宮古で会った6人の高校生。三陸鉄道宮古駅にて。(撮影協力:三陸鉄道)

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■人と話すのが好きで

取材後にメールのやりとりをしている中で、1人の高校生に本を薦めた。渡邉美樹(ワタミグループ創業者)を描いた高杉良の小説『青年社長』。「今、2つやりたいなと思っていることがあって、喫茶店のオーナー、もしくは居酒屋のオーナー」と話していたからだ。

久保田博典(くぼた・ひろのり)さんは、岩手県立宮古商業高校(流通経済科)2年生。剣道二段。

「もともと、人と話すのがけっこう好きで。で、コーヒーがすごい好きで、興味があって、去年、喫茶店にちょっと入ってみたんです。そこのオーナーの方がすごい気さくで。なんか『あぁ、こうやってお客さんと友だちのような仲でやっていけるような仕事があるんだ』というので、ちょっと感銘を受けまして」

居酒屋のほうは。

「部活と、町のクラブで剣道をやってるんですけれども、町のクラブで剣道やってる方って、けっこうお酒を飲む方が多いんですね。宮古の人なんか、もう特に。そういう先生方に喫茶店のことを言ってみたら『それだったら、居酒屋やってみたらどうだ? ちゃんと生活としてもやっていけるだろうし、いいんじゃないか』みたいなことを提案されて、先生方への恩返しという意味でも、やってみるっていうのはいいかなと思いました」

場所は宮古で?

「居酒屋であれば宮古かなと。喫茶店だったら、岩手の中でやりたいっていうのがあるんで、北上とか花巻とか、人通りの多いところじゃないと厳しいのかなと。人通りが多ければ、いろんな人と話もできますし」

宮古市の人口は約5万8000人。北上市は約9万4000人、花巻市は約10万1000人。しかし人の多さでいえば盛岡市の約29万5000人がいちばん多い。しかも盛岡は、ふかくさ、ママ、クラムボン、六分儀……名店と呼ばれる喫茶店の多い街だ。

「ただ、盛岡だと、なんかあまりにもテンプレすぎるというか。ふつうに考えることをやるっていうのはあんまりあれだから、ちょっと外れたところでやってみたいというのがあるんで。ひねくれてるんです(笑)。昼は喫茶店、夜は居酒屋? それもちょっと考えたんですけれども、あまりにもハードすぎないかなと思いまして」

テンプレとはテンプレート——定型のことだ。さて、久保田さん、喫茶店、居酒屋を始めるにはどんな準備が必要だと考えていますか。この問いに、彼さんは具体的な金額で答えた。

■「見てみたいんですよ、知らないところを」

宮古商業高校2年生の久保田博典さん。喫茶店か居酒屋のオーナーになりたい。さて、そのためにはどんな準備が必要だと考えていますか。

「やっぱり、店舗ってことですんで、金銭的にかなり必要になると思うので、2000万円くらいは要るのかなと思いますけど。大学卒業後になにかしらの仕事に就いて、必要な資金の6〜7割の貯蓄ができたら、残りを借り入れて開業するという形を今は考えていますが、まだまだ検討を重ねたいです」

行きたい大学は具体的なイメージがありますか。

「今、行きたいなぁと思ってるのが一橋です」

ここで同席していた他の高校生のひとりから「一橋って、どこですか?」と声が上がる。久保田さん、一橋大学のことを皆さんに説明してください。

「商業系がけっこう有名なところで、人数は多くないけれども、それだけに濃い内容が学べるみたいなイメージを持っています。存在は知ってたんですけれども、『TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム』でアメリカに行って『大学どうするの?』ってけっこう周りに言われて、大学のことを考えるようになって。親にも相談したんですけど、『やっぱり金銭的に問題があるから、国立がいい』って言われて。担任の先生に相談したら『商業系とかだったら一橋とかじゃないか』って言われて、自分で少し調べて。ただ、今のぼくの成績だと、ちょっと(笑)。今は正直、学校の成績よりは、簿記とか電卓とか、検定のほうに力入れてまして。最近、日商販売士の2級を取得しました。来年は1級を取りたいなと思ってます」

販売士検定は、日本商工会議所が設けた流通業界唯一の公的資格だ。10代受験者の2級合格率は52.3%(2012年)。内容を久保田さんに教えてもらおう。

「経営とか、物を売る人の心得的なものとか、あと法律とか、いろいろ。運送業とか生産者とかがどう繋がってるかみたいなことも勉強します。持っていないとできない仕事があるというわけではなくて、企業によっては、課長から部長になるときの試験としても使われてるらしいです」

一橋に進むとなると、大学時代は岩手県を出ることになります。岩手で店をやろうとしている久保田さんとしては、それは構わないのですか。

「見てみたいんですよ、知らないところを。宮古って、限られた人としか関われないみたいなかんじがあるんです。中学のとき先生に『宮古、東北、田舎に住んでいる人は、1回は必ず東京のほうに住んで、少し空気を吸ってきたほうがいい。ずっと田舎にいたら、腐るぞ』みたいに、けっこう厳しめに言われたんです。担任の先生じゃなかったんですけども、ほんとう、すごいとしか言いようのない先生で。音楽が専門なんですけど、いろんな教科をやってて。生まれが鳥取のほうで、転々としてて、話がものすごく波瀾万丈なんです。話を聞いて、ぼくの知らないすごいことが、宮古だと見れないような景色がいっぱいあるっていうことがわかったんです。だから、一回進学して、会ったことのないタイプの人と接することで——喫茶店とかっていうのは、人と人との関わりだって思ってるんで、そういうところでちゃんと生かせるのかなと思って」

先ほど、喫茶店であれば北上、花巻でやりたいと久保田さんは言いました。大学では岩手を出るけれど、店は県内。仕事で県境を越えることを考えていないのは、なぜですか。

(明日に続く)

(文=オンライン編集部・石井伸介)