原町高校の皆さん。(撮影協力:南相馬市立中央図書館)

写真拡大

■ 「コミュニケーション」を日本語で言うと

原町高等学校2年の渡邊冴(わたなべ・さえ)さんはCA(キャビンアテンダント)志望。そのきっかけは何ですか。

「小学校4年生の頃に、上戸彩が出てたキャビンアテンダントのドラマ見て、なんかいいなって思って」

2006年にフジテレビ系列で放映された「アテンション・プリーズ」のことだ。高校生の親の年代には「1970年にTBS系で放映された紀比呂子主演テレビドラマのリメイク」と言うほうがわかりやすいかもしれない。

「TOMODACHI〜」で会った大人で印象に残っている人は? と訊くとCA志望らしく「JALの仕事をしている人です」との答え。その人物に、こちらは宮古での取材でお会いすることになる。その話は宮古編で詳細を書こう。さて、渡邉さん、CAになるために、行ってみたい学校はありますか。

「留学したいっていうのがあって……。外国の人と日常会話をしたいです。『TOMODACHI〜』で向こうに行って、ホームステイの人とかと話したし。今は『留学したい!』と、親と塾の先生と学校の先生に相談してます。まだ全然決まってないです。そろそろ決めなきゃいけないので焦ってます。もし留学ではなく、日本の大学行くことになったら、関東いや、東京の大学に行きたいです」

渡邉さんの話には、将来は南相馬、福島で仕事をしなくてはいけないという「土地の縛り」がない。この町に戻ってきたいという「土地の求心力」も感じさせない。60人を超える高校生への取材全体を通し、これは希有な例に入る。仕事に就いたとき、どこに住んでいますかという問いに対しても、渡邉さんの答えは国境線を越える。

「海外に住みたいです。私はアメリカしか行ったことがないので、よくわかんないんですけど。でも、一番はアメリカに住みたいです。都会でもなく、田舎でもないところ。福島県で言うと? うーん、郡山。あとは会津とか」

CAになるために必要だと思うものは何ですか?

「英語力。英語でコミュニケーションする力」

コミュニケーションという語を渡邊さんが日本語に訳すと、どういうことばになりますか。

「言う力……は一番必要だと思います。自分の思ってることを、ちゃんと相手に伝わるように」

ホームステイ先でどんな話をしたのか。取材後にメールで尋ねてみた。

「私の Homestay 先の father が日本の高知市と姉妹都市をしているフレズノ市のえらい人だったので、『日本に行ったことある』など昔の話をしました。福島県が野馬追で有名なので、それについてもお話しました。日本語がまったくわからなかったので辞書使ったりして説明しました」

国指定重要無形民俗文化財「相馬野馬追」は、花火と共に打ち上げた旗を数百騎で奪い合う「神旗争奪戦」の場面ばかりが有名だが、それだけの祭ではない。毎年7月末の三日間に、南相馬市と相馬市に跨がって開催されている。初日は出陣式、宵乗り(一周1000メートルの古式競馬)。二日目はお行列(3キロのパレード)、甲冑競馬、そしてクライマックスの神旗争奪戦。三日目は裸馬を素手で捕らえて神社に奉納する野馬懸(のまがけ)。震災のあった去年は出陣式とお行列だけになった。

■進路指導の密度

5人の原町高生に訊くと、原町高校は進路教育がしっかりしているのだという。

「週1ペースであります。1年生の頃から、しつこく言われてるかもしれない。総合学習の時間で大学を調べたり、こまめに面談したりとか」「いろんな人(社会人)の進路の話を聞いたり」「定期的に紙を渡されて、それに第一希望、第二希望と、詳しく書くところまで。担当の先生との面談とかもこまめにあるし」「看護系から行けばいいのか、教育系から行けばいいのか聞いたら、『それは教育のほうがいい』って言われたことがあります」

この「進路相談の密度」の差異、濃淡を、こちらは取材を通して感じていくことになる。原町高校のように、生徒に「しつこい」と言われるまで丁寧な進路指導を行う高校もあれば、「大学に送り込みさえすれば、高校の役目は完了。どんな職業に就くかは大学で考えてくれ」と教師の側が考えている——と、生徒側に思われている高校もある。後者は、いわゆる「ナンバースクール」ではない普通科高校に通う生徒たちから聞いた。

南相馬での取材は、原ノ町駅前に建つ南相馬市立中央図書館の部屋を借りて行った。取材を終えたときには閉館時間を迎えていたのだが、副館長の早川光彦さんのご厚意に甘え、高校生たちとバックヤードまで含めた「図書館ナイトツアー」を特別に体験することができた。高校生たちは、滅多に見ることができない「裏側から見た返却ボックス」に盛り上がっていたのだが、仕事柄、全国でいくつもの図書館を見てきたこちらは、南相馬市立中央図書館のレベルの高さに驚嘆した。

蔵書量や貸出冊数といった数値の話ではない。その町の人が必要とする本を並べてみせる「棚を作る力」が図抜けているのだ。「この本をタダで読みたい」というリクエストを受けてからつくる棚ではない。見た者に「そうだ、私にはこういう本が必要だったのだ」と気づかせる棚だ。気づいてくれる住民がいると信じていないと、そういう棚をつくることはできないだろう。多数撮影させてもらった写真のうち、1点だけ証左として挙げておく。多言は要すまい。この町には「頭に投資することには意味がある」と考える大人たちがいるようだ。ならば、原町高校の進路指導が熱心である理由も頷ける。

■南相馬市立中央図書館について/南相馬市
http://www.city.minamisoma.lg.jp/library/minamisomatoshokan/minamisomatyuoutosyokan.jsp

南相馬編の最後に、この町で失われた人命のことを記しておく。緩やかな傾斜を持つこの土地を、津波は最大で5キロメートルの内陸部まで浸入した。636人が亡くなり、10名が行方不明となっている。南相馬市は福島県内で最も多くの人命を失った自治体でもある。

次回は、再び三陸に戻り、大船渡の高校生たちを訪ねる。

(次回に続く)

(文=オンライン編集部・石井伸介)