KADOKAWA MOOK『1990X』(プレビジョン発行、角川グループパブリッシング発売)
表紙に「1990年代生まれの女子と1990年代のガーリーカルチャーをMIX掲載するジェネレーションギャップ氷解マガジン」と銘打たれているように、その誌面には異なる世代間でのコラボレーション企画が並んでいる。カバーと巻頭グラビアで、SKE48の松井玲奈がソニック・ユースやダイナソーJrといった90年代を象徴するロックバンドのシャツを着ていたりするのも、そんな企画の一環だ。

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アイドルがアニメやマンガ、ゲームといった自らのオタク趣味を公言することは、いまや何ら珍しいことではありません。でも、ほんの10数年前までは、アイドルがそういう趣味をがカミングアウトすることはあまりなかったし、仕事でアニメキャラのコスプレをするといったことも半ば御法度だったという印象があります。ぼく自身、90年代半ばにかかわっていたサブカル誌で、当時の某トップアイドルに「エヴァンゲリオン」の綾波レイのコスプレをさせてはどうかと提案したことがあるのですが、先方からはにべもなく断られてしまいました。

かつてのアイドルと現在のアイドルはいろんな点で違いますが、いちばん大きな違いはやはり、上記のようなオタク的なもの、サブカル的なものとの距離感ではないでしょうか。考えてみれば、握手会などファンとの接触も多いいまのアイドルにとってオタク趣味は、ファンとの交流のなかでフックにもなっています。このあたり、いかにもソーシャル時代らしい現象といえるかもしれません。

SKE48というアイドルグループは、メンバーにガチオタが多いことでファンのあいだでは有名なのですが、松井玲奈もそのひとり。最近ドラマ出演など単独での活動も増えてきた玲奈さんは、この年末に出た『1990X』というムックでカバーガールを務めています。1990年代をフィーチャーしたこの本の表紙で、彼女は首からポラロイドカメラを提げ、ソニック・ユースのシャツを着たりして、90年代のサブカル少女に見事になりきっています。何という、おっさんホイホイ(笑)。

今回、玲奈さんを撮影したのは佐内正史(スタイリングは伊賀大介)。察しのいい方なら、雑誌「relax」(2006年休刊)での連載「a girl like you 君になりたい。」を思い出すかもしれません。ブレイク直前の長澤まさみや宮崎あおいなどアイドルや若手女優が続々と登場した同連載は、日常の何気ない風景をロケーションに彼女たちの素顔を引き出したことで記憶されます(のちに写真集にもまとめられました)。じつは今回の企画も、あの往年の名連載のコンセプトを踏まえたものなのでした。

撮影後のインタビューでは、1991年生まれの玲奈さん自身の90年代体験も語られています。そこでもやはり「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」などアニメの話が出てくるのが彼女らしいのですが、2次元好きだった彼女がなぜ3次元のアイドルに目覚めたのか、その理由が面白い。そもそものきっかけは、AKB48が初めて「ミュージックステーション」に出演し、「スカート、ひらり」を歌っているのを観たことだとか。

《サビで女の子がスカートを翻していて、ものすごく2次元的だと思ったんですよ! 普通の3次元の女の子はスカートひらりしないじゃないですか。それをしているのがすごく2次元的で、そこにすごく惹かれました》

2次元にあこがれていた少女が、3次元のアイドルに惹かれ、ついには自分自身がアイドルになってしまうのだから人生はわからないものです。

さて、『1990X』という本のコンセプトは、「90年代をリアルに体験してきた世代と90年代生まれの人とのクロスポイントを誌面化しよう」というもの。これに沿って誌面には、ぱすぽの藤本有紀美(1992年生まれ)とその母親(1965年生まれ)による対談や、ぱすぽのデビュー当時からの振付師である竹中夏海(1984年生まれ)とモデルの玉城ティナ(1997年生まれ)の見開きツーショットなど、世代間コラボ企画が並びます(なお、ぱすぽはこの本が出るのと時期を合わせるように、PASSPOという表記に改められました。正確にはぱすぽもPASSPOもお尻に星マークがつきます)。

そういえば昨年は、岡崎京子原作の映画「へルタースケルター」(蜷川実花監督)が公開されたり、小沢健二が12日間におよぶコンサート「東京の街が奏でる」を開催したり、はたまたスチャダラパーのBOSEがあやまんJAPANのファンタジスタさくらだと結婚したりと、1990年代と2010年代がクロスするようなできごとが結構ありました。こうした本が出てくるのも、そうした流れに連なるものといえるかもしれません。

90年代をリアルタイムで体験した側からは、モデルとしてデビューした高橋マリ子や酒井景都がそれぞれインタビューで当時を振り返っています。高橋とインタビュアーとのあいだではこんなやりとりも。

《「自分が一番下だったのが、アシスタントとかからだんだん同じ年齢が増え、今ではカメラマンとかは同い年だったりするからびっくりします。常に自分が下だと思っているから、いろんな人が大人に見えちゃうんですけど、自分も大人って言われる年なんだなって」
――あー、それすごく象徴的かも、90年代の人って先輩にならないキャラっていうか(笑)。》

ぼく自身、90年代に10代で出版の世界に入ったせいか、この発言にはとても共感を覚えます。もっとも「90年代の人が先輩にならない」のは、いつまで経っても契約社員のままとか雇用や経済状況も影響しているのかもしれませんが……。

『1990X』ではこのほか、90年代文化研究家の鵜川カナ(1991年生まれ)による90年代のサブカルチャー雑誌・書籍ガイドや、デザイナーのひづめみか(みか〜る。1973年生まれ)の90年代雑貨コレクション(なかには、とある雑誌の付録だったというフリッパーズ・ギターのポスターなどファン垂涎のレアグッズも)など、あの時代のカルチャーガイド的な記事もあります。鵜川のセレクトでは、「H」「Olive」「スタジオボイス」といった雑誌とともに、写真家のHIROMIXが1996年、20歳で初めて刊行した写真集『girls blue』や、やや硬めのところでは美術評論家の椹木野衣が90年代当時の最先端アートを論じた『シミュレーショニズム』などもあげられています。

このうち『シミュレーショニズム』の書影(ちくま学芸文庫版)を見ると、鵜川本人の私物なのか、カバーがテープで補強されていたり、ボロボロに使いこまれているのがちょっと感動的ですらあります。ちなみにぼく(36歳)はこの本を高校時代、単行本(文庫版ではなく)が出たばかりのときに買いました。そう考えると、何だか自分がずいぶんおっさんになったような気がしますねえ。いや、実際おっさんだけど。

もちろん、この本でとりあげられている90年代が、あの時代のすべてではないし、誌面で紹介されているようなシャレオツなものばかりでなく、90年代にはもっとダサくてしょーもないものもいっぱいあったわけですが。でも、こんなふうにある種のコンセプトにもとづき、時代をパッケージ化できるディケイドというのも、90年代が最後ではなかったかという気もします。

まあ、昔はよかったとヘンに神話化するのではなく、この本に見られるように若い世代が90年代のもろもろの作品や現象を自分なりに解釈し血肉化することで、新しいものをつくっていってくれるのであれば、あの時代をリアルタイムで生きたぼくたちも浮かばれるというものです。……って、まだ死んでないけどっ!(近藤正高)