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妊娠と不妊についての正しい知識をご紹介したVOL.1。妊娠についての基礎知識はしっかり身に付けていただけただろうか。その次に、ぜひ知っておきたいのが排卵障害についてだ。これは年齢に関わりなく妊娠を大きく妨げてしまう障害で、実に不妊原因の4割にものぼるともいわれている。そこでVOL.2では、2010年の開院以来、患者一人一人のライフスタイルに合わせた、オーダーメイドの不妊治療で実績をあげているレディースクリニック北浜の奥裕嗣院長に、排卵障害とその最新治療法について教えていただいた。

生理が来ていると思っても油断は禁物!?
早めの検査で不妊原因の早期発見を。


排卵障害。それは、1か月に1度行われるはずの排卵が正しく行われない状態のことをいう。排卵のメカニズムは、脳にある視床下部からGnRHというホルモンが分泌されて下垂体を刺激すると、下垂体から卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンという2種の卵巣刺激ホルモンが分泌され、これにより卵巣内の卵子が成熟し、排出されるというもの。このメカニズムがスムーズに機能しないと排卵障害が起き、不妊の原因となってしまう。「不妊の原因は、男性因子と女性因子がだいたい半分半分です」と奥院長。「女性因子の主なものには、卵管障害と排卵障害があり、なかでも多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と呼ばれる排卵障害は、日本人の約5%から6%の割合に見られる疾患です」。これは、卵巣の表面が厚く硬くなり排卵できなくなったり、卵巣に多数の卵胞ができ成熟しにくくなり排卵しなくなったりするもの。卵が排出されなければ、卵が精子と出会う場所、卵管に到達することができず、当然ながら妊娠は望めない。PCOSに限らず、若い頃の過度なダイエットによって排卵障害が起きている場合もある。排卵障害は放っておくと、卵巣機能がどんどん低下していき、治療が難しくなっていくという。さらに、「月経がこないことで子宮が萎縮したり、子宮内膜が過度に増殖してしまう子宮内膜増殖症になったり、将来的には子宮体ガンのリスクが高くなったりします。今は子供を希望していなくても、後にそうなったときに障害になる可能性があるのです」と奥院長は話す。PCOSをはじめ、排卵障害の代表的な症状は、生理がない、月経周期が長いなどだ。生理不順など気になることがあれば、早めに治療することが大切なのだ。ところが、生理が来ていると思っても油断は禁物。無排卵月経の可能性もあり、この場合は自覚症状がないこともあるという。特に自分で異常を感じなくても、1年経っても妊娠しないというのであれば年齢に関係なく、専門施設で検査を受けてみることが大切なのだ。

もし”排卵障害”だと分かった場合は、どんな治療法があるの?

では、検査をした結果、排卵障害だと診断されたらどのような治療が必要なのだろうか。「排卵誘発の治療としては、大きく分けて内服薬と注射製剤を使うふたつの方法があります。まず内服薬からはじめますが、クロミフェンは長期間使用すると、受精卵の着床に必要な子宮内膜を薄くしたり、精子が子宮頸管を通過するときに必要な頸管粘液を薄くしたりする副作用がありますので、原則として1年以上服用してはいけません」と奥院長。内服薬は比較的軽度の排卵障害に用いられるが、副作用なども考えて、一定期間続けて効果がなければ直接卵巣に働きかけて排卵を促す注射製剤に移行するという。「排卵誘発の注射は、PCOSの方にたくさん使うと卵巣に多数の卵胞ができてしまい卵巣腫大、腹水貯留などを引き起こす卵巣過剰刺激症候群になってしまうので、製剤を少量からはじめて、反応を見ながら少しずつ量や回数を増やしていく低用量持続漸増投与法を用いていくことになります。排卵障害の治療であれば、この方法で単一卵胞の発育を目指します。不妊治療として体外受精を行う場合は、同じ注射製剤で排卵誘発をして、複数の卵を作って外に取り出すことになります。体外受精では、卵がたくさんできても、一度それを外に取り出し、受精し細胞分裂した卵(胚)を基本1個しか子宮内に胚移植しないので、卵巣過剰刺激症候群や多胎のコントロールが可能です。ただし、タイミング療法や人工授精(人為的に精液を女性の生殖器に注入する治療)を行っている排卵障害の方に排卵誘発の注射製剤を使い、沢山卵ができてしまったときは卵巣刺激症候群や、多胎のリスクが高くなる場合があるので注意が必要です」とはいえ、不妊治療の専門医によって、個々の患者が抱える症状、体質、年齢などに応じて正しく用いられれば、注射製剤には内服薬とは比べ物にならない排卵誘発の治療効果が望めるという。現在、病院で扱われている排卵誘発の注射製剤は2種類。尿由来製剤と、遺伝子組み換え製剤だ。

