もしも科学シリーズ(25):もしも絶対零度になったら


人類が作り出したもっとも低い温度は1兆分の450K(ケルビン)。絶対零(れい)度までわずか0.00000000045℃のこの記録は、2003年にマサチューセッツ工科大が打ち立て、ギネス世界記録にも認定されている。



もしも絶対零度になったらどうなるのか?静止した原子、超伝導、超流動、体積がなくなるなど、想像を絶する世界が待ち受けているだろう。



■理想と現実



日常生活では温度にセルシウス度(℃)がもちいられ、摂氏(せっし)の名で知られている。セルシウス度は水が凍る温度を0℃、沸騰(ふっとう)する温度を100℃と定めているため、直感的にわかりやすいのが特徴だ。



対して科学の世界では絶対温度(ケルビン)がもちいられ、Kであらわされるのが一般的だ。摂氏との換算は簡単で、℃に273.15を加えるとKとなる。0℃なら273.15K、100℃なら373.15Kといった具合だ。ただしKは0Kが最低と定めているので、数値はすべてプラスとなる。



なぜ0K(-273.15℃)より低温にならないのか?これは熱気球のように、温度が高くなると膨張して体積が増え、逆に冷やすと体積が減ることに由来する。1℃下がるごとに、0℃時のおよそ273分の1ずつ小さくなっていくので、-273℃では体積がゼロとなる計算だ。



ただしこの計算は理想気体と呼ばれる理論であって、現実に当てはまると-273℃の体積ゼロの状態では、分子や原子の体積すらなくなってしまう。冷やすとなくなり温めると出現するのでは勘定が合わない。そのため、-273.15℃を絶対零度とし、それ未満は存在しないと定めているのだ。



さて、物体には固体〜液体が変わる融点、液体〜気体の沸点があるが、身近な物質の融点/沸点(℃)を見てみると、



 ・水 … 0℃ / 100℃



 ・海水(およそ) … -2℃ / 101℃



 ・水素 … -259℃ / -252℃



 ・窒素 … -210℃ / -196℃



 ・ヘリウム -272℃ / -269℃



だ。



■超伝導と超流動



熱エネルギーを持った分子/原子は運動し続けている。水の場合、液体の状態でも水分子は常に動き回っているのだが、さらに熱エネルギーを加えると運動が活発になり、大気へ飛び出す蒸発が起きる。逆に0℃以下では互いに身を寄せ合って氷となるが、動き回る代わりに振動するように運動している。これらの運動は温度を下げる妨げとなるので、絶対零度に近づくためには、分子/原子を静止する必要があるのだ。そのため、光子をぶつけて原子の運動を止めるレーザー冷却、磁場を使って電子のスピン方向を揃える断熱消磁(しょうじ)などの方法がある。前者なら百万分の1K、後者は1兆分の1Kの世界が実現できる。



極低温の世界で、電気抵抗がなくなる超伝導はご存じだろう。物質によって温度は異なるが、高いものでは70〜80K、アルミニウムや水銀は数Kで超伝導体となる。電気抵抗がなくなることで強力なパワーを発揮できるため、医療用のMRIなどの電磁石に利用されており、リニアモーターカーへの応用も検討されている。



超伝導状態では、外部からの磁場を打ち消す完全反磁性もあらわれる。磁石を乗せておくと、反発して磁石を浮かび上がらせるのだ。表面に電流が流れ、電磁石とおなじような働きをするというから、発電機の役割も果たす。すごいぞ、超伝導。



超流動も極低温ならではの現象だ。これも物質によるが、およそ千分の1K以下では粘性がなくなり、摩擦がなくなるのだ。液体ヘリウムは、原子がやっと通れるような小さな穴を容器に開けておくと、冷やすと流れ出し、温めると摩擦が増え流出が止まるスーパーリークが起きる。寒いと潤滑油の粘度が高まるように、低温のほうが摩擦が増えるイメージだが、極低温の世界では逆の現象が起きるのだ。



電気抵抗も摩擦もなく、発電もできるなら永久機関が作れそうだが、超流動はわずかな熱が加わるだけでダメなので、潤滑材としては使えないそうだ。残念。



■まとめ



もしも絶対零度を下回るとどうなるのか?絶対零度は温度の下限と定義されているのだからバカげた疑問だが、力学では負の温度が存在する。しかもプラス無限Kを超えるとマイナスKの世界があるというからややこしい。



長くなるので、続きは別の機会にご紹介しよう。



(関口 寿/ガリレオワークス)