バンダイ カード事業部 
事業開発チーム マネージャー 
上床威一郎 
1974年、福岡県生まれ。97年九州産業大学芸術学部卒、バンダイ入社。東京ビッグサイトで開催したガンダムウォーイベントに、ファン3000人超を集めた実績も。

写真拡大

カード事業の商品開発に絶対の自信を持っている男がいる。バンダイの上床威一郎(36歳)だ。カードといってもクレジットカードではない。交換や対戦をして楽しむキャラクターカードである。

「仕事に飽きたことは入社してから一度もありません。もともとおもちゃ好きなので、自分がやりたいことをやれるこの会社は面白いですよ」

自らもアニメに出てきそうなコミカルな雰囲気を漂わせる上床。入社早々に成功体験を味わっている。ガンダム好きが高じて、大人向けのカードゲーム「ガンダムウォー」を開発し、見事にヒットさせたのだ。

以後、オンラインゲームなどで失敗も経験するものの、デジタルカードとカードゲームを融合させた「データカードダス」事業の立ち上げメンバーにも抜擢され、現在はカード事業の開発チームを任されている。

ちなみに、データカードダスの機械は全国に約2万台設置され、6年間で700億円以上のカードを販売。バンダイの「稼ぎ頭の1つ」(同社広報)である。

「私は新しいインフラを生み出すことは得意なのですが、細かくて心配性でもあるので型をつくってしまいがち。せっかくつくったインフラの価値を最大化するのが苦手なんですね。型を破ってくれる人が必要です」

2010年、チームメンバーの意見を入れて商品化したプロ野球選手のカードは、予想を上回る好調。すでに4000万枚以上を売り上げた。上床は、カードゲームへの情熱は保ちつつ、リーダーとしての実績も積み上げている最中である。

■仕事のために何かを諦めはしない

IBM社内のコンサルタント教育部門を率いている清水久三子(41歳)は、1つの事業部で叩き上げてきた上床とは違って、転職や職種転換を経験している。ただし、いずれも前のめりに仕事に取り組んできた結果である。

新卒で入社した大手アパレル企業では、社内システム開発部門で業務改善を担当した。しかし、ITに不慣れなベテラン社員が大きく反発。「どうすれば物事が進むのか」と悩み抜いた。

その帰結として、28歳のときにプロジェクトマネジメントのプロ集団であるPwCコンサルティング(現在はIBMと統合)に転職。新規事業戦略立案やプロフェッショナル人材制度設計などの案件に携わる。「一度プロジェクトに関わると、そのクライアントから継続参加を求められる」というコンサルタントとしては理想的な形で働くことができた。

転機は再び訪れる。当時の社長から「社内の人材教育をやってくれ」と頼まれたのだ。コンサルティング会社は人材がすべて。意義を感じた清水は、コンサルティングの現場から離れることを決意する。

現在、清水は「プロを育てるプロ」としてコンサルティング業界では知る人ぞ知る存在だ。『プロの学び力』『プロの課題設定力』という著書も持つ。

家庭では、同じ業界で働く夫と協力して3歳の娘を育てる。写真や料理などの趣味も続けている。

「子どもがいるから何かを諦める、なんて考えはしたくありません。orではなくandの人生を送りたい。どんなに忙しくても1日1分はカメラに触れることにしています。継続が大事だと思うので」

もちろん、仕事にも貪欲である。バックオフィス業務は社内向けのサービス業だと認識し、要望に対して「できない」とは極力言わないよう努めている。

「チームメンバーは20人ですが、一昔前と比べると半減しています。いかに効率化すべきかを考え抜いて、良質な研修を実現しなければ、私たちの存在価値はありません」

何よりも自分に厳しいプロの覚悟である。若々しい真摯さすら感じる。

■年下の上司は「全部オレより上」

では、仕事や出世への情熱を失いかけている「諦め系社員」にも話を聞いてみよう。大手電機メーカーの営業企画部門で働く山田博文(仮名、41歳)は、清水と同い年ながら、まるで仙人のように達観している。

「仕事は嫌じゃない。でも、やりすぎてつぶれたくはない。仕事以外の生活がやっぱり大事だからね」

スノーボードやカヤックなど、アウトドアスポーツが好きな山田。東北地方の支店で営業をしていたときは「外回りと称してスキーをしていた」と悪びれもせずに語る。最近は、料理上手で美大出身の妻の影響を受け、料理や芸術にも興味が出てきた。私生活を犠牲にしてまで出世するつもりはない。

実際、現在の部門で山田は係長クラスなのに対して、課長の男性社員はなんと36歳。5歳も年下の上司に嫉妬しないのだろうか。

「全然。優秀な人が上にいくのは賛成だね。彼は企画力も調整力も専門性も高いし、責任感もある。全部オレより上。でも、すごく忙しそう。給料もオレとほぼ変わらない。ああいう人を会社はもっと評価すべきだね」

完全に他人事である。山田がいるメーカーでは、35歳前後で同期のうち1割程度が群を抜いて出世するという。「オレは9割の群れの1人だよ」と淡々とした口調で語る山田。

年収は約750万円。与えられた仕事はちゃんとやっているつもりだが、もらいすぎかなと思っている。今の目標は50歳までに自宅のローンを返し終えて早期退職し、好きな街で喫茶店を開くことだ。

謙虚というか淡白な山田とは違い、10年近くも独立の野心を温めてきた男がいる。メガバンクで営業事務を担当している北村昭(仮名、37歳)だ。

入社から7年目までは同期の中でもトップクラスだったと自己評価する北村。出世コースと言われる出向先での勤務を史上最年少で経験し、社内では評判の有名人だったと遠い目をする。

「他部署の人に会うたびに『おまえがあの有名な!』という顔をされる。気分良かったね。僕の絶頂期だったよ」

しかし、5年間の本社での内勤を経て、地方支店での営業職に戻されたときから北村の凋落が始まる。

「新人のときに3年間だけ営業を経験したから安心していたんだ。でも、5年間で業務フローが一変していた。担保がなくても融資できる代わりに、条件をきっちりと詰めていかなくちゃならない。正直言って、営業成績は振るわなかったね」

北村がここで「なにくそ」と奮起することはなかった。

「バカバカしいと思っちゃったね。上司は熱っぽくノルマ達成を叫ぶ。くだらないよ。会社のために自分を犠牲にしたくはない。もちろん、表面的には一所懸命やるけどね」

そんな北村の面従腹背を当時の上司は鋭く見抜いた。

「『おまえは言っていることとやっていることが違う。行動に実が伴っていない』とガンガンやられたよ。仕事はできるけどパワハラ野郎だったな。顔も見たくない」

すっかり意気消沈した北村が救いを見出したのは、資格試験の勉強だった。都内に住む妻と離れて単身赴任中のため、自由時間のほとんどを勉強に捧げている。宅建やCPAは取得済み。今、税理士資格に挑戦中だ。

「まだ1科目もクリアしていないけれど、45歳までに合格するつもり。今までの銀行業務もアピールすれば税理士として成功できるんじゃないかな」

夢のような野心を膨らませる北村に、「税理士試験の勉強で得た知識を銀行業務に生かす」という発想は皆無だ。

バンダイの上床はカードゲームの開発、IBMの清水はコンサルタントの人材育成。それぞれ具体的な専門分野を持っている。40歳前後で、業界では誰もが認めるプロフェッショナルになっているか否かが、「中核社員」と「その他大勢」を見分けるポイントなのかもしれない。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(大宮冬洋=文 梅原ひでひこ、田辺慎司=撮影)