大手メディアでは報じられていないが、民主党政権誕生で棚上げされ、政権崩壊前に消えた幻の構想がある。旧日本陸軍参謀本部の現代版とも称される「陸上総隊」創設構想のことだ。

陸上自衛隊の元幹部が語る。

「陸上総隊創設は1990年代から陸上自衛隊内で検討されてきた“悲願”。2008年、首相官邸に置かれた防衛省改革会議も創設を提言したが、民主党政権誕生とともに棚上げ。今春、君塚栄治陸上幕僚長の判断で総隊創設は先送りされた」

陸上総隊は陸自の全部隊の頂点に立つ「最高司令部」。陸自には現在、全国に5つの方面隊があり、構想では陸上総隊はその上部組織になるはずだった。

「なぜ新たな上部組織が必要とされたか。実は陸自トップの陸幕長には部隊指揮の権限がないのです。5方面隊には1人ずつ総監(陸将)がおり、その下に師団、旅団、戦車群、特化団がある。ところが方面総監を指揮できるのは防衛大臣。陸幕長は指揮できない仕組みなのです。防衛大臣が5人の総監にいちいち命令して、有事に対応できるのか。そこで5方面隊を指揮、統合運用するための組織として陸上総隊の創設が検討された」

しかも空自、海自にはそれぞれ航空総隊、自衛艦隊という総隊司令部があり、総隊司令部がないのは陸自だけだ。

「先の大戦で旧陸軍が暴走した悪夢を教訓に、防衛官僚(背広組=文官)が陸自の権限集中を避けた結果です。しかしテロや中国・北朝鮮の脅威が増す中、陸自が機動的・統合的に動くには総隊司令部創設は避けて通れぬ課題」(某元陸将補)

だが君塚陸幕長は総隊創設に反対した。

「君塚氏は3.11当時の東北方面総監で、当時の火箱芳文陸幕長と連携し、他の方面隊ともども震災対応をこなした。その経験から、君塚陸幕長は“総隊がなくても統合運用は可能”との立場」(同)

ある軍事評論家はこう話す。

「総隊構想では、東部方面隊の廃止など大規模な組織改変が検討された。石破茂大臣当時には、予算削減などを理由に5方面隊全廃も議論された。陸幕首脳陣が総隊創設に反対なのは、ポストや予算削減につながる恐れがあるからでは」

とはいえ、総隊創設を求める声は今も防衛省・陸自内部にくすぶっている。