会社力研究所代表 長谷川和廣氏

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手本のない時代になった――。あなたの仕事人生は今後上昇するか、それとも停滞するか? 2000社の赤字会社を黒字にしたトップが直接アドバイスする!

■上昇:リーダーになる人
停滞:使われて終わる人

うるさい人、細かい人、しつこい人。優秀なチームリーダーの条件はこれらの3つです。どう考えても部下から好かれるタイプではありません。むしろ鬼軍曹と陰口をたたかれるような人。

しかし、小さなミスでもうるさく叱る上司なら、部下もミスを犯さぬよう、慎重になります。重箱の隅をほじくるように細部をチェックされれば、大きな失敗を起こしません。また、しつこく確認する上司なら、部下の報告・連絡・相談も完璧。それで仕事はうまくいくのです。

ですから、管理職として成長していく人の条件をまとめれば、“部下に嫌われても仕事に完璧を期す、腹の据わった人”ではないでしょうか。

――では部下はほめる必要はない?

とんでもない。仕事に完璧を期すためには、部下のモチベーションを上げる必要があります。部下が伸びたなと思ったら、迷わずその部分を指摘して上手にほめるべき。そうすることによって部下は自分の成長を認識し、自信を持ちます。普段は厳しい鬼軍曹にほめられたら、より一層、自分の進歩を実感できます。

それから、リーダーになるためには叱り方もうまくなければなりません。私の場合は、部下を叱りつけているとき何を考えていたかというと、その部下の長所です。叱るときは部下の悪い部分1点のみと決め、また叱った後は24時間に、その部下の長所を、叱った倍の量でほめるように心がけていました。

――経営者の立場からは、どんな管理職を求めるか?

ある経営者が一般の社員1000人に対して管理職1人で仕事が回るならそれが一番儲かると漏らしたことがあります。確かに問題がないなら給料が高い管理職の代わりに一般の社員を3人増やせばその分、生産量は上がる計算になります。しかし現実にそうはならないのは、管理職には管理職の役割があり、その役割を100%全うすれば、効率のいい業務が遂行できるはずだからです。

しかし管理職の役割を本当にわかっている人は、それほど多くありません。部下の教育、他部署との折衝、経営方針の伝達など仕事は多岐にわたります。それ以上に重要なのは“部下を本気にさせる能力”です。10人いる部下のモチベーションを高めて、目標の3割増しの業績を上げてこそ、はじめて管理職のいる意味が出る。それができるかどうかがリーダーへの分岐点でしょう。

■上昇:成果を挙げる人
停滞:結果を出せない人

最近特に、多くのビジネスパーソンから“簡単に成果を出す近道はありませんか?”と聞かれます。そんなときの私の答えは、“まずその考えを捨てることが第一歩ですよ”と言っています。

――効率よく利益を挙げることを考えるのはいけないのか?

もちろん企業レベルでも個人レベルでも効率を考えることは重要。しかし、それが度を越すと、必ず落とし穴にはまります。現に私が請け負った赤字の再生会社の多くは近道や抜け道を探し、ラクに儲けようとして顧客や世間の信用を失っていました。利益を最大化しようと、品質管理の手順を減らして不良品を頻発したり、強引な営業で取引先からソッポを向かれたり、あからさまな帳簿操作で銀行の信用を失ったり……。

だからこそ、成果を挙げるためには抜け道などないと腹をくくり、丁寧に根気よく実績を積み上げることを真っ先に考えなくてはならないのです。そしてその努力はやがてブランド力になり、大きな成果をもたらすのは企業も人も同じです。

――この時代でも、成果を挙げる人は愚直に努力を重ね、頑張れる人なのか?

むしろ、この時代だからこそではないでしょうか。中国人や韓国人は、日本の圧倒的な品質管理能力に劣等感さえ持っているというのが、私の正直な実感です。これは日本というブランドの大きなアドバンテージです。中国の富裕層が日本から輸入した野菜しか食べないというのは、海外の人がいかに日本の品質管理を信頼しているかの証拠。しかし成果を急いでそういう長所をないがしろにすると、せっかく築いたブランド力を失ってしまう。結局、愚直に精度の高い仕事を目指すことが、成果を出すコツなのです。

――赤字会社が成果を出せないのは、やはり近道を考えるから?

