『告白』『悪人』『モテキ』…気鋭の映画プロデューサーの初小説『世界から猫が消えたなら』の原点は『ドラえもん』と『モモ』だった?

――26歳で映画『電車男』を企画・プロデュースして以降、『告白』『悪人』『モテキ』など、数々のヒット作を生み出してきた映画プロデューサーの川村元気さんが、初めての著書『世界から猫が消えたなら』を刊行されました。印象に残るこのタイトルはどのようにつけられたのでしょうか。

タイトルは、読者に想像してもらおうとクエスチョンを投げかけました。「僕」が消えたら一大事ですが、「猫」の場合それぞれの人によって受け取り方が違う。その価値の曖昧さが、この小説の肝になっています。やっぱりタイトルは大事で、僕自身もよく題名に惹かれて本を買うことが多いです。最近買ったのは、山内マリコさんの『ここは退屈迎えに来て』。タイトルが心の叫びのようで、思わず手にとってしまいました。地方の街に住む女の子たちの話なのですが、映画『モテキ』に出てきた女子たちの人生の続きを見ているみたいでおもしろかったです。

――年間300冊もの本を読む読書家の川村さんですが、人生でもっとも影響を受けた本は?

影響を受けた本は無数にありますが、やはり一番は『ドラえもん』でしょうか。短いストーリーの中に人間の欲望や大切なことが描かれていて本当にすごい。難しいことを簡単な言葉で伝えることができる人が知恵のある人だと思うのですが、藤子・F・不二雄さんはまさにそうだと思います。今回小説を書くにあたって「難しいことをシンプルに伝える」藤子イズムはもっともこだわった部分でした。

――海外文学もよく読むという川村さん。『世界から猫が消えたなら』もある作品の影響を受けているとお聞きしました。

ミヒャエル・エンデの『モモ』という児童文学作品です。 "時間貯蓄銀行"からやってきた男たちに「時間が盗まれてしまう」というコンセプトには大きな影響を受けました。当たり前のように存在しているものが、明日なくなるとしたらどうするかという。『モモ』は"時間が盗まれる"とわかったときに初めて時間の大切さに気づきます。僕の小説では余命わずかな郵便配達員が1日の命と引き換えに、世界から電話や映画や時計が消していきます。そして失うことで、はじめてそのものの大切さに気づいていくんです。


――川村さんもそのような経験がありますか?

以前携帯電話をなくしてしまって......ものすごく焦りました。急いで公衆電話へ向かったのですが、同僚の番号はおろか、親の番号すら覚えていない自分に気付いたんです。使い始めて10年ばかりのあの小さい機械の中に自分の記憶を預けていたんだとそのとき気づいて恐くなりました。その後、なにもやることがなくて、帰りの電車で外を見ていたら虹が見えたんです。みんな気付いているのかと思って、電車の中を見てみたら他の乗客はみんなうつむいて携帯電話を見ていた。この虹に気づいているのが僕だけだと思うと、なんだか自分だけが特別な場所に来たような気分になったんです。そのときに「何かを得るためには、何かを失わなくてはならない」というこの小説のコンセプトが生まれました。

――川村さんがプロデュースされる映画は小説が原作になっているものが多いです。『世界から猫が消えたなら』も映画化を期待されているのではないでしょうか。

普段映画を作っている僕ですが、今回小説を書くにあたって"小説でしかできないことをやってみよう"と思ったんです。例えば小説の場合"世界から猫が消えた"と書くだけで、読者がその世界を想像で創ってくれます。でも、それを映像で表現するのはかなり難しい。物語は極めて映画的でありながら、世界観としては映画表現が難しい設定になっているんです。でも小説の魅力って、そういう読者との共犯関係にあると思います。


 そのため必要最低限の情報しか書かなかったと言う川村さん。実際に、本には登場人物の名前も出てきません。細かな描写が書かれていないからこそ、読者は登場人物を自分に置き換えて物語の世界に入り込めるのかもしれません。

 そんな川村さんの処女作ですが、もし映画化の話が持ち上がったら「やっぱり自分で作りたくなるんでしょうね」と告白してくれました。やはり、映画化に期待が膨らみますね。


<プロフィール>
1979年生まれ。映画プロデューサーとして『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』などを製作。2010年に米誌『The Hollywood Reporter』にて「Next Generation Asia2010」に選出され、2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年10月に初の小説『世界から猫が消えたなら』を発表した。



『世界から猫が消えたなら』
 著者:川村 元気
 出版社:マガジンハウス
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