あらためまして、皆さん明けましておめでとうございます。本年もどうぞ、拙blogにお付き合いいただき、ご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願いいたします。

さて、今年最初のエントリーはいわゆる“直メジャー”問題。

昨年のドラフト会議で問題になった、花巻東高校の大谷翔平投手のいわゆる“直メジャー”表明と、ファイターズ球団のドラフト1位強行指名でクローズアップされた諸問題。大谷の翻意によるファイターズへの入団で一件落着という感じがしたものの、よくよく考えれば、これは大谷という一人のアマ選手の進路が確定しただけのこと。今年も、来年も、第二の大谷は出かねないのだ。その時どうするか?いや、そもそも“直メジャー”は周囲からとやかく言われることなのか?

日刊スポーツが昨年12月21日から26日まで六日間、“直メジャー”問題に対する特集を組んだ。それを参考にいろいろと考えてみたい。

日刊スポーツの六日間の特集をざっと振り返る。

21日…指導者 経験者が語る10代海外の挑戦リスク
22日…98年大曲工・後松が第1号もスカウト陣手探り状態だった
23日…70年広陵佐伯の時は重要視も今あいまい「紳士協定」
24日…日本側からも“問題火種”ギリギリで「紳士協定」機能
25日…「田沢ルール」では止められない
26日…ルール作りの前に大切な事

初日の21日の書き出しに、こんな一文があった。

“ドラフト1位で日本ハムへの入団を決意した花巻東の大谷翔平投手(18)は、1度は直メジャーを決意していた。08年に社会人チームからレッドソックス入りした田沢純一投手(26)に続き、国内で最上級の評価を受けるアマ選手が流出する危機だった。”

確かに、トップクラスのアマチュア選手が日本プロ球界でなく、ダイレクトに海外のプロ球界を目指すのは人材流出という意味では“危機”であろう。しかしそれを危機と呼ぶなら、NPBのスター選手がFA権を行使して、あるいは所属球団と協議してポスティングシステムでメジャーリーグに移籍してしまう事は流出でもなければ危機でもないのだろうか?そんなはずはない。FA制度の趣旨を考えれば、海外FA権行使による移籍を危機と呼ぶのはいささか過敏かもしれないが、本来は裏技であるポスティングシステムによるメジャー移籍こそ危機であろう。

また同連載は主にこれまでにNPB球団を経由せずにアメリカ大リーグに進もうとした選手の失敗例を分析して“直メジャー”の成功確率の低さを指摘する論調なのだが、「どうせ成功しっこないのだから挑戦するだけ無駄」と言いたいだけなら流出流出と騒ぐ事はない。

環境の違いなどから、高校を出てすぐに海を渡っての大リーグ挑戦は極めて成功確率が低いという分析はわかる。ファイターズが大谷サイドに提示した「大谷翔平君 夢への道しるべ〜日本スポーツにおける若年期海外進出の考察」 の一部が球団公式HPにて閲覧できるが、その中でもデータ化されているし、日刊スポーツ12月21日付け紙面でも日本のプロを経験せず直接、大リーグ球団と契約した日本選手57人の一覧表が掲載されている。ファイターズ球団は大谷を獲得したいのだからこのような資料を提示して翻意させようとするのは当然だが、メディアが“直メジャー”を悪と決めつけてネガティブキャンペーンとも思える論陣を張るのはいかがなものか。57人の中にはそもそも大谷と比較するに値するのかという選手もいるように思える。

