SMBC日興証券株式調査部チーフ株式ストラテジスト、阪上亮太氏は2013年の日本株式市場の見通しを「後年、あそこがデフレ脱却の転換点だったと振り返りみるような、大きな転換点」と見通している。(写真:サーチナ撮影)

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 SMBC日興証券株式調査部チーフ株式ストラテジスト、阪上亮太氏は2013年の日本株式市場の見通しを「後年、あそこがデフレ脱却の転換点だったと振り返りみるような、大きな転換点」と見通している。特に、米国の力強い景気回復が引っ張って世界の景気が好転。円安の恩恵を受けて、年前半は日本の輸出関連銘柄が活躍する市場となり、年後半には、いよいよデフレ脱却が見えてきて、金融、不動産などの内需関連銘柄にも物色の矛先が向かうと予想している。

――2013年の日本株の見通しは?

 基本的に、強気の見通しを持っています。4−6月期に日経平均で1万1000円程度の高値を付け、7−9月期に約2000円幅下落し、その後、10−12月期に切り替えして、高値1万1500円くらいを付けるとみます。強気だけれど、一筋縄ではいかない相場と考えています。

 例年とは違って、年末高値を考えていることが2013年の特徴です。2000年以降の日本の株式市場は、年前半に高値をつけるパターンが多く、過去13回のうち10回が該当します。この10回は、いずれも株価の高値が、円安のピークに重なっています。2000年代に入ってからは円高基調が続いており、年の半ばに円安になっても、年後半にかけて円高方向に振れる傾向がありました。アメリカの経済が、年後半には失速してしまうのが大きな要因だったのですが、円高の年は、株価が年前半高になることが多いのです。

 一方で、年後半高は、03年、05年、09年ですが、この共通点は、為替は基本的には横ばいで、円高にはなっていないという点です。2013年は、円高になる可能性は低いと思っているので、株価は年後半に値上がりすると見ています。

――為替が円高にならない理由とは?

 まず、日本の貿易収支の赤字が継続している。対外直接投資も日本企業の資金余剰により増加トレンドが続いている。これらは、為替取引の実需で円安になる要因です。また、アメリカの景気が持ち直し傾向にある。さらに、アメリカの金融政策が、金融緩和を2015年半ばまで固定するのではなく、景気が良ければ、金融緩和をやめる仕組みに変えたということがあります。

 従来は、米FRBは、少なくとも2015年半ばまでは金融緩和を続けると言っていました。このため、短い金利は、ほとんど上がらなかったのです。ところが、FRBが2012年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、失業率が6.5%を下回るまでは金融緩和を継続、ということにしました。失業率が6.5%になりそうな見通しが出てくれば、短い金利の上昇圧力がかかってくるようになります。これによって、米国の景気動向によっては日米金利差の拡大によるドル高の可能性が生まれます。

 さらに加えて、日本の金融政策が変更されそうです。2%のインフレ率を目標にする金融政策ということは、2013年1月の決定会合で出てきそうです。目標を掲げることで、今まで以上に日銀は努力をするでしょう。また、他の主要国は、インフレターゲット2%ですから、日本だけ1%だったということが円高要因でした。どちらも2%であれば、円高修正の力になります。これだけの要因が重なるのですから、来年は、円安になりそうです。したがって、日本株は年末高に行きやすいと思います。

――世界経済の見通しは?

 アメリカ経済が強いと思います。過去4年間のような、一時的にアメリカがいいという状態ではなく、「昔のアメリカに戻る」といえるほど、強いアメリカが戻ってくると思っています。特に、アメリカ住宅市場の構造調整が終わり、「本格回復」に入った可能性がある点に注目しています。

 日本では、1990年にピークをつけた不動産価格/可処分所得比率が、バブル前の水準まで低下するのに13年かかりました。一方、アメリカでは同比率が2006年にピークをつけた後、4年で住宅ブーム以前の水準にまで低下しました。住宅価格の調整が終わって、そこから2年間経過している状況です。住宅着工件数は、ここ4年間は底ばいの状況だったのですが、2012年には明らかに大幅改善しています。新築住宅在庫率は、1990年以降の住宅ブーム期における平均水準近辺まで低下し、中古の在庫率も好転しています。住宅価格が上昇する条件は整いました。

