文: 編集部


Sculptures from "Helmut Lang: Sculpture", Courtesy the artist and Mark Fletcher


余分な装飾を削ぎ落としたシンプルかつ高級感のあるミニマルなスタイルの洋服を作り、かつて「ミニマリストの旗手」と呼ばれたファッションデザイナーがいる。1978年に自身の名を冠したブランドを立ちあげ、1986年にパリのCentre Pompidou (ポンピドゥー・センター) でコレクションデビュー、そしてその後20年間にわたりファッションシーンを引率したHelmut Lang (ヘルムート・ラング) だ。2005年1月にPRADA (プラダ) の完全子会社となっていた自身と同名のブランドを去り、ファッション界から完全に身を引き、ビジュアルアーティストへと転身をした彼が、現在ニューヨークで初となる個展「Helmut Lang: Sculptures (ヘルムート・ラングの彫刻)」展を5月5日から6月15日まで開催している。彼の友人で高名のアートディーラー、Mark Fletcher (マーク・フレッチャー) とキューレーターのNeville Wakefield (ネヴィル・ウェイクフィールド) が共同でキューレーションを担当し、「破壊と再生」をテーマに、ゴムや泡状の物質、しっくい、洋皮、タールなどといった素材で制作された20以上の挑発的なモノクロ作品からなる展覧会だ。


Sculptures from "Helmut Lang: Sculpture", Courtesy the artist and Mark Fletcher


2/2ページ: Helmut Langのファッション界への復帰は今後あるのだろうか?

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Portrait of Helmut Lang, Courtesy the artist and Mark Fletcher

アート作品の制作はもともとやりたかったことだが、父と義母に反対されていたというHelmut Lang。ファッションデザイナーになったのは意図的ではなく、お金がないためポリエステルなど安い素材を使って自分で洋服を作っていたら、友人から洋服制作の依頼を受けはじめたのがキッカケだという。ファッションの世界で大きな成功をおさめたものの、「ファッションの仕事を一生続けたくないというのは自分でも分かっていた。クリエイティブなことをするのは好きだが、名声と成功にはあまり興味がない。ファッションの世界で成功者になると、みんなにもてはやされ、すべての恩恵を受けることができる。そういう世界とは決別したかった」と『The New York Times (ザ・ニューヨーク・タイムズ)』の取材でLangは語っている。

Helmut Langのファッション界への復帰は今後あるのだろうか?おそらくないだろう。2010年2月、ニューヨークにある彼のスタジオが入っている建物に火事があり、あやうく洋服のアーカイブ過去20年間分が焼却されそうになった事件があった。しかし、このことからアーカイブを自分自身で壊し、アート作品の素材として使うという発想が生まれてしまうのだから。実際、2011年の夏に開催した「Make It Hard」展の作品制作のために、自身がこれまでデザインしてきた洋服のうち6,000点を切り刻んだというからおどろきだ。今日のファッションに意義はないとして2002年にファッションの世界を引退した「モードの帝王」ことYves Saint Laurent (イヴ・サンローラン) のように、クリエイティビティより売上高をひとえに重視する傾向が強い現在のファッション業界では、元ミスター・ミニマリストの舌を満足させることはできないのだろう。

<イベント情報>
Helmut Lang: Sculptures (ヘルムート・ラングの彫刻) 展
会期: 2012年5月5日 - 6月15日
住所:  24 Washington Square
オープン時間: 12PM - 5PM (火 - 金)