もしも科学シリーズ(27):もしもタイムマシンを作るなら


H・G・ウェルズの傑作SF小説「タイム・マシン」が発表されたのは1895年。いまでは定番のネタだが、100年以上前の人びとにとって衝撃的なテーマだったに違いない。



もしもタイムマシンを作ったらどうなるのか?理論物理学者ポール・デイヴィスが、著書「タイムマシンをつくろう!」で詳細な作り方を記しているが、ワームホール、負のエネルギー、時間順序保護仮説など未知の要素に満ちあふれ、命がけの時間旅行になりそうだ。



■引き出しのなかのブラックホール



タイムマシンは大別して3種類あり、もっとも手ごろなのはタイムカプセルだ。アインシュタインの相対性理論に従い速度か重力を用いて時間の流れを遅らせ、実際よりも早く未来に到達する方法だ。速度を利用するなら人工衛星で地球を周回し続けるだけで良い。



およそ秒速8kmで地球を周回する国際宇宙ステーションなら、2年間滞在すると地球上よりも約50分の1秒遅くなる。GPS用の人工衛星も、地上時間に合わせて「進む時計」を使っているぐらいだから、あとはどれだけ光速に近づけるかが焦点だ。



重力を使うなら大質量天体を利用しよう。地球の300倍以上の質量を持つ木星ぐらいの天体を用意し、半径6mぐらいまで圧縮し、くりぬいた内部の空洞で生活する。強い重力を受けながらの暮らしは、時間の流れが地球の5分の1程度となる計算だ。そこで暮らした20年間は地球の100年に相当するので、差し引き80年後の地球にタイムトラベルできる。



未来限定のタイムカプセルに対し、過去へも行けるタイムマシンが「ティプラーの円筒」だ。発案者の名がつけられたこのタイムマシンは、物質を高密度に無限に長い円筒状にし、高速回転させると過去へも未来へも行けるというのだ。



のちに別の学者が再計算したところ、地球の約33万倍重い太陽を半径10km、長さ100kmの円筒にして秒速2,000回転させれば可能とわかった。



ただし太陽の体積は141京(けい)立方kmもある。円筒ではなく、中の詰まった円柱でも31.4万立方km足らずだから、ざっと45兆分の1以下にしなければならない。それだけ圧縮すれば重力崩壊を起こし、ブラックホールができ上がってしまう。時間の壁を超えるならそれも構わないが、素粒子への片道切符では危険すぎる。



あのネコ型ロボットが、こんな危険なものを引き出しに忍ばせていると知ったら、チビっ子たちはきっと嘆くだろう。



■時空を超えるダイビング



3つめはワームホールを使ったタイムトンネルだ。ブラックホールとホワイトホールをつなぎあわせ、砂時計の両端を切り取ったような形のトンネルを作り、時間と空間を超える技である。



まだ観測されていないホワイトホールを使うのはおとぎ話に聞こえるが、考案者はなんとアインシュタイン博士。アインシュタイン−ローゼン橋と名付けられていたが、虫食い穴にちなんでワームホールと呼ばれるようになった代物だ。



ワームホールづくりの最初のステップは、衝突型加速器を使って原子核同士を衝突させ、クォーク・グルーオン・プラズマを作ることだ。以前紹介した「もしも超高温を手に入れたら」に記してあるので詳細は割愛するが、4兆度を超える高熱と、分解した陽子/中性子で「溶けた量子真空」ができ上がる。



次はクォーク・グルーオン・プラズマを圧縮し、プランク温度と呼ばれる1.4溝(こう・10の32乗)度まで高める。仮にステップ1で10兆度に達しても、この1,000京倍に高めるには全世界のエネルギーを数年間投入することになるだろう。



プランク温度に達したら、負のエネルギーを送り込んでワームホールを拡大する。負のエネルギーは、10nm(ナノ・ミリ)間隔で近づけた2枚の金属板だけで発生する。実用化されればワープ航法も夢ではない。



ワームホールが十分に広がったら、一方を地球に残したまま、もう一方をブラックホールや中性子星などの重力の大きい天体の近くか、地球よりも重力の影響が少ないところに移動し、時間差が生じるのを待つ。時間差がなければ単なる瞬間移動にすぎない。



十分に差が生じたら完成だ。かつて仮面貴族と呼ばれたプロレスラーのように、華麗にさっそうと飛び込んでみよう。



■まとめ



もし過去に戻ったら歴史は変えられるのか?ワームホールも見つかっていないのに、そんな議論はムダに思えるが、かのホーキング博士は「時間順序保護仮説」を提唱し、過去は変えられないと主張するほど、科学者たちの真剣な研究が続けられている。



タイムマシンが完成しても過去には戻れないなら、待っても悔やんでも仕方がない。イヤなことは忘れ、新たな気持ちで明日を迎えよう。



(関口 寿/ガリレオワークス)