大船渡市の南隣、陸前高田市の広田町の光景(2012年6月撮影)。

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■おばあちゃんの畑

大船渡高2年の畠山皐さんが将来なりたい仕事は「農業指導員」(正式名称「普及指導員」)。大船渡を代表する普通科進学校で、農業志向の高校生に会うことは予想外だった。畠山さん、きっかけは何ですか。

「ちっちゃい頃におばあちゃんと一緒に畑によく行ってて、植えると芽が出てきて、どんどん育ってくるのが面白くて。親戚の人が2人、農業指導員やってるんですけど、それで話を聞いたら、さらに面白いなと思って。おばあちゃんは自分の土地にいろんなものを植えていて、出荷とかはしてないんですけど。今は、トウモロコシとキュウリとトマトとジャガイモ、その季節に合ったものをやってます。お祖母ちゃん、76歳です」

普及指導員は、大学を卒業したあと4年以上の実務経験を経て受験資格を得る。農水省の規定を見ると、実務とは「国、都道府県、農協等において、農業又は家政に関する試験研究業務に従事/農業又は家政に関する教育に従事/農業又は家政に関する技術についての普及指導に従事」のことを指す。高卒の場合は10年の実務が必要とある。さて、畠山さんの進路は。

「農業のことを学べる大学に進みたいと考えています。応用生命農業課程コースがあるところ。山形大学の農学部か、岩手大学の農学部を考えてます。どちらの大学も難しいんですけど……。今、農業ってすごい進歩してると思うんですよ。今の自分は進歩した科学の知識が全然ないので、今、科学を使って農業でどういうことができるかとか、知りたいです」

自然相手の仕事は、知識だけでできるものではないと思います。学歴や学校での勉強以外に必要なものって何だと思いますか?

「やっぱり現地での経験が必要だと考えます。勉強だけではわからない事があるし、自分の肌でその土地の特徴をとらえる必要があると思います。陸前高田でも気候に左右されないハウス栽培をやっているって聞いているので、そこに行って話を聞いてみたいなと思ってます」

「TOMODACHI〜」で行った合州国での3週間、向こうで会った大人の中に、ずばり「普及指導員」はいなかったと思うのですが、仕事のジャンルが別であっても、印象に残った人はいましたか。

「うーん、選びきれないです。どの起業家の人もそれぞれの夢に向かって必死だったので、その姿に感動しました。わたしもそんな感動を与えられる普及指導員になりたいです」

鉄工所をやっているお父さん、福祉施設で働くお母さんは、畠山さんの進路について何と言っていますか。

「お母さんは、『ちゃんと安定した職業に就いてほしい』って、わたしにも兄にも言ってるんですけど、お父さんは『無理して行きたくない変な国公立に受かったとしても、そこでやりたくないことをやってもお前のためにならない。駄目だったら私立でもいいけど、農業やれるとこに行け』って言われてます」

いいお父さんじゃないですか。

「いや、駄目です(笑)。もうちょっと心配してほしいです」

取材後、畠山さんとメールのやり取りをしている間に「黒崎仙峡温泉、いいよねえ」「いいですよね! 海を一望出来る素晴らしい温泉ですよ!」と、広田町のローカル話で盛り上がった。こちらが取材で広田に行った経験があったからだ。

■《なぜ若者は被災地に移住したのか? 【短期集中連載】 陸前高田広田町+1(プラスワン)》
http://president.jp/subcategory/%E9%99%B8%E5%89%8D%E9%AB%98%E7%94%B0%E5%BA%83%E7%94%B0%E7%94%BA

上記記事で取材した三井俊介さんは今、広田の一次産業と観光を興す仕事を始めている。若者と一次産業の距離は、東京で暮らすものが頭だけで考えるよりも、ずっと近しい。

次に話を聞いたのは、取材に応じてくれた大船渡高生5人のうち、唯一の3年生だった。

■後輩のみんなにも、やりたいことをやってほしい

新沼理奈(にいぬま・りな)さんは大船渡高校3年生。「家は地震で壁にヒビが入っていてまだ直していません。父は機械の内部を作る仕事をしています。母はマイヤで最初レジ打ちから始まって、今は営業本部で働いています。22歳の兄が1人いて、仙台の専門学校に行って、フリーターです」。

新沼さんは大船渡高の「文IIクラス」。文Iと文IIってどう違うのですか?

「文Iは主に国公立大を目指す人たちです。文IIは私立や短大、専門学校、就職などを志望する人です。文IIでもセンター試験を受ける人もいますが、ほとんどの人は受けません。ちなみにわたしも受けません」

取材後の10月末、新沼さんは仙台にある幼児保育の専門学校に合格した。

「保育士になりたいんです。中学校の時からやってみたいと。きっかけは中学校の時にお会いした保育士の先生です。そのとき、まだ将来の夢とかすごい迷っていて……。ちょうどその頃に学校で職業体験があったんですよ。そのときに保育園にお邪魔して。それまでまったく保育士という仕事は考えたことがなかったんですけど、『ちょっとやりたいかな』って思うようになりました。わたしが行く学校には、保育士養成科(2年)と幼児保育科(3年)があって、わたしは幼児保育科に入ります。保育士養成科は幼稚園教諭の資格が取れないんですけど、わたしが入る学校は、短期大学の通信教育を受けて幼稚園教諭の資格を取得することができるので、3年は長いと思いましたが、こちらの科を選択しました」

大船渡高は地域有数の進学校だ。ここまで話を聞いていても、国公立を目指せという先生たちの声が聞こえてきそうな学校だ。そういう学校で専門学校に進む新沼さんには、最初の頃、ちょっとした躊躇があったという。

「入学当初は、専門学校志望だと先生たちに進路指導で見放されるかも……と思っていたんです。でも、先輩たちに話を聞くと、そんなことはない、大丈夫だってわかって、3年生になるときには文IIに進みました。先生たちがどうのこうのというより、結局は自分次第だと思っています。後輩のみんなにも、やりたいことをやってほしいです」

3年生になる前に進路を決めろというのは、ちょっと早い、ちょっとキツいと思ったことはありませんか。この問いに対する答えは、進学校ならではの難しさをこちらに感じさせるものだった。

(次回に続く)

(文=オンライン編集部・石井伸介 )