写真 レディースクリニック北浜:2010年に、オーダーメイド医療、徹底したインフォームドコンセントを方針として開設されたレディースクリニック北浜。最先端の医療に、実家に伝わるオリジナルの漢方薬を組み合わせるなど、豊富な知識と経験によるハイレベルな治療に定評がある。定期的に体外受精をはじめとする生殖医療に関する説明会を開催し、不妊治療に関する不安を取り除いていこうとする奥院長の真摯で温かい姿勢も評判。

痛みや通院ストレスを軽減する、ペン型自己注射という選択肢

「尿製剤は閉経した女性の尿からつくられています。そのため、安価ではあるのですが、製剤によって成分量にばらつきがあり、効果にもばらつきがある可能性があります。原料を提供する国の事情によって安定供給が難しくなることもあります。さらに、不純物を含んでいる可能性があり、これまでに報告がないとはいっても、未知のウィルスへの感染リスクはゼロとは言い切れません。そして不純物が原因のひとつとなり、発疹や注射の際に痛みもあるのです」
その点、遺伝子組み換え技術を使って合成された遺伝子組み換え製剤は、不純物が一切入ることがないので痛みがほとんどない。未知のウィルスへの感染リスクも防げるので安全性が高く、安定供給も可能だ。「遺伝子組み換えと言うと、大豆など食品のイメージから抵抗があると言う方もいますが、薬の場合は、食品とメカニズムが違い、むしろこちらの方が安全です。患者さんにはそんなご説明もしています。アメリカではすでに主流で、これからは遺伝子組み換え製剤の時代だと思います。でも、日本ではまだまだ尿製剤が使われているんです」
日本で尿由来の排卵誘発剤が使われ続けているのにはコストにも理由があるのだが、実は、遺伝子組み換え製剤には、コストには変えられないメリットがあると感じる人も多い。排卵誘発剤をある一定期間毎日注射する必要がでてきた時に、大きな助けになるのが遺伝子組み換え製剤による最新の治療法なのだ。それが「“自己注射”という選択肢です」と奥院長。自己注射は、ペン型のプレフィルドタイプの製剤を使い、自分で好きな時間に好きな場所で注射を打つことができる。オフィス街に位置し、働く女性たちが多く通院してくるというレディースクリニック北浜では、痛みや通院のストレスを軽減できるこの自己注射を積極的に取り入れているという。

「患者さんの8割以上がお仕事を持っています。ですから通院回数をできるだけ少なくし、患者さんの負担を減らしましょうというスタンスでやっています。当クリニックはテーラーメイドの治療を方針にしているので、排卵誘発の方法も患者さんの負担のないようにと考えているんです。例えば、低用量持続漸増投与法を用いる治療では、最低でも2週間から4週間毎日注射を打ち続けることになります。でも、お仕事を持っている方などは、注射を受けるのに毎日通院するのは不可能に近い。ですから、これまでは治療を受けられる方が限られていました。今では、自己注射を指導することによって低用量持続漸増投与法が必要な方も通院回数が減らせるので、患者さんに積極的に進めることができるようになりました。明らかに、この治療を受けていただけるケースは増えましたね。医師としても治療の幅が広がりました。当クリニックでは現在、低用量持続漸増投与法で治療されている方も、体外受精で排卵誘発が必要な方も、100%自己注射でやっています」

