何より、作品に優しさがありました。
というわけで、若い読者は当然知らない世界ですが新鮮に感じられるかもしれませんし、知っている世代の方にとっても懐かしめるでしょう。
今ではマニア古書店やネットオークションでしか手に入らないかもしれませんが、そういったレトロ少女漫画について語っていこうと思います。

今回紹介する本は、昭和53〜54年に「週刊マーガレット」に掲載されていた読みきり4作をまとめた、岩館真理子先生の『となりの住人』です。

ある日、アパートに引っ越してきた窪田慶子のとなりに住んでいた住人(堤おさむ)は、周囲の人たちから、「変人、精神異常、チカン」という噂がたっていました。
もちろん、読み進めていくと、堤になぜそのような噂がたったのかが解ります。

特筆すべきは、ペットの異常な可愛さと、コメディなのにシリアスなドラマの展開になっていくという点でしょう。最初に提示された謎が次々と明らかになってきます。
また、ヒロインのへそチラや、堤のトランクス一丁など、誰得? なシーンもあります。
手足の長い、フランス映画のような美少年美少女が登場します(もちろんそれ以外も)。手描きのアナログの作画なのですが、ファッションや小物が綺麗です。今見てもヒロインのワンピースやキャミソール姿などは古さを感じさせません。
カットも、萩尾望都先生や池田理代子先生のようなタッチを彷彿とさせるようなシーンや、映画のような印象的な構図が多数あります。

また、王道ながら、意外な展開やキャラがたっているという点では、この短編集の中の「さたでぃ・ぱあく」もおすすめです。

書 名/となりの住人
著者名/岩館真理子
出版元/集英社
定 価/360円
初版発行日/1980年1月30日

(文:川上竜之介)