「財政の崖」を乗り越えられないと米国経済はマイナス0.5%成長に
米国の第3四半期の決算発表会見を聞いていると、企業も投資家も不安がって新規投資を手控える傾向が出てきた。そして大統領選挙後には「財政の崖」が立ちはだかっている…。


このほどドイチェバンクの富裕層部門がニューヨークの金融担当記者を集めた勉強会の際に頻繁に話題に上ったのが「フィスカル・クリフ」と呼ばれる、年末に訪れる政治イベントだった。

日本語訳すると、「財政の崖」。まるで急な崖から落ちるように、米国連邦政府の財政支出が大幅に減少して、実体経済に悪影響を与えるリスクを指す。金融危機後の財政出動や数々の減税措置の期限が今年末に到来する――という「断崖」が迫っているのである。

2013年の米国経済の最大リスクは政府の財政問題となりそうだ。これは、IMFが発表した世界経済見通しで、世界景気が再び悪化するシナリオに最大の原因と挙げた通り。南欧諸国の財政問題が陥った欧州危機に加えて、金融危機対応モードだった「大きな政府」のコストが世界的に認識され始めたのだ。

大手格付け会社は米国債の格下げをちらつかせている…

ドイチェバンクによると、?断崖〞の規模は米国のGDP(国内総生産)の5%強ある。最大項目は、個人所得税、証券税、相続税の減税など「ブッシュ減税」と呼ばれる減税措置で2210億ドル相当、給与税の特別減税措置の失効も950億ドルある。

しかも、政府債務が債務上限に達する公算で、2011年夏に制定された「予算管理法」による政府支出の強制削減措置が発動される。国防費など予算管理法による強制削減措置で、650億ドルある。

財政赤字の削減措置はマクロ経済の総需要を減らす。財政引き締めの合計額は6000億ドルを超え、?断崖〞に該当する項目すべてに延長または代替措置がないと、来年の米国は0.5%程度のマイナス成長に陥る可能性があるのだ。

景気は?気〞なり。中国経済の減速感もあって、米国の第3四半期の決算発表会見を聞いていると、企業も投資家も不安がって新規投資を手控える傾向が出てきた。米国大統領選挙の盛り上がりで夏まではあまり意識されていなかったが、頼りの企業業績は伸びが鈍化したうえ、FRBによる金融緩和の効果も市場に織り込まれてしまい、リスク要因を再び洗い直す地合いに移った。

大統領選挙後も「財政の崖」リスクにとっては不透明要因。下院は共和党が押さえ、上院は民主党が押さえる結果となっている。大統領と議会の多数党が逆の「ねじれ政府」、また上院と下院の多数政党が分かれる「ねじれ議会」となってしまったために、支出の延長などで合意に手間どる可能性がある。

「財政の崖」に落ちてしまえば、米国景気の回復が中折れしてしまう一方で、年金やメディケア(高齢者何け公的医療保険)といった社会保障給付金の長期的な増加を抑えるなど、米国政府は財政構造の根本的な見直しに迫られている。経済の成長シナリオや財政赤字削減のメドが立たないのならばとばかりに、大手格付け会社は米国債の格下げをちらつかせている。

?前門の虎に後門の狼〞。2013年の米国経済はジレンマに陥る年になりそうだ。

松浦 肇(HAJIME MATSUURA)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員

日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナリズム・スクールにて修士号を取得。



この記事は「WEBネットマネー2013年1月号」に掲載されたものです。