 したがって、2013年のアメリカ経済は、過去4年間あったような、住宅市場が低迷するなかでの景気回復ではなく、住宅市場の大幅な改善の中で、景気が回復するのです。住宅価格が上がれば、アメリカの消費は押し上げられ、住宅の資産効果が利いてきます。そして、住宅市場の復調は、アメリカの「財政の崖」の悪影響を克服するのに十分な、景気の押し上げ効果があると考えます。

 さらに、住宅が良くなると、ドル高を許容しやすくなります。QE1とQE2は、FRBのバランスシートを拡大させるドル安政策であったため、アメリカはガソリン価格の上昇などによって、景気の腰折れを繰り返しました。ところが、QE3では、バランスシートをあまり拡大させない一方、住宅市場を中心に刺激する政策に転換しました。住宅が良くなれば、経済の自律的な回復につながるという認識を具体化したものです。

 このアメリカに引っ張られ、中国経済も、欧州も良くなると思います。ただ、中国と欧州は、いずれも構造問題を抱えているために、経済の回復力は、それほど力強くはないでしょう。来年の経済の主役はアメリカであろうと思っています。

 このように考えると、日本の立ち位置は悪くないと思います。為替は円安に動きますし、新政権は、公共事業を増やして景気刺激策を取る意向です。日本は2012年に定義上、景気後退に入った公算が大きいものの、そこから早期に脱却して、輸出企業中心に利益が上がるだろうとみています。従って、株価も強気に見ていいでしょう。

 少し懸念しているのは、欧州問題です。9月にドイツの総選挙があって、今のところメルケル首相の与党が負ける可能性があると言われています。ユーロのセイフティネットの枠組みの要は、ドイツですから。このドイツで選挙が近づくと、マーケットに不安感が台頭する懸念があります。実際には、9月に選挙が終わると、新しい政権も現実路線を取って、マーケットが安心すると思うのですが、選挙が終わるまでは動揺があるとみます。

 その後は、日本のデフレ脱却がテーマになると思っています。10−12月期に、7−9月の数字が出てくるのですが、日本のインフレ率がプラスになるのではないかと見ています。そうなると、日本のイメージが良くなります。今度こそ、日本の失われた20年が終わったということになって、日本の株価は一段高になると思っています。

 2013年は、後から振り返ってみると、日本がデフレ経済からの転換を遂げた区切りの年になると思っています。

――注目セクターは?

 年前半は輸出セクターに注目しています。自動車、鉄鋼、電子部品です。

 自動車は、アメリカ経済が強いという中では、外せないセクターです。そして、鉄鋼は、国内の自動車生産に対する供給で利益を上げています。中国の景気が持ち直してくると、鋼材価格が値上がりするので、素直に買えるセクターになると思います。

 電子部品は、2つの意味で構造的なネガティブストーリーがあるので、現在の期待値が非常に低くなっています。ひとつは、タブレットPCが出てきたことで、従来のPCに部品供給している日本の電子部品メーカーは儲からないという話。もうひとつは、アップル神話の崩壊です。しかし、実際の電子部品の低迷の原因は、アメリカを中心に企業が設備投資をやっていないことにあると見ています。アメリカの景気が力強く回復すれば、PC需要に復活の可能性があります。また、WindowsXPが2014年にサポート切れになるので、特需が発生する可能性があります。

 また、輸出セクターに注目するもうひとつの理由は、韓国で大統領が変わって、韓国のウォン安路線が転換する可能性が高いのです。ウォン安によって、サムソン、現代自動車などが儲かっているのですが、国民の暮らしは厳しいままです。その結果、韓国国内では大企業優遇批判が出てきています。さらに、アメリカが、ウォンは過度に安すぎると警告するようになっています。このため、韓国ウォンは高くなる方向になるとみます。円安圧力も強まると予想されるため、対ウォンでは特に円安傾向が顕著となりそうです。このような競争環境が変わった時に、恩恵を受けそうなのが、自動車、鉄鋼、電子部品ということもできます。

 そして、年後半は、金融と不動産に注目です。日本がデフレから脱却することになると、日本もアメリカも債券バブルが崩壊する年になると思います。今は、過剰に金利が低いのですが、デフレから脱却する過程で、長期金利が上がりやすくなります。日銀は金融緩和で、短い金利を抑えているので、いわゆる「イールドカーブが立ってくる」という状況になります。そのことの恩恵を、もっとも大きく受けるのは金融。特にメガバンクです。さらに、物価の先高感がでてくると不動産に目が向くようになると思います。(編集担当:徳永浩)