図3:感情の発生メカニズム

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人は、人から評価されて初めて有能な人材となる。そのために重要なのが、気配りに代表される対人能力。この力は訓練によって身につけることができる。ぜひ、自分の「気配り力」を診断し、「練習問題」で対人能力を高めてほしい。

[気配り力診断テストはこちら] http://president.jp/articles/-/8196

■影響を見通す訓練が中心課題となる

「気配り力」を高めるには、どうすればいいのだろうか。

「気配り力」の強化は、理論的には、その構成要素である5つの思考力の強化によって実現されることになる。注意して物事を見ること。それがどんな影響を及ぼすか、先を見とおす訓練をすること。利他的な目標を設定してみること。問題解決アイデアをいろいろ考えてみること。言い訳せず動くよう、自分を説得すること。そうした思考経験を地道に重ねていけば、基本的には高められるはずである。

ただ、こういうふうに列挙されても、簡単に実行できるわけがない。実践的な強化を考えれば、優先順位をつけることが必要なのは当然である。そこでここでは、「気配り力」を高めるための中心的な課題(全体への波及効果の大きい課題)は何か、示しておくことにしたい。

「気配り力」を高めるうえで、中心的な強化課題となるのは、「影響判断(推測と予測)」の部分である。

その理由の第1は、それが「気配りプロセス」の上流工程にあるからだ。ここで気づきがないと、当然ながらその先で何かが生まれてくることはありえない。

理由の第2は、思考としての難度が高く、個人差が大きいからである。寒いとか暑いといったレベルならまだいい。しかし「こういう行動をしたら、人はどう感じるか」といった主観性の高い問題になると、人による差は非常に大きくなる。つまり「気配り力」の高低に大きな影響を与える可能性が高いということである。

そして第3の理由は、それが「自分自身が他人の不快の原因にならない」という、もっとも重要で、もっとも難しいテーマに直結しているからである。もし原因が自分以外であれば、仮に「気配り」ができなくても、関係が致命的に悪化することはない。しかし、もし自分が原因となっていることに気づかず、不快を振りまき続ければ、関係はたちどころに悪化することになる。そのリスクに直結するものだけに、その強化はきわめて大きな意味を持っているのである。

「影響判断」が非常にクリティカルな要素であることを述べてきたが、その能力強化はどうしたらよいだろうか。話を混乱させないために、物理的な「影響判断」に関しては、とりあえずここでは脇に置いておくことにしよう。「寒いと体が冷える」とか、「重い物を持つと腰が痛くなる」とか、そういった類いである。

ここで取り上げるのは、前段でも少し触れたが、主観性が高く、個人の特性や帰属する集団の特性によって、まったく反応(発生する快・不快の感情)が変わる可能性のある事象に関する「影響判断」である。よく「誰それの言葉にカチンときた」などという話を聞くが、その手の事象である。

こうした事象における影響判断力を高めるには、そもそも人間の感情というものがどのように発生するかを知っておく必要がある。図3はそれを簡単に示したものだが、これに基づいて説明してみたい。

この図の眼目は「感情とは思考の産物である」という点にある。その人物が、どのようなスキーマ(その人物があらかじめ持っているものの見方や考え方)に基づき、その事象をどのように解釈したかで、発生する感情は決まってくるということである。

たとえば「店員は客に対して礼儀正しくあるべき」というスキーマを持つ人にとって、店に入ったとき、店員が挨拶をしなければ、それは不快感(怒り)を生み出すものとなる。その行動を、自分に対する「悪意」として、その人物が解釈するからである。

あるいは「店は快適であるべき」というスキーマを持っている人ならば、店内が雑然としていることや、清掃が行き届いていないことも、かなりの不快感を生むものとなる。その事象を、その店のホスピタリティの低さ(最終的には自分に対する敬意の低さ)と解釈するからである。

一方、こうしたスキーマを持たない人においては、これらの事象は、特段の感情を生み出すものとはならない。気に入った商品があるかどうかとか、値段が高いか安いかとか、そちらのほうが圧倒的に問題だったりするのである。