敗戦処理。は個人的には次に大谷のように、大リーグの球団が直接獲得を目論むほどで、当然日本のドラフト会議の目玉選手になるような選手が“直メジャー”を希望したらむしろ大リーグに挑戦をして欲しい。いや、正確に言えば大谷に対しても大リーグに挑戦して欲しい思いが半々であった。大谷の場合はファイターズにとってはドラフト1位の交渉権を獲得した貴重な選手。昨年のドラフト1位、東海大学の菅野智之に入団を拒否されている事もあり、二年連続でドラフト1位の獲得を逃したら将来必ずそのツケが来るだろうとのファイターズファン的発想があったからファイターズに入団して欲しいという思いが強かったというのが正直なところだろうか…。だから第二の大谷翔平が出てきたらぜひとも“直メジャー”に挑戦してもらい、何年か後にマイナーリーグでなくメジャーリーグの舞台で、イチローやかつての松井秀喜、野茂英雄並みの存在感を発揮する選手になって欲しいと思う。過酷な条件と戦いながら、苦しみながら三歩進んで二歩下がりを繰り返し、いつしかメジャーに進み、さらにメジャーで天下を取るような選手がいつか出て欲しいのだ。その男こそが“侍ジャパン”の称号を勝ち取るべきであるとも思う。“WBCだろうと、かつてのオリンピックでの野球大会だろうとアメリカはベストメンバーで臨まないからそんな大会で優勝してもそれは世界一とは必ずしもいえない”という論調があるのは知っている。敗戦処理。の主張はそれとは異なるが、WBCで日本代表が優勝する事以上の感動を“直メジャー”で大リーグを席巻するようなプレーヤーの誕生で味わいたいのだ。だから個人的にはメディアには、どうすれば高校卒“直メジャー”で成功するにはどうしたらいいのか…的な特集を組んで欲しいと望むのだ。

ただ一方で、流出を危機とする視点はなくしてはならないとも思う。かつては野茂のあと、伊良部秀輝、佐々木主浩、イチローあたりが海を渡って大リーグに移籍していた頃は日本プロ野球のトッププレーヤーが日本球界を卒業して大リーグの門を叩くという感覚で見ていられたのがいつの間にか、権利を獲得したら誰でも挑戦、それこそ行ったもん勝ちみたいな感覚になってしまっているように、“直メジャー”も数人の成功例が出た暁にはその後、雨後の竹の子のように志願者が続出する事だろう。

そこで対策としてのルールが必要になってくる。敗戦処理。の個人的な考えではいわゆる“田澤ルール”の見直しと、「高等学校野球部員のプロ野球団との関係についての規定」 及び「日本学生野球憲章」 の遵守で対応すべきであろう。“田澤ルール”の見直しに関しては昨年12月11日付エントリー 星野仙一監督が大谷翔平のファイターズ入りに激怒!?−大谷問題と言うよりこれからに向けて考えてみた 、でも触れたが、日本のプロ野球(NPB)を経由せずに直接大リーグ機構の球団に入団した選手はメジャーリーグないしマイナーリーグを退団してからすぐに日本のプロ野球に進めるのではなく、高校からであれば三年間、大学または社会人からであれば二年間は日本のプロ野球に入団できないという規制は選手の能力を時間的に浪費するリスクが高すぎ、ペナルティのためのペナルティとしか思えないので、メジャーリーグないしマイナーリーグを退団してからでなく、“直メジャー”の時期を基準にして高校生なら三年間、大学生または社会人(&日本の独立リーグ)からなら二年間と規制をゆるめる方が妥当だろう。その代わりという訳ではないが、「高等学校野球部員のプロ野球団との関係についての規定」及び「日本学生野球憲章」を強化し、大リーグ関係者との事前交渉不可を徹底すべきであろう。

この2点は一見矛盾している様に受け取る方も多いかもしれないが、そうではない。現状、大リーグ側のスカウトが日本のアマチュア有力選手に注目した場合、その事前接触を阻止できるのは「高等学校野球部員のプロ野球団との関係についての規定」及び「日本学生野球憲章」だ。違反して罰せられるのが選手側のみという弱点もあるが、それは対NPBに関しても同じ事。どうせ大リーグ側の接触を規制する新たなルールを作成しようとしても抵抗されるだけなのであれば、今あるルールの強化をすべきだろう。一方で“田澤ルール”の緩和はそれでもどうしても行くという決意の選手への尊重だ。ただしいかなる場合でも、日本に帰ってくる場合にはドラフト会議を経てのNPBへの入団だ。シーズン途中に解雇された選手への対応にはウエーバー制度を利用した臨時ドラフトのようなものを開催するのも一案だ。

生半可な事では“直メジャー”で成功しない事はわかった。でも、不可能を可能にするようなスーパー高校生を見てみたい。大リーグ数球団が争奪戦を繰り広げるような逸材が現れ、幾多の困難を乗り越えてメジャーリーガーの頂点に立つ。そんな真の“侍ジャパン”が誕生する日が来て欲しいと敗戦処理。は思うのだが…。