処女マリアの『受胎告知』絵画を徹底比較!

『受胎告知』といえば「あー、キリスト教の……?」ぐらいに知ってる人は多いかと思いますが、今回はその『受胎告知』に関する絵画についてお話したいと思います。

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1.『受胎告知』ってなに?

処女マリアに天使のガブリエルが降り、マリアが聖霊によってイエスを身ごもることを告げ、マリアがそれを受け入れることを告げる出来事です。
旧約聖書では『イザヤ書』、新約聖書では『マタイによる福音書』『ルカによる福音書』に述べられています。
『ルカによる福音書』から引用すると、

六ヶ月目に天使ガブリエルは、ナザレというガラリアの町に神から遣わされた。ダビデ家のヨセフという人の許嫁ののおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名は、マリアといった。天使は彼女のところに来て言った。「おめでとう。恵まれた方。主があなたと共におられる」マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶はなんのことかと考え込んだ。すると天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵をいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名づけなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子といわれる。神である主は、彼に父ダビデの王座を下さる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない」マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。私は男の人を知りませんのに」天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから生まれる子は聖なる者。神の子と呼ばれる。あなたの親類のエリサベトも年をとっているが男の子を身ごもっている。不妊の女といわれていたのにもう6ヶ月になっている。神にできないことは何一つない」マリアは言った。「私は主のはしためです。お言葉どおり、この身になりますように」そこで天使は去っていった。

このように述べられています。
普通に考えると、「セックスしたことないのに子どもができるかよ!キリスト教徒はこんなこと信じてるの?(笑)」となるかもしれませんが、そのあたりの考察は橋爪大三郎・大澤真幸著『ふしぎなキリスト教』を読んでみると理解が捗るかもしれません。

2.『受胎告知』という主題の描かれ方

絵画の中で描かれるのはもちろん聖母マリアと大天使ガブリエル。第三者が描かれることもあります。
右にマリア、左にガブリエルという構図が多いです。
そしてマリアは読書をしている最中であり、ガブリエルは右手をマリアにかざす『祝福のポーズ』をとっている作品が多く見られます。
絵の中には、純血の象徴である白百合や、精霊を表す白い鳩などが描かれます。
マリアの服装は通常赤い服の上に青い衣白いベールというスタイルです。
たくさんの主題があるなかでもこの『受胎告知』が人気なのは、マリアという美しい女性が描けること、天使の来訪という神秘的シーンが描けることなどが原因でしょうね。主観ですが。
さらにこの主題はマリアの部屋の中が描かれることが多いので、それも原因のひとつかもしれません。
『受胎告知』が多く描かれる14〜15世紀は、建物の細部描写へのこだわりや、建物の奥行きを強調する遠近法を駆使する絵画が多く、それを表現するのにこの主題はぴったりだったのではないでしょうか。

3.様々な『受胎告知』

2で基本的な描かれ方を述べましたが、実際の絵画ではところどころに違いがあり、それを見比べるのがとてもおもしろいです。
年代順に有名どころを何点か紹介していきたいと思います。

・シモーネ・マルティーニ《受胎告知》1333年
この作品ではマリアとガブリエルの他に二名ほどいらっしゃいますね。
そしてなんといってもマリアさん、読書中という描き方は一般的なものですが、なんとも嫌そうですね。
背景は金色でなんとも豪華です。

・フィリッポ・リッピ《受胎告知》1433年
フィリッポ・リッピさんはこの作品のほかにも《受胎告知》を描いていますが、今回はサン・ロレンツォ聖堂の方に着目しています。
後ろに天使が二人います。手前のガラス瓶、奥の建物など、遠近法をかなり強調しています。
マリアは驚きとまどっているご様子です。

・フラ・アンジェリコ《受胎告知》1450年
マリアは白い服を着ています。二人のいる建物も白く、すっきりとしていて落ち着いた印象です。
ガブリエルは何も持っていませんね。
マリアもガブリエルも両手をクロスさせています。このポーズは温和に優しく謙虚に話す際に使われるとか。
そしてフラ・アンジェリコさんも、もうひとつ《受胎告知》を描いています。
もうひとつの《受胎告知》は天使の羽は金色、洋服にも金色、室内装飾にも金色が用いられており、この作品より華やかさが際立っています。

・レオナルド・ダ・ヴィンチ《受胎告知》1472年
とても有名な作品なので見たことのある人も多いかと思います。
ガブリエルはしっかりとひざまずき、マリアは正面とを見据え堂々たる風格です。
この作品ではマリアは糸を紡いでいますね。

・サンドロ・ボッティチェリ《受胎告知》1489年
マリアは立ち上がり、両手でガブリエルを制しているようです。
さすがボッティチェリさん、洋服のシワが見事ですね。
そしてマリアの体をくねらせ、全力で拒否するポーズ、ただまっすぐにマリアを立たせないところがなんとも良いです。

・エル・グレコ《受胎告知》1590−1603年頃
なんと日本にあるんですよね、この作品!岡山県の大原美術館です。必見。
珍しくマリアが左、ガブリエルが右側にいます。
ダイナミックで劇的です。

紹介したのはほんのごく一部で、『受胎告知』という主題はそれはもうたくさん描かれています。
時代によって描かれ方も異なり、比較するととてもおもしろいです。

一番最初にあげたシモーネ・マルティーニの《受胎告知》が描かれた時代は、ルネサンス期に入る一歩手前のゴシック期にあたり、まだ遠近法は使われておらず一見してただ平坦な印象を受けるかもしれません。
しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチやボッティチェリの作品のようにリアルに描くことでマリアを女性らしく描くのではなく、豪華絢爛な装飾でどこか人間離れした描き方によって、わたしたちに神の母としての畏怖を与えてくれるように描かれています。

15世紀に入るとルネサンス期に突入するので、人物も表情豊かになり、動きも生き生きとしてきます。
建物にも装飾が凝らされたものが多く、奥行きがありますね。
マリアが畏怖を与える存在というよりもむしろ、温かさをもった存在のように描かれている気がします。

16世紀になるとさらに動きは激しくなり、劇的に描かれていますね。
場所もこれまではマリアの部屋、というかテラスのような場所で描かれていましたが、この時代に入るともっといろんな場所での受胎告知が描かれます。
様々な脚色が加えられることも多く、画家がゴシック期ほど宗教に縛られることなく自由になってきたのかもしれません。

このように多くの作品がありますが、個人的にはフラ・アンジェリコの1450年の作品が一番好きです。
マリアもガブリエルもリアルに描かれているのですが、落ち着いた色合いのせいでしょうか、人間らしいというよりどこか神々しく、見ているとほっとします。
建物もシンプルなように見せかけて柱には凝った装飾がほどこしてあり、画家の力量が垣間見えるところも良いですね。

さて、本物の作品や画集で多くの人にしっかりと作品鑑賞していただきたいのは山々ですが、このご時世、インターネットで『受胎告知 画像』で検索するだけでそれはもうたくさんの作品が出てきますので、ぜひ気軽に比較してみてください。たくさんの興味深いことが出てきますよ。

(文:ゆきな / 写真:Free.Stocker)