執筆者:菅 正至 (すが・まさし)

 経営において2・6・2という法則がある。これは、どこの会社でも優秀社員が2割、並みの能力の社員が6割、ダメ社員が2割というものだ。優秀な資質をもった人材を採用する一流企業でも、資質の高い社員を採用しにくい中小零細企業でも、この比率はほとんどかわらない。

 ある会社が資質の高い人を厳選して採用し社員の精鋭化を図ろうとした。入社当時は一見、社員が精鋭化しかたのように見えたが、5年も経つとやはり2・6・2の法則があてはまったという。これによると、どうも社員の能力は分化するものらしい。なぜこんなことがおこるのであろうか?

 原因は、組織という人間の集団にある。従来の組織構造に基づく組織は、2割の人を有能にし、2割の人を無能にする。いいかえれば、階層構造で人間を統率し、一つの目的を共有する組織においては、2割の人が生かされ、2割の人が殺されるのである。これは自然の摂理であるらしい。摂理とは非常なものである。

 多くの企業は社員の精鋭化を図ってゆこうとしている。ある一定以上の能力が社員になければ業界で生きてゆけないことは、マネジメントの共通した認識である。この2・6・2の法則が当てはまっては非常に具合が悪い。なんとか優秀社員の比率を増やしたいものだ。ここに自然の摂理に対して挑む知恵が必要となってくるのだ。

 一般に社員を精鋭化しようとする企業が考えることは、社員の教育による育成や外部からの優秀社員の獲得である。しかし、こうしたことだけで社員の精鋭化ができれば、人事戦略は楽な仕事であろう。本当に社員の精鋭化を図るには組織構造の変革、権限のあり方の変革、集団の力学の変革といった多くの変革を伴わなければならない。これは従来の組織についてのパラダイムを超えた自然の摂理に対する挑戦である。より多くの社員を活性化させ、有能社員にすることは個々の社員の幸せを作ることであり、良い企業業績をつくることである。こうした意味でマネジメントにおける責務は重い。

 では、具体的にどうしたらいいのかが問題である。一般的にはすべての企業に適用できる法則などない。方策は個別の企業状況によってさまざまである。しかし、まずは組織と人間に関する洞察を深めることが必要である。特にマネジメント層においては、組織や権限構造をデザインする際に、徹底的に頭をしぼる努力をしなければならない。

 個々の社員がいくら自己研鑽を積んで潜在能力を高めて有能社員となっても、組織の中で“生かされ”なければ、無能社員となんら変わりがない。また、自己研鑽というミクロレベルの努力とともにマクロの視点にたって、すべての社員が“生かされる”組織とは何であるかを常に考えることも必要である。

 マネジメントの周知を集めた努力で4・5・1の法則が成り立つ会社にしてゆかねばならない。プラス2割の人間が優秀社員へ変わると、組織は著しく活性化される。多少、現実離れした話のように思えるが、こうした夢のようなことを真剣に考えることも、マネジメントとして意味のあることであろう。

執筆者プロフィール

菅 正至 (すが・まさし)
すが事務所 代表
http://www.suga-office.com
主に国内の中堅企業に対して、人事労務関係のコンサルティングを行っています。特にリストラ関係、人事制度設計、組織変革マネジメントに強みを持ち、多くの企業でプロジェクトを成功に導いています。個人事務所なので日本一敷居の低い経営コンサルタントを目指しております。
人事関係の経営課題がありましたら、お気軽にコンタクトしてください。現在のクライアントとは顧問契約ベースで長期でお付き合いしております。
URL: http://www.suga-office.com
メール: sugamm@jcom.home.ne.jp