日本の「右傾化」と揺らぐ憲法第9条

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米国の週刊誌「TIME」(アジア版)の2012年12月17日号。表紙は、白地に赤い丸。丸の中には「Japan moves right」の見出しが見える。表紙のデザインは「日の丸」を示し、見出しは日本が右傾化していると指摘する。なんと、分かりやすい表紙なのだろう!




すでに政治を語る上で「右翼だ、左翼だ」と言う話をしても、それほど意味がない。翼の片方である「左翼」の陣営はもはや何の影響力も持たず、体制に反対することでしか、その存在価値を示せない状況になっているのだから。




他方、もう片方の「右翼」にしても、本来は体制を守ること、すなわち「保守」を意味していた。だが、1年ごとに首相が交代し、野党が政権をとり、その野党が求心力を失い総選挙となった今、何を「保守」すればいいのか分からないような状況になっている。




ならば、『TIME』が指摘する「右傾化」の「右」とは何か。それは軍事力の強化や国防の重要さを過剰に唱える考え方、つまり「タカ派」のことである。同誌のアジア版は香港で編集されていることから、「Japan moves right」という見出しは、「いまの日本はアジア諸国から右傾化しているように見られているよ」という警鐘にも受け取れる。




憲法第9条の解釈を変えて、集団的自衛権の行使を認めるべきだと主張する政党が人気を博し、マスコミ各社の事前調査でもその政党の勝利が予想されているのだから、外国から「右傾化」を指摘されても仕方がない。その政党とは、自民党のことである。




自民党は、集団的自衛権の行使を禁じた現行の憲法解釈が見直されるべきだと、今回の総選挙で主張している。集団的自衛権とは、「自国と密接な関係にある同盟国が武力攻撃を受けた場合、自国が直接、攻撃されていなくても実力で阻止する権利」(「東京新聞」、2012年12月11日付)を言う。




その権利を行使することは、日本が戦争に参加することを容認することにつながり、戦争放棄を唱える憲法第9条と矛盾する。アジア諸国には、日本が戦争を放棄していることによりアジア地域の安心・安全がもたらされているという実感がある。また、そうした方針を貫いてきたことにより、日本はアジア諸国から尊敬のまなざしを向けられているとも言える。




その方針が、いま揺らぎかかっている。事実上、集団的自衛権を行使するためには、改憲が必要となる。改憲には高いハードルがあり、自民党が与党になっても、そう簡単には実現できそうにない。それでも、戦争放棄から戦争参加へ舵を切ろうとする政党が与党になることを、アジア諸国は危惧しているというのが、「Japan moves right」の本意なのだと筆者は思う。




自民党は、集団的自衛権の行使を認める根拠として、「北朝鮮」や「尖閣諸島」「竹島」などを取り上げる。だが、外交はバランスが重要であり、アジアにはそれらの地域とは関係のない多くの国や地域も存在する。日本の外交や軍事に必要なことは、緊張する地域のみを近視眼的に見るのではなく、アジア全体を俯瞰した上で見ることであろう。




(谷川 茂)