近道が原因で傾いて、何とか立て直そうとしているが、成果が出ないというケースも多い。ブランド力が落ちているというのも一因ですが、そういう企業の経営陣というのは一所懸命動いているのだけど結果につながらない。というのは経営計画書もなしに遮二無二、動き、ヤマカンや皮算用で行動しているからなのです。

成果を挙げるには成果を挙げるためのレシピを考え、それを忠実に実行する必要があるのに、場当たり的に動き回るだけ。これでは結果が出ないのは個人レベルでも同様です。まず結果から逆算して自分が今日、何をすべきかを論理的かつ合理的に思考できるかどうかが、成果を掴めるかどうかの分水嶺になるのです。

■上昇:時代を変える人
停滞:時代に呑み込まれる人

今日でこそ、外資系企業を渡り歩く生き方は珍しくなくなりました。しかし終身雇用が当たり前の当時は、私のような生き方モデルは皆無。まさに手本がない状態でした。そんな私が着実にステップアップしていくことができたと思うのは、常に自分の1年後の姿をイメージしながら仕事をしてきたからです。

これは再三、部下への手紙にも書いたことですが、1年後の自分をイメージすることによって、今の自分には何が足りないのか、どういうスキルを持てばイメージ通りの自分になれるかがわかってきます。

ところがほとんどの人は、目先の仕事に追い回されているだけで、未来を見つめていません。しかしこの手本がない時代だからこそ、1年先、半年先の自分を明確にイメージしていないと時代の荒波に呑み込まれてしまいます。それほど、状況の変化が激しい時代なのです。

――そういうお話を伺うと、どうしてもネガティブな気分になってしまうが?

いやむしろこの時代こそ、自分を鍛えるチャンスだと思ってください。西洋には“荒波だけが優秀な船乗りを育てる”ということわざがあります。また、高校野球や高校サッカーなどは勝ち残っていくチームの選手はどんどん成長します。激戦のなかを生き延びていくほど、人は成長する。ギリギリの勝負をするためには、自分の全身全霊をかけて戦わなければなりません。例えそこで力尽きても、『自分の力で戦ってきたという実力』が身につくのです。

ところが、戦わないですまそうとする人は、停滞するどころか、落ちるところまで落ちていく。いざというとき、戦う自信と気力が養われていないから、踏ん張ることができないのです。

――では最後に、この時代を生き抜くために1人ひとりが持たなければならない一番大事なメンタリティは何か?

“ひと花咲かせてやろう”という欲を持つこと。今の地位にしがみつこうとする依存心を捨て去ること。そして前向きな成功のイメージを持って、人生を切り開いていく――そんな気概を持った人が大きく伸びていくでしょう。減点主義で差をつけた時代は終わりました。これからは何が何でも、利益やシェアを奪い取ってくる社員が勝ち組かもしれません。あなたは日本で2番目に高い山を知っていますか。これは山梨県の南アルプスにある『北岳』で標高は3193メートル。かなり高い山ですが、みな、一番高い富士山しか知らないのです。若い現役の皆様には、この不況の波を上手に乗り越えて、一番を目指していただきたいと思います。

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会社力研究所代表 長谷川和廣(はせがわ・かずひろ)
1939年、千葉県生まれ。中央大学卒。十條キンバリー、ゼネラルフーズ、ジョンソン等でマーケティングを担当。その後、ケロッグジャパン、バイエルジャパン、バリラックスジャパンなどで社長を歴任。2000年ニコン・エシロールの代表取締役就任。50億円の赤字を抱えていた同社を1年目で営業利益黒字。2年目で無借金経営に変貌させた経営手腕が高く評価される。

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(会社力研究所代表 長谷川和廣 取材・構成=宇野 晃 撮影=鷹尾 茂)