最近は『ソフトヤミ金』なる言葉も生まれ、一部メディアではヤミ金の新しい流れとして紹介されている。取り立てが厳しくなくて金利も高くない、という業者のことらしいが、本当に新しいパターンなのだろうか。
 『ヤミ金融-実態と対策』という著書もある木村裕二弁護士(東京市民法律事務所)が解説してくれた。
 「警察の取り締まりが厳しくなるにつれ、短期決戦で荒稼ぎするタイプは減りました。単に、ズルくうまく立ち回る業者が『ソフトヤミ金』と呼ばれるようになったにすぎません。彼らはあくまでも、捕まりたくないからそうしているだけです。質的に変化があったとすれば、通称『ヤミ金対策法』が成立した'03年から'04年にかけてでしょう。東京では'03年まで、ヤミ金とはいっても都知事の登録業者でした。『都(1)第○○○○○号』と表記している事が多いことから“トイチ業者”と呼ばれていましたが、店長になるべき人間は身元を明らかにしていたし、営業店舗も登録していました。'04年以降は、貸金業の登録はしない、身元も明かさない、電話は携帯、しかも他人名義、客から振り込ませる口座も他人名義というように変わっていったのです」

 債務者や連帯保証人に対する過酷な取り立てによる『商工ローン問題』をきっかけに出資法が改正され、'00年6月、上限金利がそれまでの40.004%から29.2%に引き下げられた。この際、金利については「3年後に必要な見直しを行う」との付則が付けられ、'03年さらに引き下げようという動きに対して、貸金業の業界団体はそれを阻止しようと動いた。
 時を同じくしてヤミ金の被害拡大が社会問題化してきたこともあり、貸金業者らは「上限金利をこれ以上引き下げてサラ金への規制を強化すると、ヤミ金が増えるぞ」とキャンペーンをし始めた。
 結局、'03年は上限金利の29.2%からさらなる引き下げは阻止され、それが貸金業者たちの成功体験になってしまった。そして、'06年の貸金業法改正だ。
 貸金業者たちは同じキャンペーンを続けたが、このときは業者たちの主張は受け入れられず、上限金利は20%に引き下げられた。前途したヤミ金対策法が、それなりに成果が出ていたため、業者たちの言い分が論理破たんしているとされたからだ。

 そもそも、ヤミ金は犯罪行為であり、本来、取り締まらなければならない対象であるにもかかわらず、それらを持ち出して、サラ金の高金利を認めよ、というのは本末転倒な話である。
 '10年6月の改正貸金業法完全施行も、当然のことながら貸金業の業界団体にとっては良い口実で『ヤミ金増殖論』を唱え続けているわけだが、イマイチ不発だった。それがここにきて、国政の場で新しい動きが出始めた。
 自民党は「小口金融市場に関する小委員会」で、改正貸金業法を骨抜きにする案をまとめた。総量規制を撤廃して年収に関係なく借りられるようにすること、上限金利を年利30%程度にまで引き上げることが柱だ。民主党も「改正貸金業法検討ワーキングチーム」を立ち上げ、中小・零細事業者向けの短期貸し付けの上限金利を引き上げる方向で検討を進めている。おそらくこのスキームは、総選挙の後も継続されるだろう。
 「再びカネを借りやすくします!」など、どの政党も公約に掲げることはないが、結局“負け組”を生み出す社会を作りたがっている政治家=サラ金業界の代弁者たちは、大勢いるのだ。