図1:気配りの3つの型 /図2:気配りの思考ステップ

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人は、人から評価されて初めて有能な人材となる。そのために重要なのが、気配りに代表される対人能力。この力は訓練によって身につけることができる。ぜひ、自分の「気配り力」を診断し、「練習問題」で対人能力を高めてほしい。

「気配りで成功した人」といえば、何といっても木下藤吉郎、後の豊臣秀吉である。信長の草履取りの時代、着物の懐で主君の草履を温めたことが立身出世の契機になったという逸話ゆえだ。

逸話の真偽は定かではないが、これだけ広く流布したのは、そこに処世の貴重な教訓が含まれていたためである。簡単に言えば、人が成功するには人に引き立てられる(=特別な関係になる)のがもっとも手っ取り早く、そのためには徹底した「気配り」が大事であるということだ。

もちろん戦国の世も現在も、本来の仕事において有能であることは当然重要である(つまり単なる「世渡り上手」ではダメということ)。しかし「気配り」に代表される対人能力は、やはり非常に重要である。他人に存在を認められ、適切な評価をされる関係が構築されて、人の有能性は初めて意味を持つ。そうした「特別な関係」をつくり出す、あるいは持続していくために、対人能力は不可欠なのである。

しかし「気配り」は、ただ栄達のために重要なのではない。家庭においても、友人・知人、近隣との関係においても、大いにその有効性は期待される。人間関係の不調は多大なエネルギーの浪費を人に強いるが、その多くは、確実に「気配り不足」に由来している。もし、ほんの少しの「気配り」でエネルギーの浪費を解消できるならば、こんな有意義なことはないはずである。

本稿の目的は、他人との関係づくりに重大な影響を及ぼす「気配り」について、そのメカニズムを明らかにするとともに、強化方法を読者に提供することにある。人とのつながりなくして、誰も生きてはいけない。人生の成功と安寧のために、ぜひその能力を高めていただきたいと考えている。

■「気配り」の本質を具体例から探る

そもそも「気配り」とはどんなことを指しているだろうか。

まずは「気配り」の具体的な事例をいくつか挙げ、その共通性や差異性の検討を通じて、その本質を掘り下げていくことにしよう。

【例1】Aさんの同僚は上司に叱られ、ひどく落ちこんでいる。見兼ねたAさんはさりげなく飲みに誘い、励ました。

【例2】Bさんの同僚は、提案書の作成に集中している。Bさんは、作業を妨げないよう、話しかけないようにしている。

【例3】Cさんは、奥さんの誕生日に、感謝の言葉を記したメッセージカードを添えて、花束を贈った。

ごく少数の例であるが、これらの共通性を探るだけでも本質はかなり見えてくる。

1つ目は、それは他者のための行為であり、その人物の快適さの向上を目的として実行されるということである。つまり「利他的」ということだ。

2つ目は、本人の「気づき」と「自発性」によってなされているということである。例に出てくる人は皆、誰かに指示されたわけではなく、自分でやるべきことに気づき、自分の意志で行動を起こしている。

そして3つ目は「さりげなさ」である。文面では明確でないものもあるが、先の事例の登場人物たちは、自分がやることを他人に吹聴したりせず、さりげなく、慎ましく実行しているはずである(実際、そうでなければ、「気配り」という言葉のニュアンスとはやや異なるものとなってしまう)。

利他性・気づき・自発性・さりげなさ……。こうやって並べてみると、なぜそれが容易に実践できないかが、よくわかってくる。身につけることの容易でない人間の「美徳」と呼ばれるものが、そこでは複合的に要求されているのである。

■3つの型と5つの思考ステップ

ここまでは事例の共通性に注目することで、「気配り」の本質を掘り下げてみた。ここからは、事例の差異に注目することで、その広がり(パターンの多様性)を考えてみることにしよう。

事例の中に見出せる1つ目の差異は、相手の快や不快の感情の「発生時期」の違いである。気配り行動を起こした時点において、例1はすでに不快が発生しているが、例2〜3はまだ発生していない。つまり、行動は未来の快・不快の感情の予期のうえに起こされているのである。

2つ目の差異は、目ざす「快適さの質」である。例1〜2が相手の「不快さ(例2の場合は未発生だが)」を除去・軽減しようとするのに対し、例3は「快の創出」を目的としていることに気づく。

