半導体大手ルネサスエレクトロニクスは、政府系ファンドの産業革新機構の主導で再建されることになった。トヨタ自動車、パナソニックなど民間企業8社も共同出資するが、ほかにも、自動車、電機、建設機械など取引がある20社以上の企業が出資を要請されていた。しかし、最終的には出資に応じなかった。「重要顧客からの要請で不採算製品が積み上がったルネサスの『他品種少量生産』のビジネスモデルでは再建は難しい」(メーカー首脳)という判断があったためだ。

「少量多品種」生産から抜け出せなかった

ルネサスの再建策が大詰めを迎えた2012年10月下旬、東京都内に本社を置く大手機械メーカーをルネサスの首脳が訪ねた。首脳はこのメーカーのトップにこれまでの取引実績をもとに出資を要請したが、トップは色をなして諭したという。

「あなたたちはいつまで下請けをやろうとするんですか」。言葉に詰まった首脳に、トップは「うちの社員があれも作ってくれ、これも作ってくれと言っているかもしれない。でも、なぜ『こちらには標準的なこのマイコンしかないから、このマイコンでお宅の製品を作ってくれ』と言えないんですか」とたたみかけ、出資を断った。

ルネサスが世界市場でシェアトップのマイコンは、自動車の安全制御やデジタル家電に欠かせない半導体だ。しかし、調査会社IHSのアナリストは「米インテルやテキサス・インスツルメンツといった海外メーカーはパソコン用、デジタルカメラ用、医療機器用など機能を絞った汎用品を大量生産する『大量少品種』で低コストを実現しているのに対し、ルネサスは国内顧客の細かい要望に対応する『少量多品種』から抜け出せなかったことが経営不振の原因」と指摘する。

上記のトップの苦言は、取引先企業がルネサスに出資すれば、株主企業からは個別の要望に応じたマイコンを低価格で提供するよう求められ、従来の非効率な経営体質から抜けられないのではないか、という問いかけだった。

官民の思惑は「同床異夢」の面も

実際、ルネサスの内部からも「半導体の継ぎ目など顧客の細かな要求にまで応えるため、特殊仕様の商品だけが増え、販路が広がらなかった」と非効率経営を問題視する声が聞こえる。製品の価格決定権も「重要顧客」と呼ばれるトヨタなどの大口取引先に握られ、「赤字覚悟で受注することも珍しくなかった」といわれている。

ルネサス再建は、支援機構が来年9月までに1383億円を出資し、株式の69%を持つ筆頭株主となるほか、民間企業からはトヨタ(出資額50億円)、日産自動車(30億円)、ケーヒン(10億円)、デンソー(同)、キヤノン(5億円)、ニコン(同)、パナソニック(同)、安川電機(1.5億円)の8社が計116.5億円を出資する計画だ。

将来的には成長資金に振り向ける500億円の追加出資も予定する支援機構は、ルネサスの再建に失敗すれば投資を回収できず、国民負担につながりかねないとの切迫感で経営立て直しに臨む。一方、株主企業の最大の関心は「重要部品の安定的な供給」だ。「官民連合」による異例の再建スキームは、「日本の基幹技術の海外に流出させてはならない」と意気込む経済産業省も後ろ盾となったが、官と民の思惑は「同床異夢」ともいえる。