海外ではスタンダードな自己注射の実際

奥院長によれば、海外では自己注射がスタンダードなのだという。「私は1998年から2001年までアメリカで体外受精を勉強しましたが、当時からアメリカでは注射を自分で打つのは当たり前でした。医師が処方して、患者さんがドラッグストアで薬を買って自分で注射するというスタイル。注射のためだけに通院することありません。通院回数は少ない方がいいですからね。病院での待ち時間も、長ければそれだけストレスになります。ご自分で打っていただければ、通院回数は3分の1〜4分の1ですみますからね」
気になる自己注射だが、誰にでも簡単に扱うことができるのだろうか。「遺伝子組み換え製剤のペン型プレフィルドタイプなら、針がとても細いので(世界最細で最短の4mm)、先端恐怖症の方でも普通に打てるとおっしゃるほど。持ち歩きもできます。自己注射を希望して、当クリニックにいらっしゃる患者さんもいますよ。卵の誘発については、看護師さんが打っても、ご自身で打っていただいても変わりません」実際に、患者からの自己注射への反応はとても良いという。「事前に看護師から30分ぐらいかけて自己注射の指導をしますが、使ってみたら簡単で、問題なくできるという声が多いです。当クリニックでは、途中でリタイヤした方も一人もいません。他の病院で通院しながら注射を受けていた方が、当クリニックで自己注射を始めて、“治療のストレスが減って本当に楽です”と喜んでいらっしゃいます。最初から自己注射にしておけばよかったという声も圧倒的に多いですね」

メリット・デメリットを知って、自分で治療法を選択できる不妊治療のいま

奥院長は以前、自己注射を経験した患者さんたちにアンケートをとったことがあるという。「次の機会はどうされますかとたずねたら、自己注射を選択すると答えた方が100%でした。自己注射によって、病院に毎日通わなくてすむのが一番大きなメリットだとおっしゃいますね。仕事を休まなくてもいいし、通院にかかる時間を自分の時間にあてることもできる。これなら、仕事を持ちながら治療を続けていただけます。治療費のことを考えれば仕事を続ける方がいいでしょうし、仕事があるから治療のストレスが軽減できるというメリットもあります。また、自分で注射を打つことで、治療への意識が高まる。そういう意味でもいいのではないかと思います」自己注射に用いられるペン型の製剤は、通院で注射を受けるのに比べ3倍ほどのコストがかかるので、値段が高いという声もあるというが、安全性、痛みの軽減、時間の節約、通院にかかる交通費などトータルで考えてみれば、精神的かつ経済的な負担は軽減されると言えるだろう。

このように、今では不妊治療にもいろいろな選択肢が存在している。2009年から日本に導入されたペン型の自己注射は明らかに、不妊治療の可能性を広げているのだ。だが、こういった選択肢について知らないがために、治療に踏み出せない女性がいるとしたら、それはとても残念なことだ。そうならないためにも、自分にはどのような可能性があるのかという最低限の知識は身に着けておきたい。
「私は今や自己注射の時代だと思っています。日本ではその歴史が浅いですが、今、ペン型を患者さんにおすすめしている印象では、抵抗は全くありませんね。正しく指導すれば、誰にでも全く問題なく打てます。ペン型の自己注射で“私にはできません”とおっしゃった患者さんは、勤務医時代にも一人もいらっしゃいませんでした。ですから、私は独立したら、自分のクリニックでは100%自己注射でいきたいと思っていました。通院するのが大変だからと治療に踏み出せない人もいる。医師は患者さんのためにベストを考え、患者さんのためにならない負担は減らすべきだと思っています。患者さんのことを考えれば、ペン型の自己注射は最良の選択だと思いますね」

(text:June Makiguchi、photo shiori kawamoto)

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