あたらし式「ジンザイ」の4分類

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■求められる仕事力と人間力

人間の度量、すなわち“器”をつくるというのは、ビジネスパーソンにとって、非常に重要なテーマです。なぜなら周囲から「彼は器が小さい」と見られてしまうと、重要な仕事や役割は回ってきにくくなってしまうからです。とはいえ、人の器をどのように考えればいいのでしょうか。

ビジネスの現場において、常に求められるのは、技術や能力を表す仕事力(スキル)と人間性や人柄を表す人間力(マインド)です。おわかりと思いますが、この人間力こそ器と大きく関係してきます。

例えば、スキルが傑出しているけれども、人間力があまりない人を才子といいます。ただこの人は器が大きいとは思われません。それにはやはり人間力が必要で、この2つをあわせ持つ人物が大人(たいじん)。会社では、多くの部下の上に立ち、士気を鼓舞して、目標に向かってぐいぐい前進させるリーダーです。私流に定義すると“人財”ですが、こんな人は全体の5%、甘く見ても10%しかいません。

往々にして、部下を持つと「うちの上司は、よくできた人だ」と見られたくて、器の大きなふりをする人がいます。けれども、付け焼き刃は絶対に禁物です。見る目を持つ人には、必ず見抜かれてしまうものです。

しかし、人間力あるいは人柄といっても漠然としています。そこで私は、人間力を構成している重要な要素を考えてみました。端的にいえば、信頼と尊敬と意欲の3つです。それによって「あの人は器が大きい」と周囲が感じるわけですが、そのためには、次の7つを実践してください。

まず、1番目に方向性を語ること。会社組織にあっては、経営理念や長期計画を構築し、指し示すことです。2番目は、それに基づく戦略や戦術を立案する際、自分の部門だけでなく、全社的視野に立つことも大切です。そして3番目として、決定事項を素早く断行するのです。ちなみに、ある調査によると、サラリーマンの上司への不満で最も多いのが「早く決めてくれない」ことだそうです。

4番目と5番目は、それぞれ関与させることと権限委譲することです。目標を策定するプロセスに部下を参画させて、意見を聞きながら、落としどころに持っていきます。そして、目標が定まったら目いっぱい任せる。こうすることで、部下は当事者意識を発揮して、目標完遂へ全力で取り組んでくれるでしょう。経営学の大家であるピーター・F・ドラッカーは「人を育てるための最も効果的な方法は、任せることである」といっているぐらいです。

ただし、任せっぱなしはいけない。そこで6番目の責任が求められるわけです。ところで、責任には実行責任と結果責任の2つがあります。実行責任は部下100%ですが、結果責任は部下も指示した上司も100%です。古い表現ですが「骨は俺が拾ってやる」という心意気でしょう。

最後の7番目は、これまでの6つのポイントを実行する際にもいえることですが、感情を抑制すること。自分をコントロールできずに、部下を説得し、納得させることはできません。

江戸時代の儒学者、佐藤一斎の『言志四録』に「春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛む」とあります。他人に対しては暖かい春の風のように接し、自分自身は秋の霜のように厳しくつつしめという意味です。世の中には逆の人も少なくありませんが、まず自分を律してこそ周囲からの尊敬も信頼も得られます。

器を大きくするには教養も大事です。私も半世紀近いビジネス人生でヘルスケアのグローバル企業であるジョンソン・エンド・ジョンソンの社長などを務め、多くのリーダーに会いました。「この人は素晴らしいな」と思わせる人物には共通する特徴がありました。

それは一口でいえば教養です。文学や美術、歴史の造詣が深く、カクテルパーティーなどでは、ギリシャ神話やシェークスピアが、しばしば話題に上ります。そうした教養の裾野の広さに、私は彼らの懐の深さを感じました。ビジネスに役立つ経営学だけでなく、こうしたいわば“無用の学”があるわけですが、そのバランスが取れているのも器の大きな人としての欠かせない条件なのです。

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国際ビジネスブレイン社長 新 将命 
1936年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなど6社で勤務。3社で社長、1社で副社長を経験。近著に『伝説の外資トップが説く働き方の教科書』がある。

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(国際ビジネスブレイン社長 新 将命 構成=岡村繁雄)