経営者と心を通わせ話を聞き出す仕事にやりがい

ビジネスパーソン研究FILE Vol.194

株式会社帝国データバンク 日比生秀一さん

企業信用調査を行う、日比生さんの仕事のやりがいとは?


■工夫次第でお客さまとのよい関係が構築できることを実感

企業の約9割超を中小企業が占める日本では、取引相手が中小企業となるケースは珍しくない。その企業と本当に取引をしても問題がないかどうかの判断材料が少ないのが現状だ。そんなとき、取引先となる企業の経営者に直接会って話を聞き、資金繰りや財務状況、経営者の考え方などを調査し、第三者の立場で依頼者に報告するのが企業信用調査。帝国データバンクは、この企業信用調査を主幹事業としている。

企業信用調査をやりたいと考えて入社した日比生さんが、最初に配属されたのは東京支社業務部サービス課。
「将来的には調査員になりたかったので、調査員にもっとも近いポジションで、依頼主であるお客さまの声を直に聞くことのできる業務部は、ぜひ経験したいと思っていた部署でした」

日比生さんは、業務部サービス課で会員企業からの調査依頼を受け付け、必要な情報を社内システムに入力するほか、依頼主である会員企業に連絡を入れるなど、会員企業の電話対応窓口を担当することになった。

「電話業務に慣れるには、数をこなすしかない」と考えた日比生さんは、誰よりも早く受話器をとることを心がけ、3カ月後には、対応が難しい電話対応も任されるまでに成長した。
「時にはお客さまからお叱りを受けることもあります。それまでそのような経験などありませんでしたから、正直、落ち込みました。でも、先輩から『これも仕事。お客さまに納得いただけるよう、誠意を尽くしてご説明することが、君の大事な役割だ』と諭されました」

先輩の言葉に励まされ、日比生さんはお客さまの立場になって話を聞き、最後はお客さまに納得していただけるように会話の流れを工夫していった。
「お客さまの中には、調査結果について上司に報告しなければならない方もいます。だからこそ、お客さまの立場を理解したうえでの会話を心がけました。そうしていくうちに、お客さまから『ありがとう』のお言葉をいただけるようになりました。こうした経験からたとえお互いの顔が見えない電話でも、人間関係を構築することができるということを実感しました」

入社2年目を迎える前には、ファクスやインターネットなどで調査依頼を受け付けるチームの管理を任された。5、6名からなるチームを統率し、1日2000件近い依頼の対応にあたった。それまで自分で受けていた依頼電話は1日40件程度。それが、このチームでは1人300件相当と、かなりの忙しさだ。
「チームのメンバー全員に楽しく仕事をしてもらうため、仕事分担の平準化を心がけました。誰かに仕事が偏ると不公平感から不満が生まれ、チームの雰囲気が険悪になるからです。そのほかにもミスがあった場合は私が代表しておわびにいき、ボーナスが出たら皆を食事に誘うなどチームの雰囲気づくりを大切にしていった結果、メンバーから『このチームが好き。ここでずっと働きたい』と言ってもらえたんです。うれしかったですね」


■先輩調査員との実力差に愕然。自分の行動を分析し、優秀調査・営業社員の第1位に

入社4年目、東京支社調査第1部に異動した日比生さんは、念願の調査員となった。調査員は、調査対象である企業を訪問して調査を行うと同時に、その企業から調査ニーズを探り出すなどの営業も行うほか、それ以外の企業も訪問して会員を増やす営業活動も行っている。入社時から希望していた仕事に意気揚々と臨んだ日比生さんだったが、実際に1年近く調査活動を続けて痛感したのは、先輩との実力の差だった。
「身だしなみから話し方、業界知識や調査ノウハウ、報告書の書き方まで、何一つかないませんでした。『調査も営業も1番の成績。業務時間内に仕事を終えて定時で帰る調査員』という理想の姿を思い描いていたのにもかかわらず、現実の自分とのギャップがあまりにも大きかったのです」

挫折感を味わった日比生さんが、一念発起して心に誓ったのは「調査・営業でトップの成績を収める」こと。それには、働く時間の密度を濃くしなければならないと考え、自分の行動を毎日分析することにした。
「外出時の移動ルートに無駄がなかったかなど、その日の行動を振り返り、改善できることは翌日から実践しました。そして、移動中の時間を有効に活用し、朝早く起きて自宅で自分の報告書を読み直すなど、良い調査報告書づくりにも注力しました」

良い報告書の条件は、調査した企業と取引しても問題はないのか、どんなリスクがあるのかなどが、明確に読み手に伝わること。決算情報などの数字だけでなく、社内の雰囲気や経営者の思い、新規事業への着手状況など、数字に落とし込めない情報も盛り込んで、簡潔にまとまっていることも大切だ。そのことを念頭に、調査営業活動を続けてきた日比生さんの努力が結実したのは、調査員になって2年後のこと。

帝国データバンクでは、半期に一度、商品の成約状況や調査報告書の品質などを評価し、優秀な社員を表彰する制度がある。東京支社・大阪支社の調査員約250名からなるグループで、日比生さんは、2009年度上半期、営業成績第2位・調査報告書の品質第2位の成績を収め、総合で第1位に輝いた。
「やった!と思った半面、1位をとった瞬間に自分の中では過去の出来事になっていました。周囲が自分を見る目は変わるだろうし、次の入賞がないと一発屋だと思われる。だから、うれしいというより『次はどうする!?』という思いの方が強かったですね」

その思いを胸に、2009年度下半期は第4位を受賞。2010年度下半期には、再び第1位に返り咲いた。
「調査員の仕事は、単に情報を聞きとるだけではなく、経営者に、なぜこの会社を始めたのか、どんな苦労を乗り越えてきたのかまで踏み込んで聞くことができるので、初対面の私にも心を開いていろいろな話をしてくれます。約1時間という限られた取材時間の中でも、経営者のドラマが垣間見られ、親密な関係を築けるこの仕事に、とてもやりがいを感じています。何事にも浮かれず落ち込まず、これからも毎日『昨日を上回る仕事』をしながら、調査員としての道を究めていきたいと思っています」