住友林業会長 矢野 龍 1940年、旧満州(現・中国東北部)生まれ。山口県立厚狭高校から北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部卒業後、63年に住友林業入社。67〜72年、79〜83年の2度にわたって米シアトル出張所に勤務。山林の買い付け仕事でアメリカの山々を自らの足で回り米材に知悉。88年取締役就任。常務、専務を歴任後、99年に取締役社長に就任。2010年から代表取締役会長。

写真拡大

ジョン・F・ケネディが第35代アメリカ合衆国大統領に就任したのは1961年、私が大学2年生のときだ。世界は高まる冷戦の緊張に震え、国内は60年安保で騒然としていた時代である。そこに颯爽と現れて平和の理想を雄弁に語るアメリカの若き指導者は実にセンセーショナルで、外国語学部の英米科で学んでいた私は彼の大統領就任演説に大いに感銘を受けた。

大統領就任演説といえば、第16代大統領のリンカーンが1863年にゲティスバーグで行った名演説が知られている。

「人民の人民による人民のための政治」と、リンカーンが人種や宗教を超えた団結の理念を国民に訴えてから100年。ケネディもまた、わかりすい単語と格調高い表現で、専制、貧困、病気、戦争といった「人類の共通の敵」との戦いに参加するように世界の人々に呼びかけた。

当時、同じ外国語学部の学生たちは諳んじられるくらいにケネディの演説をマスターしていたものだが、特に人気があって私も大好きだったのが次のフレーズである。

“my fellow Americans:ask not what your country can do for you――ask what you can do for your country.”

「わが同胞であるアメリカ人諸君、諸君の国が諸君のために何を為すかを問い給うな。諸君が諸君の国のために何を為し得るかを問い給え」

名文に共通して特徴的なのは、類似の文体を重ねるパラレリズム(対句法)でリズムを生み出していることだが、ケネディの演説にも対句が多用されている。この一節もそうで、さらに次のセンテンスとの2重のパラレル構造になっている。

“My fellow citizens of the world: ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man.”

「わが友である世界の市民諸君、米国が諸君のために何を為すかを問い給うな。人類の自由のために、我々がともに何を為し得るかを問い給え」

自らの行動力を示すだけではなく、人々に行動を促すメッセージを放つリーダーシップに惹かれた。63年に住友林業に入社したときの身上書に尊敬する人はケネディと書いたほどである。しかしその年の11月22日、ケネディは暗殺されてしまう。凶弾に倒れる瞬間のニュース映像が何度も流されたが、ショックというより、アメリカの巨大なダイナミズムのようなものを感じた。

ケネディの死から数カ月後には『ケネディ演説集』が日本でも出版されて、私はすぐに買い求めた。大統領就任演説はもちろん、アメリカン大学の卒業式での演説(『平和の戦略』)や、国連総会の演説(『平和の建設』)など、読み返して噛み締めるほどに、大変なリーダーを世界は失ったのだと思った。

海外特別員枠で採用された私は、アメリカのシアトルに2回駐在して計11年仕事をしている。私がケネディから感じ取った信仰心に基づく正義感は数多くのアメリカ人の中にも見出すことができたし、「I respect Kennedy」というと非常に親近感を持って接してくれた。

ケネディの言葉は私の人生の中に息づいてきた。今は新入社員へのメッセージや新任管理職研修などでスピーチする際には、ケネディの“Ask not what your country”をよく引き合いに出す。会社が何をしてくれるかではなく、自ら会社のために何をできるか――能動的、主体的に行動して住友林業という会社で悔いのない人生を過ごしてほしい、と。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 坂本道浩=撮影)