大和田秀樹『風評破壊天使ラブキュリ』は、ハチャメチャなアクションを繰り広げつつ、惑わされガチな風評被害に流されないよう警鐘を鳴らす作品。ついつい不安になっちゃう放射線のあれやこれを、わかりやすく解説。放射線に関するデマを撒き散らすやつらを、鉄拳制裁!

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む! なんかこういう感じの二人組と名前をどこかで見たような気がする!
スパッツだし!
見た気が……気が……いやなんでもない。

まあそれはさておき。
2011年から2012年はなんとも真偽不明なことの多い年でした。
とりわけ多かったのは、放射線に関するデマ。
2013年になりましたが、未だにどこまで本当なのかさっぱりわからないデマはふわふわ飛び交っています。
人を不安にさせ、誰か傷つく人を産む、悪意を含んだデマ。
そんなデマをいう人に、素手とか膝とかで!物理的に!鉄・拳・制・裁!
世界の平和をデマから守る少女。その名も風評破壊天使(デマゴーグブレイカー)ラブキュリ!
……やっぱどっかで見た気がするネ。

『風評破壊天使ラブキュリ』は、『ムダヅモ無き改革』で話題を呼んだ大和田秀樹のマンガ。
宇宙圏的な謎の黒髪少女花音と、どこにでもいるヤンキー少女七海が、デマに対する怒りをこめて、風評破壊天使ラブキュリに変身。
登場するのは、放射線に関する、人心を傷つけるデマを振りまく輩達。
そんなデマを、花音はデータと知識で立証、そして七海が拳で制裁を下しまくります。
ヒューかっこいい。
大和田秀樹を知っている人ならなんとなく想像つくと思いますが、出てきてデマを流すのは、どこかで見たような人の顔ばかりです。
まあ、フィクションですので。

基本はギャグアクション。女の子二人がボッコボコにしていくのをゲラゲラ笑って楽しむのがいいんですが、放射線についての話はきっちりしています。
内容を監修しているのは中川恵一。東大医学部附属病院の放射線科准教授です。
また大和田秀樹もかつて東北大学で、放射線のことを学んでいた過去もあります。

やっぱり難しいんですよ、放射線て。
ちゃんと調べればもちろんある程度はわかるんですが、いかんせん目に見えない。なんやかんやで体に悪いっぽい。
となると「ベクレル」とか「シーベルト」とかの難しげな単語と数字がドワーっと目の前に現れて、「だから危ない!」と噂されるだけでもう不安になっちゃいます。
もちろん、注意を喚起するのはとても重要なこと。福島第一原発の事故以来、わからないままでいるより意識を傾けるのは大切なこととなりました。
が! こういう目に見えない不安なものって、煽れば煽るほどどんどん悪い方向にイメージが向かってしまいがちです。
これが風評被害を招いて、心配している人、関東・東北に住む人の心を傷つけてしまうことになりかねないからたちが悪い。

たとえば多くの人が心配に感じている、食料の問題。
お米で、セシウムがうんたらかんたらと問題になった時期、ありましたねえ。自分もいまいちよくわからず、当時は困惑したものです。
そこで「放射線汚染地域の米だ!」という人が現れて騒いだ場合、どうしても心は「やっぱり危ないのかな」と揺れてしまう!
しかし、国の食品基準値の倍、1kgあたり200ベクレルのお米を毎日食べたとしても、実際は精米して食べた場合、一年でうける線量当量は約0.05mSv(ミリシーベルト)。
自然界から受ける一年の線量が2.4mSvです。……あれ? そんなでもない?

また、セシウム137を0.1ミリグラム摂取すると、半数の人が死にます。実に青酸カリの2000倍。これは恐ろしい。
コワイ、セシウムまじコワイ! だから東北の農産物は危険! という声も確かにありました。
もちろんセシウムは絶対摂取してはいけません。しかし0.1ミリグラム摂取するためには実際のところ約300トンの食品を食べないといけません。
いや、そりゃむりだわ。
一瞬で300トン食べたら0.1ミリグラム摂取になるから死ぬってことなんですが、その前にお腹破裂して死ぬね。

数字や単位から惑わされがちな放射線のデマ。
自己顕示欲や商売欲から生まれる放射線のデマ。
出どころ不明だけど不安ゆえにまき散らしてしまうデマ。
それによって不用意に心配を煽られる人もいれば、直接的に被害を受ける農業経営者もいます。
デマに惑わされてしまうと、本質を見失って、自分が今度デマを撒き散らす側になってしまい、膨れ上がってしまう。

このマンガでは、とにかくわかりやすく、具体例をあげながらラブキュリがデマと、デマを吐く人をぶっ潰しまくっていきます。
中川恵一いわく「ちょっと過激な表現もありますが」と書いていますが、割りと過激です。でもまあ、大和田秀樹のマンガなので。
でも、過激なくらいでいいかもしれません。風評被害が広まるよりも、ズバっとわかりやすく見せてくれて、一旦調べたり考えたりする習慣を身に付けたほうがお得。
デマの「拡散」ではなく、「事実」を知ろうとする姿勢が大事だ、とラブキュリは語ります。

この本に書かれている放射線の解説は非常に丁寧。
でも、鵜呑みにするべき、というわけではありません。気になったら、専門的な本を読んで調べたほうがいいでしょう。
情報も常に新しくなっていますから、過去の情報に惑わされないよう注意も必要。
難しいんですけども、ほんのちょっと立ち止まって調べるだけで、デマに惑わされなくなる。ほんのちょっとでいい。
そうすれば、「事実」と希望に少し手が届く。
ラブキュリと一緒に、放射線の風評被害を破壊しにいこう!

それにしても、やっぱり似てますね。いろいろ。

大和田秀樹 『風評破壊天使ラブキュリ』

(たまごまご)