■相手の感情を推測・予測する

さて、感情の発生メカニズムが理解できたところで、話を「影響判断」に戻そう。前段の感情モデルに従えば、「影響判断」とは、相手の心の中で起きている一連の流れ(事象→スキーマ→解釈→感情)を、自分の頭の中で再現し、相手の感情(快・不快)を推測・予測するということである。

たとえば、あなたの上司が「職場は静かに執務する空間でなければならない」というスキーマを持っている場合、もし誰かが大声で雑談を始めたら、その影響(上司の心に生じる快・不快)を、あなたは以下のように推測するはずである。

【事象】大声で雑談している
【スキーマ】職場は静かであるべきだ
【解釈】自分の考えに反した行為だ
【感情】不愉快である

と、たぶんそんな流れであろう。一瞬のことで、ほとんど自覚さえないが、こうした一連の「相手の思考のシミュレーション」によって、私たちは、ある事象が、対象となる人物の感情にどのような影響を与えているかを、推測・予測しているのである。よく「相手の立場になって考える」というが、まさにそれを行っているわけである。

こうした推測・予測は、負の感情(不快)が懸念される場合だけでなく、正の感情(快)を創出しようとする場合にも行われる。たとえば、地道に頑張ってくれている部下に対して、上司が「いつもありがとう」とねぎらいの言葉をかけるとき、上司の頭の中では、部下の心の中で起きるはずの、以下のような「思考の流れ」がシミュレーションされているはずである

【事象】ねぎらいの言葉
【スキーマ】人から認められたい
【解釈】自分の努力が認められた
【感情】快い(嬉しい)

「人から認められたい」という願望も、またスキーマである。その誰もが持つ承認欲求を前提に置くことで、相手に「快」をもたらす行為を選択しているのである。

さて、ここまでは推測・予測が成功している事例を見てきたが、いつもうまくいくとは限らない。というより、至るところ失敗(というより「推測不全が生む不具合」というべきか)だらけというのが現実ではないかと思う。

家庭においてもそうだ。よくある光景でいえば、奥さんがご主人に対して「ゴミを出してきて」と言うとき、渋々ゴミ出しにいくご主人の内面に、以下のような思考の流れが発生していることを、ほとんどの奥さんはきちんと認識していない。

【事象】妻が「ゴミを出して」と言う
【スキーマ】夫の役割は外で稼ぐこと
【解釈】役割外の行為を要請された
【感情】不愉快である

ここにおいて推測不全が生まれているのは、奥さんにとって、夫のスキーマが理解できない(あるいはしたくない)ものだからであろう。確かに、今時どうかという気がしなくもない。しかし、その正当性はともかく、それに対する理解のなさが、推測不全を生んでいることは間違いないだろう。

一連の例からわかるように、相手の感情の正確な推測・予測には、スキーマの正確な理解が強く関係している。正確な理解があれば正しく推測できるし、理解困難なものに出合えば不全化する。最終的には「気配り」そのものの実行にも大きな影響を及ぼす、決定的な重要性をスキーマは持っているのである。

しかし、他人のスキーマの理解は、非常に難しい。私たちは、それぞれ固有の人生を生きてきており、多様な生活環境、多様な人生経験の中でスキーマを形成していく。つまり、人が1人いれば、1つのスキーマ体系が存在しているのであり、相互に正しく理解し合うことが難しいというのは、ごく当然のことなのである。

しかし「だから無理」と開き直って済む話でもない。以下、その強化に向けて何が可能か、少し考えてみよう。

■社会的関係への感度を高めよ

個人的な趣味で、いろいろな人の「カチン体験(腹が立った経験)」というものを収集しているのだが、店舗などのスタッフの対応に関するものが、やはり圧倒的に多い。

【例1】タクシーの運転手がタメ口で「どこまで?」「そうなの?」などと言う。

【例2】レストランに昼に電話をしたら「今、忙しいので3時以降にかけ直してほしい」と電話を切られた。

【例3】有名なうなぎ屋で、「こちらはどこのうなぎを使っているのですか」と聞いたら、「言ったところで違いがわかるんですか?」と言われた。

きりがないのでやめるが、それ以外では上司や若手社員など、「職場の困った人々」に関するものもかなり多く、その両者によって占められる比率は相当高いと言ってよい。

ところで、なぜ「店」や「職場」においてカチンは頻出することになるのだろうか。

もちろん、人と人が接する機会が、そもそもその程度しかないという事情はある。しかしそれだけではない。そこには一定の「社会的関係」があり、それゆえに相手に対する「前もっての期待(これもスキーマである)」が生まれやすく、それがかえって多くの不快を招くという事態を生んでいるように思われるのである。