図1は、こうした観点から「気配り」を分類したものである。過去に発生した不快(−)を除去・軽減する「対処型」、将来発生する恐れのある不快(−)を除去・軽減する「予防型」、未来において快(+)を生み出す「創出型」の3つの型があり、(1)(2)(3)はその例であることが、おわかりいただけると思う。

この3つの型は、生活の中で多少なりとも必要なものであり、その意味では、どの型についても能力を持っていることが望ましい。言い換えれば「気配りができる」とは、この3つの型の実行に関わる能力が高いことを意味していることになる。では、その能力とはどのようなものか。

一般に「気配りのできる人」というと、優しいとか気立てがいいとか、性格的な特徴でとらえられることが多い。確かに生来の性格が、その実行に与える影響は無視できないだろう。

ただ、先に示した「対処」「予防」「創出」といった表現で「気配り」を再定義してみると、それが思考活動としての側面を強く持っていることが明確になってくる。大胆に言えば、「気配り力」とは思考力であり、頭がよくないと、絶対にできないのである。

とはいえ、ここでの「頭がよい」は、学校の勉強ができるのとは、別種のものである。正解もなければ、学ぶテキストもない。そんな現実の中での「頭のよさ」なのである。

では、それはどのようなものなのか。それを知るには、「気配り」というものが、一般にどのような思考プロセスを経て実行に移されるか、その流れを見ておく必要がある。図2に基づきながら、説明していこう。

【ステップ1:事象認識】最初に必要なのは、事象を認識することである。考察対象として意識すると言い換えてもいい。図の例で言えば「今日は寒いらしい」ということを認識するところから、すべては始まることになる。

【ステップ2:影響判断】次のステップは、その事象に関して、それが誰にどのような影響(快や不快)をもたらすかを推測ないし予測することである。例で言えば、外から帰ってくる人の体が冷えていること、そしてそれが辛いことであることは、容易に予測されるはずである。

【ステップ3:目標設定】さて、そうした事態が仮に予測できても、それで何かしようと思うかどうかは、その人の思考のあり方にかかっている。動くためには「他人の不快を除去・軽減する」という、利他的な目標設定を頭の中ですることが必要である。例で言えば「外から戻ってくる人たちの、冷えた状態(不快)を解消する」ことを目標として設定することが、ここで実行されねばならない。

【ステップ4:施策案出】この目標設定を受け、私たちの頭はそれを実現するための施策を案出しようと回転を始める。「熱いお茶を出す」とか「暖房を最強にする」とか、あれこれ考える。そして実現可能な施策の中で、有効性が高いと思われる施策を、最終的に実行するものとして選びとることになる。

【ステップ5:実行(の選択)】だが、これでもまだ思考は完了しない。施策を実行に移すかどうかも、実は思考の結果だからである。頭では「そうしたほうがいいな」と思いながらも、面倒くささなどから事をなさないことは、私たちの日常の中には、いくらでもある。そうした方向に向かわせず、自分を実行へと導く思考ができるかどうかが問われるのである。

次ページの診断は、5つの思考ステップに関して、その能力レベルを問うことで、あなたの現時点での「気配り力」を推測しようとするものである。ぜひチェックしていただき、今後への参考としていただきたい。

■「気配り力」を知る診断(簡易版)

この診断は、本文の「気配りの思考ステップ」のモデルに従って、現在のあなたの「気配り力」を診断するものです。(1) 1〜25の質問につき、5段階評価の該当欄の数字に○をつけてください。(2) 問題はA〜Eの5区分に分かれており、各5問ずつあります。区分ごとの合計点を出し、最低得点の区分を特定してください。(3) 5区分を合計し、総合点を出してください。(4) 総合点による評価は「気配り力」診断評価コメント表1を、最低得点区分による評価はコメント表2を参照してください。

■「気配り力」診断 評価コメント表

コメント表1/コメント表1では、総合点から、あなたの「気配り力」のレベルを4 段階で評価しています。低得点であるほど、能力強化の必要性が高いことを意味します。

コメント表2/コメント表2は、最低得点の区分から、あなたがどのような能力の不足によって気配りに失敗するか、パターン化して示したものです。逆にいえば、その能力を重点的に強化することが、気配り力を高めるうえで効果が大きいことを示します。
※15点以下の区分は最低点でない場合も要注意です。

[図版はこちら] http://president.jp/articles/-/8196

[対人能力を高める練習問題はこちら] http://president.jp/articles/-/8197

(アール・アンド・イー合同会社代表 奈良雅弘=文)