業績不振のルネサスエレクトロニクスへ政府系ファンドの産業革新機構と共同でトヨタ、日産、ホンダ、パナソニックなどの日本を代表する製造業が支援を決めた。今回は理想的な企業間協業の形を考える。

■協業における3つの基本方式とは

トヨタ、日産、ホンダ、パナソニックなどの大企業が政府系ファンドの産業革新機構と共同で1000億円を出資し、業績不振のルネサスエレクトロニクスを支援することになった。(※雑誌掲載当時)ルネサスエレクトロニクスは、NEC、日立製作所、三菱電機のシステムLSI事業を統合してつくられた会社で、自動車や家電製品を制御するマイコンを生産している。これら3社がルネサスエレクトロニクスの現在の大株主である。国際競争のせいで厳しい経営状態が続いているため、米国のコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)から1000億円の出資の提案があり、支援策がつくられつつあったが、海外投資家主導で大胆な事業再編を行った場合には一部製品の安定供給が確保できなくなる可能性があるため、顧客企業からの出資が決められたという。この出資の背後には、アセンブリーメーカーと基幹部品の供給会社との間にいかなる協業関係がつくられるべきかという重要な問題が隠されている。この問題は、ホンハイのシャープへの出資騒動の背後にもあった。グローバルな競争で淘汰が進むと、買い手も売り手も少数になってくる。このような状況では、市場での競争を通じてよりよい取引条件を求めるということはできなくなる。市場での競争に代わって売り手と買い手の協業が必要になる。

企業間の協業は大きく2つの方向のものに分けることができる。1つは縦方向の協業である。生産・販売段階の上流から川下までのサプライチェーンにそった協業である。先に例示したような取引関係を含む協業がこの代表例である。日本の自動車産業における部品サプライヤーと組み立てメーカーとの協業、日本のコンビニエンスストア業界における店舗、本部、卸、さらには食品メーカーとの間の協業もこのタイプに含められる。

もう1つは、事業の束化(バンドリング)のための協業である。組み合わせの経済を目指すための協業である。機器事業者と消耗品事業者やサービス事業者との間の協業が横の協業の例である。プリンターだけでなくトナーやカートリッジの販売を束化したキヤノンやエプソン、発電機用のホットパーツの供給を束化した三菱重工、血液分析器と試薬を束化したシスメックスがその成功例だ。そのほかにも、クレジット販売で培ったノウハウを有効利用するためにキャッシングサービス事業に進出した丸井、引っ越しサービスで培った情報を生かすために物販に進出したアート引越センター、ビデオレンタル事業で蓄積した顧客情報を販売促進事業で生かすためにカード事業に進出したCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)などの例がある。これらの例に見られるように、横の協業は、企業内部あるいは子会社で行われることが多い。

いずれの協業にせよ、協業のシステムの設計に当たっての基本問題は2つある。第一の基本問題は、協業の基本的な方式の決定である。協業には3つの基本方式がある。第一は、通常の市場取引を利用した協業である。持続的な協業関係を持たず、協業のたびにもっとも有利な条件を出してくる相手との協働を行うという方式である。電子機器産業では、このような方式が採用される例が多かった。このような方式を協業と呼べるかどうかに疑問があるが、これを協業に含めるかどうかは、協業という概念の定義しだいである。小論では、協業の概念を広く取り、第一の方式も協業の一種と考えることにしよう。第二は、長期契約による協業である。この長期契約には2つの形態がある。1つはフランチャイズ契約のような「文書化された契約」である。もう1つは慣行(あるいは当事者間の暗黙の合意)として存在する「書かれざる契約」である。2つの契約の間には大きな違いがあるが、ともに、関係者の行動を拘束するという機能を果たしているという点では共通している。書かれた契約と書かれざる契約とのもっともはっきりした違いは、書かれざる契約のほうが融通無碍で環境変化への適応力が大きいことである。第三は、買収あるいは合併を通じた組織的協業の方式である。企業間の協業を企業内の協働にするという方式である。この協業の3つの基本方式からいずれかの方式を選ぶことが第一の基本問題である。

■セブン−イレブンにみる利益分配の方法

第二の基本問題は、協業者それぞれの権利・義務についての合意である。その中で焦点となるのは、利益分配の権利と損失負担の義務についての合意である。第一の市場型協業方式の場合は、その都度の契約によって互いの権利・義務が合意される。リスク負担と利益分配に関していえば、関係者はそれぞれ独立にリスクを負担し、利益を獲得する。ここにはサプライチェーン全体の共通の利益という考え方はない。第二の長期契約型協業方式を採用した場合には、将来起こりうる事態について互いが守るべきルールが決められ、そのルールの遵守を担保するための方法についての合意が行われる。第三の組織的協業方式の場合は、リスクは統合した側によって負われ、利益は統合した側が得る。統合された側は、統合の時点で将来利益の分配を受け、統合は、リスクは負わないし、利益の分配も受けない。

第二の方式のもとでの利益分配と損失負担には2種類の方式がある。第一は、一方があまりリスクを負担せず他方がリスクを負うという合意である。一方が他方から手数料あるいはフィーという形で固定的な報酬を得る場合がこれにあたる。第二は、協働で得た利益を双方で分け合うという方式である。コンビニのフランチャイズ契約でも、セブン−イレブンの場合は、粗利益の配分という形をとっている。この方式はより純粋な利益分配の方法に近い。

この利益分配とリスク負担のルールは当事者の仕事への取り組みの真剣さに影響を及ぼす。利益分配を受けている場合には、それは協働利益を増やそうとするインセンティブとなる。リスク負担の義務を負っている場合には、損失を出さないようにしようという動機も生み出されるために、仕事への取り組みはより真剣なものになる。逆に、リスク負担をした場合には、全体の利益よりも、自分自身の利益を優先してしまうという問題が起こりがちである。

実際に、どのような方式が選ばれているか。どの方式がよいかは環境によって異なる。これがベストだというような方式はない、業種による違いがある。電子機器産業では、第一の市場型協業が採用されることが多い。部品の標準化が進んでいるからだ。自動車産業では第二の方式が採用されることが多かったようである。協業の方向の違いも影響す。きわめて大雑把にいうと、縦の協業の場合には、第二の方式がとられることが多く、横の協業の場合には、第三の方式がとられることが多い。シスメクスが試薬を束化する際には、買収という第三の方式を用いている。この典型だろう。

なぜこのような違いが見られるのか。縦型の協業の場合に第二のほうが支配的になる理由の第一は、サプライチェーン全体の利益を考える、売り手も買い手もリスクと利益、協働利益を増やそうとする協業への誘引が重要な意味を持っている。競争淘汰が働く場合には、第一の方式は長期持続が困難であるという理由もある。エレクトロニクス業界で新しい協業の方式が模索されているのは、このためである。

横型の協業で第三の方式が用いられるのは、技術情報や顧客情報の組織的共有が不可欠だからである。さまざまな方式の採用がどのような合理性を持っているかの理論的解析が、学者の間では研究の焦点となっている。それによって、協業の方式の選択のためのより確かな指針も得られるであろう。

(※すべて雑誌掲載当時)

(甲南大学特別客員教授 加護野忠雄=文)