私たちは、店に入ると瞬間的に「客」という存在へと自意識を移行させる。と同時に、そこにいる人を「店員」とか「スタッフ」として認識する。つまり「金を払う側−払ってもらう側」という社会的関係を、瞬間的に、意識の中で成立させることになる。

この「社会的関係」の意識は、私たちに、多様な「前もっての期待」を抱かせる源となる。この国の常識では「お客様は神様」のはずであり、そこから必然的に導かれる一連の行動、つまり「敬語で話す」「笑顔で接客する」「丁寧な対応をする」などを、自然と相手に期待することになる。それだけに、そうでなかったときの落胆も大きく、「不快」が発生してしまうのだ。

こうしたメカニズムは、上司と部下との関係でも同じである。上司と部下という関係が成立した瞬間に、上司は部下に多くの「前もっての期待」を抱く。そのため行動に不満を抱いてしまいやすいのである。

こうやって見てくると、「カチン」を生み出すこと、すなわち「気配り」がないことは、どうやら「社会的関係」の意識と深くつながっていることがわかってくる。「社会的関係」への感度が低いと、当然ながら「前もっての期待(スキーマ)」がわからないので、相手が望むような行動ができないのだ。

このことは、逆に言えば、スキーマの理解力を高め、気配り力を高めるには、「社会的関係」への感度を高めることが非常に重要であることを意味する。感度が高ければ、相手のスキーマ(前もっての期待)も理解できる。そして、それが見えてくれば、相手の感情の推測・予測も、何をなすべきか(施策)の判断も、おのずとできるはずなのである。

先に述べたように、カチンの発生現場は、かなり限定的である。つまり、「店(サービス施設などを含む)」や「職場」に存在する「社会的関係」と、それに連鎖するスキーマをきちんと理解すれば、十分に「気配り上手」になれる可能性があるということだ。個人のスキーマは多様だが、「客」「上司」といった立場における人のスキーマは、さほど多様ではない。そこに集中すれば、かなりの上達効果が期待できるはずなのである。

こうした考えから、主に「店」「職場」に材をとった、簡単な「気配り力」を高めるための練習問題を示した。ぜひトライしてみていただきたい。

■気配り力を高める練習

■練習1:スキーマを考える練習

【Q1】下に示すような言動に対しては、不愉快な印象を感じる人が多いようです。その背景にはどのような考え方があると思われますか。

(1)聞いてもいないのに自慢話をする

→(考え方:                        )

(2)新入社員が始業時間ギリギリに出社してくる

→(考え方:                        )

(3)電車の中で若い女性が化粧をする

→(考え方:                        )

【Q2】下記は上司と部下(若手社員)との会話です。この会話で上司が不愉快さを感じるとすれば、その背景にはどのような考え方があると思われますか。「上司と部下の関係」という視点で考えてみてください。

(1)上司:A社への提案の件、どうなったかな?
部下:昨日、ほかの件と一緒にメールに書いておいたのですが、ご覧になってないのですか?

→(考え方:                        )

(2)上司:この仕事を来週末までにやっておいてほしいんだけど……
部下:今とても忙しいので、ほかの人に頼んでください。

→(考え方:                        )

■練習2:「不適切な行動」を考える練習

【Q1】Aさんは、時間を大切にしています。Aさんを顧客とする営業マンが、Aさんを不快にする行動としては、どんなことが想定されますか。できるだけ多く列挙してください。

→(                            )

【Q2】高級レストランに来るお客さんは、「 高いお金を払う以上、気持ちよく食事ができて当然」と思っています。これを前提とした場合、レストランのスタッフがお客さんを不快にする行動としては、どんなことが想定されますか。できるだけ多く列挙してください。

→(                            )

■練習3:「望ましい行動」を考える練習

【Q1】一般に男性は、自分が苦労して働いていることを、誰かにわかってもらいたいと思っています。この希望を踏まえたとき、どのような対応をすることで、相手の男性を気分よくさせることができるでしょうか。奥さんや恋人になったつもりで考えてみてください。

→(                            )

【Q2】あなたが旅先で泊まる旅館は、どのような考え方を持った旅館であってほしいですか。また、その考え方を前提としたとき、どのような施設・サービス・接客態度などが具体的に思い浮かびますか。自由に発想して列挙してください。

→(考え方:                        )

→(具体的内容:                      )

■練習問題の参考解

■練習1:スキーマを考える練習

【Q1】

(1)いたずらに自分を誇示するのは浅ましい行為である
(2)新入社員はできるだけ早く出社し、仕事の準備をしておくべきだ
(3)若い女性は恥じらいの気持ちを持つべきだ

【Q2】

(1)部下は上司に責任を押しつけるような表現をすべきでない
(2)部下は上司に「全力で仕事をする姿勢」を見せるべきだ
※(1)(2)とも根源には「部下は上司を敬うべきだ」という考え方がある

■練習2:「不適切な行動」を考える練習

【Q1】

アポイントの時間に遅れる、ダラダラと説明をする、目新しい情報がないのに訪問する、メールが無用に長い。

【Q2】

挨拶がない、席への案内が遅い、客に注意を払わない(何か頼もうと思ってもいない)、冷暖房の調整をしない。

■練習3:「望ましい行動」を考える練習

【Q1】

仕事のグチを聞いてあげる、「大変だね」と言ってあげる、疲労回復によい食事を用意する

【Q2】

(考え方)家のようにくつろげる。

(具体的内容)自分の好みに合った食事や飲み物が出る、浴衣や枕が家と同じ素材、好きな本やDVDがある。

■まず必要なのは、「不快をつくらない」

「気配り」がテーマにしては、不快(−)をつくらない、しかも自分が不快の原因にならないという、「予防型」の話が多くなってしまった気がする。反対に「創出型」に属する話は、必ずしも十分でなく、「早く気配り達人になりたい」と先を急ぐ方には、ちょっと不満が残るかもしれない。

あらためて補足的するが、「創出型」に関しても、スキーマを踏まえることは非常に大事である。「前もっての期待」がわかっているからこそ、その期待を超える、質の高い対応を考えることも可能になる。もちろん「予防型」などに比べて、より多くの想像力と創造力が必要であることは、あらためて言うまでもないだろう。

だが、世の中がまず必要としているのは、確実に「不快をつくらない」のほうである。自分もそれなりの年長者であるが、その実感としても、世間にまず期待するのは、「もう少しちゃんとしてくれ」であって、並外れたサービスや過剰な心づかいなどではない。店員の態度が悪いのに、やたらと演出に凝っている店がよくあるが、残るのは悪印象ばかり。順番を間違っているとしか言いようがないのである。

もし「気配り」によって誰かから認められ、特別な関係となることを望むならば、順番に気をつけたほうがよい。

最初にやるべきは、繰り返すようだが、まず自分自身が不快を生み出す存在にならないようにすることだ。その土台が壊れた状態では、その先で何をやろうとまったくの無意味である。

それができたら、次は「原因が自分以外にある不快」が生じないように努めることが求められる。自分起因の問題と合わせ、「予防型の気配り」がきちんとできるようになることである。

と同時に、相手が何かに悩んでいないか、センサーを働かせてみよう。「対処型の気配り」が可能になるかもしれない。それができれば、相手からの信頼は大幅に跳ね上がるはずである。

そして最後に「創出型の気配り」を目ざすとよい。身の回りの達人に学んでもいいし、超一流ホテルのサービスに学んでもいい。創意工夫を楽しみつつ、自分なりにさまざまな実践をしてみればいいのである。

「予防型」は確かに地味で、なかなか相手から気づいてもらえないかもしれない。しかし、それを嫌がっては未来がないことも確かである。頑張っている人は、必ずどこかで誰かが見てくれている。そうした信念を持ち続けることが、もしかすると「気配り達人」への最大の条件なのかもしれない。

(アール・アンド・イー合同会社代表 奈良雅弘=文)